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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
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46. 初めての旅行②

 宿泊予定のグランピング施設は、自然豊かな山の中にあり、大小さまざまなサイトと呼ばれるキャンプテントがある。

 今日はそのサイトを2部屋予約していた。もちろん、男女別の部屋だ。

 しかし女子が3人に対して、男子は5人と多いので、男子部屋は施設の中でも一番大きいサイトを借りた。


 キャンプテントといっても普通のテントとは違い、その形はドーム型で丸くなっており、誠や隼斗のように180cm以上ある人でも狭苦しさを感じないほど天井は高く、部屋には人数分のベッドのほかに、ソファーとテーブル、小さめの冷蔵庫、照明器具、エアコンなど、普通のホテルとほとんど変わらない造りになっている。


 そして、明日香が予約する際に一番気に入ったのは、プロジェクターとプラネタリウムが備え付けられていることだ。

 これがあればみんな退屈しないで済むし、プラネタリウムで星空観察もロマンチックでいいなぁと考え、ほぼ即決で決めた。


 女子部屋は男子部屋に比べて小さめだが、それでも十分な広さと快適さがある。

 ただし、どのサイトも水回りは備え付けられていないので、手洗いと洗面所、炊事場は施設内にある共同のものを使用し、お風呂に関しては、グランピング施設の道路を渡ってすぐの温泉施設を利用しなければならない。

 そこが不便といえば、不便かもしれないが、日常を忘れて過ごすにはとてもいい環境であった。


 午後2時。先にグランピング施設に到着したのは、いまは隼斗が運転する車だった。深尋に電話をすると、あと10分程で到着するそうなので、隼斗を車に残し、僚と明日香、市木の3人はチェックインのため受付に向かった。


 施設のスタッフから一通りの説明を聞いた最後に、


「夕食で使用するお野菜は、こちらから必要な分お持ちください」


 と案内されたため、3人はかごに入れられたたくさんの野菜を見る。


「うわぁ、どれも新鮮でおいしそう・・・」

「俺は明日香ちゃんが作ってくれるなら、なんでも美味しく食べるよ」

「あれ? 確かお前、野菜嫌い・・・」

「あーーっあーーっ、んんんっ。葉山、うるさいよ?」

「市木くん、お医者様になるのに野菜嫌いは・・・」

「ち、ちがうっ。今日から好きになる予定だからっ」


 そうして騒いでいると、深尋と竣亮が受付の棟に入ってきた。


「あはは、やっぱり揉めてるー」

「深尋。受付終わったよ」

「ありがとー」

「僚くん、市木くん。またケンカしてるの?」

「ケンカじゃないよ。本当のことを言っただけ」

「そうだよ竣くん。葉山とはちょっとした意見の食い違いが・・・」

「ねぇ! 部屋に行くよっ」


 明日香に声を掛けられ、やっと部屋へ行く一行。まだまだ一日は長い・・・。


 施設の人が気を使ってくれたのか、男子が使用するサイトと、女子のサイトを隣同士にしてくれていた。車は各サイトに1台ずつ横付けできるため、荷物の出し入れも簡単で楽なのもイイ。

 そして全員が待望のテントの中に入る。


「すっげー・・・・・・」

「ひろーい。天井たかーい」

「これがテント? 豪華だな・・・」


 などと、みんな感嘆の声が止まらない。

 サイトの一つ一つには広い木製のウッドデッキがあり、その上にバーベキューコンロや椅子、テーブル、焚火が出来るスペースが備え付けられている。それを見るだけでワクワクと胸を躍らせていた。


 しかし、そうそうのんびりもしていられない。季節は3月。まだまだ日が暮れるのが早く、ましてやここは山の中。明るいうちに夕飯の準備などを済ませておきたいと明日香が言い出し、少し早めのバーベキューの準備をすることになった。


 先ほど受付をした棟へ行き、夕飯の材料と調理器具を受け取る。荷物持ちは当然男子の役目だった。そしてもう一つ大きな仕事が。それは火起こしだ。


 特に市木は、明日香にいいところを見せようと張り切ったが、当の明日香は野菜を調理するため炊事場へ行ってしまったため、それを見ることはなかった。つくづく可哀想な男である。


 夕方5時。あたりはすでに薄暗くなり、バーベキューの準備も整ったところで、肉を焼き始めた。


 ジュージューと美味しそうな音を立てて焼ける肉に、もくもくと立ち昇る煙。日が暮れると冷え込んできたため、焚火も起こすことにした。

 お肉はみんなで交代で焼いていて、いまは竣亮が担当している。


 女子3人で焚火を囲みながらお肉を食べていると、


「深尋のとうもろこし、大丈夫ー?」


 と竣亮が声を掛けてきた。

 それを聞いた深尋は「ぎゃっ!」と言って、慌ててコンロの方へ走って行く。

 するとその空いた席にすかさず市木が座り込んできた。


「明日香ちゃん、食べてる?」

「あ、うん。食べてるよ。市木くん野菜は?」

「食べてるよ~ほら」


 褒めてほしそうに市木が見せてきたのは、厚めに輪切りにされたコーンとジャガイモだった。


「うーん・・・もうちょと赤いのとか、青いのも食べないとだね」

「じゃあ、今度明日香ちゃんが作ってご馳走してくれたら食べるよ」

「それは・・・・・・」


 明日香は美里に助けを求めようと横を見ると、美里がいない。たぶん、美里的には気を使ったつもりだろうが、とんでもない間違いだ。


「お前また、明日香にちょっかい掛けてんのか」


 呆れた顔をしながら、僚が明日香の左隣に座る。

 自然と明日香は、僚と市木に挟まれてしまった。


「出たよ。番犬2号」

「番犬で結構。隼斗も言ってるけど、お前ホント諦めの悪い奴だな」

「そういう葉山こそ、なんで俺の邪魔ばっかすんのっ」

「俺は、明日香が嫌がっているから助けに来ただけ」


 明日香を挟んで口撃しあう2人。傍から見れば羨ましい構図かもしれないが、明日香にしてみれば片や失恋した相手、もう片方は振った相手と、地獄でしかない。


「わ、私っ、お肉取ってくるっ」


 とうとう我慢できず、明日香は深尋と竣亮がいるコンロへ逃げる。

 その様子を見ていた隼斗が、2人のもとに茶化しに来た。


「やあやあ、お2人さん。明日香の双子の分身、隼斗くんの顔でも見て元気出してっ」


 隼斗は市木と僚の肩にポンと手を置くと、両方から「はぁぁぁぁっ」と大きなため息が聞こえた。


「あっはははー、明日香大変だねー」

「笑い事じゃないよ。助けてよ」

「見てて面白かったよ」

「面白がらないで」


 すると竣亮が、


「はい明日香、これ焼けてるよ」


 と言って、お肉と野菜をバランスよく皿にのせる。


「竣亮ぇ・・・竣亮は私の癒しだよー・・・」

「僕でよければいくらでも癒してあげるよ」

「!!」

((この小悪魔めっ!!))


 明日香となぜか深尋は、最後に竣亮にしてやられてしまった。


 そして、もう一方のテーブルでは。


「なぁ立花さん。高1の時のクラス会やるって聞いた?」

「あ、うん。聞いたよ。隼斗くん行くの?」

「まぁ、とりあえず竣亮と顔だけは出そうかなって思ってる」

「美里は行くのか?」

「私も顔だけ出そうかなって・・・」

「うん、そうしろ。美里、なるべく隼斗と竣亮のそばにいろよ」

「誠、そんなこと言ったら俺ホントに番犬だぞ」

「ちがうのか?」

「ちげえよっ!」


 隼斗は最近、市木から番犬と呼ばれても抵抗しなくなった。と言うより、もう諦めた。だから誠は、隼斗が番犬であることを受け入れたのだと思ったのかもしれない。


「そんなに立花さんが心配なら、お前も来たらいいじゃん」

「いや、それはさすがにおかしいし・・・。それに美里には羽を伸ばしてほしいからな」

「はあ? 俺と竣亮を虫よけに使おうとしているのにか?」

「それとこれとは別だ」


 隼斗は美里にこそっと耳打ちする。


「立花さん、あいつ重くない? 大丈夫?」

「うん、大丈夫。いつものことだよ」

「そ・・・そっか・・・・・・」


 世の中にはいろいろな形の恋人がいるんだなあ、と隼斗しみじみ思う。


 そして、明日香のいなくなった焚火には、そのまま僚と市木が座っていた。


「市木、真面目に答えてほしいんだけど・・・・・・」

「なに?」


 市木は皿の上にあるジャガイモをつつきながら返事する。


「明日香のこと、まだ本気なのか?」


 じっと市木を見つめる僚。


「・・・・・・確かに付き合えたらいいな~くらいには、好きだよ。それだけ」

「それだけ? 本当か?」

「それ以上何があるんだよ」


 今度は市木が僚を見つめる。


「最近のお前の明日香に対する態度は、好意を通り越して執着しているように思って・・・違うか?」


 僚にそう言われ、市木はどう言おうか考える。


「あのさ、本当に俺の勘でしかないけど、ある日突然いなくなってしまうんじゃないかって思ったんだ。だから・・・」

「いなくなるって・・・・・・?」


 市木が言わんとしていることが、僚にはわからなかった。


「葉山、いつもそばにいた大切な人が突然消えてしまったら、お前はどうする?」

「市木・・・何言ってるんだ?」

「いま言った言葉そのまま覚えていて。俺の勘が外れてくれたらいいけどな」


 それだけ言うと、市木は持っていた皿を片付けに行ってしまった。

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