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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
46/111

45. 初めての旅行①

 旅行当日の朝。僚と誠がレンタカーを運転してマンション前に到着した。


「明日香ー楽しみだねっ」

「私は楽しみ半分、不安半分かな・・・」


 荷物を積み込みながら、そんな言葉が出てくる。荷物と言っても1泊だけなのでそんなに多くはない。


 これから僚が運転する車で市木を迎えに行き、誠は美里を迎えに行って、現地で合流するという流れになっている。

 バーベキューの材料や道具は全てグランピング施設で調達できるので、特に買い出しなどはしなくても事足りるようだ。


「じゃあ、安全運転でお願いします」

「またあとでな!」


 そうして2台の車は出発した。



~誠チームの車内~


 誠は美里の家に向けて快調に進んでいた。


「ねー誠って、美里ちゃんの家族に会ったことあるのー?」


 後部座席から深尋が聞いてくる。


「おう。結構頻繁に会ってるぞ」

「えぇっ。家族公認⁉」

「まぁ公認かどうかは知らんけど、行けば普通にお茶とか出してくれるし、ご飯をごちそうになることもある」


 あまり聞かない誠と美里の交際内容に、深尋も竣亮も興味津々だ。


「立花さんのご両親に、僕らの仕事のことは話したの?」


 今度は深尋の隣に座っている竣亮が尋ねる。


「話そうかと思ったこともあるけど、まだ話せてない」

「どうしてー?」

「どうしてって・・・」


 そう言われて誠は黙り込む。そして少し思案したあと、ゆっくりと話し始めた。


「この仕事って、今はいいかもしれないけど、この先の保証が全くないだろ。俺は美里と別れるつもりはないし、ちゃんと先のことまで考えている。だから、美里の家族に胸張って任せてくださいって言える準備をしてからじゃないとな・・・」


 普段聞けない誠の気持ちに、深尋と竣亮は胸が熱くなった。


 ずっと一緒にいたから気づかなかったが、今年で全員20歳になる。10年前とは違い、大人になって、愛する人と結婚し、家庭を持つのもそう遠くない話だ。みんな一歩ずつその階段を上っている。

 誠はそのための準備をもう始めていたのだ。


「誠、すごいね。ちゃんと先のことまで考えて。僕はまだ自分のことで精いっぱいだから・・・」

「俺も美里がいなかったら、そんなこと考えもしなかったよ。竣亮も、守りたい人が出来たらそうなるよ」

「そうかな・・・そうだといいな・・・」


 竣亮に守りたい人ができるのは、そう遠い未来ではないかもしれない。


「ねー私はー? 私のこと守ってくれる人って、現れるのかなー?」

「深尋は・・・・・・」


 誠も竣亮も、何と言っていいかわからなくなる。こんな時はいつも、僚や隼斗が適当にごまかしてくれるから、自分たちにお鉢が回ってくると、その立ち回り方がわからない。

 そして捻りだして答えた結果、


「深尋は元木さんじゃなくて、もっと現実を見ろ。話はそれからだ」


 (by誠)だった。



~僚チームの車内~


 一方、市木の家に向かっている僚たちは、あと少しで市木の家に着くころだった。


「明日香、悪いけどあと5分で着くって、市木に連絡してくれないか」

「あ、うん」


 僚にお願いされて、明日香は市木に電話をかける。


『おはよ~明日香ちゃん』

「あ、市木くん? おはよう」

『朝一番に明日香ちゃんの声が聴けるなんて、幸せだな~』

「おい市木、あと5分で着く。さっさと出てこい」


 ブツッ。隼斗が言うだけ言って電話を切ってしまった。

 明日香はこの先が思いやられる気がして、憂鬱な気分になる。


 そして5分後、隼斗と明日香は度肝を抜かれた。

 市木の家は総合病院を経営していると聞いていたが、その自宅の外観は大変立派なものだった。


 まず、果てしなく続く塀に驚かされ、門構えは和風門で屋根瓦になっており、時代劇にでも出てきそうな雰囲気を醸し出している。

 自宅も豪華な日本家屋らしく、僚曰く「どこかのお城みたい」だそうだ。

 その立派な門から出てきたのが、チャラい男・市木だった。


「あ~ちょっと番犬くん! きみチェンジ! 俺、明日香ちゃんの隣がいい~!」

「うるせぇ! わがまま言うなこのボンボンがっ。置いていくぞ!」

「市木くん、とりあえず乗って?」

「うう・・・明日香ちゃん・・・」


 市木が渋々助手席に乗り、やっと目的地に向けて出発した。



~誠チームの車内~


 美里も合流し、こちらも目的地に向け出発する。


「そういえば美里ちゃん、誠に見せてもらった?」

「なにを?」

「ほら、女子会で言ってた動画」


 深尋は美里がデビュー後のbuddyの動画を見たことがない、と言っていたのを思い出した。


「え? 動画って・・・?」

「ほら、誠。私たちがいつも共有してるレッスンの時の動画だよ。デビュー後のは見たことないって美里ちゃんが言ってたからさー」

「ああ・・・・・・」

「誠くん、別に見せたくないなら無理しないでいいからね?」


 美里は誠を気遣って言った。


「いや、べつに。無理ではない。ただ・・・・・・」

「ただ?」

「・・・・・・なんか恥ずかしいんだ。見られるのが」


 これには3人ともビックリだ。いつも飄々としている誠に、こんな感情があったなんてと、目を丸くする。


「でも、誠が一番ダンスがうまいんだから、恥ずかしがらなくても・・・・・・」

「そんなのずいぶん昔の話だろ? 今はみんな上手くなってるよ」


 ちょっと前までは誠がみんなのお手本になることが多かったが、今では全員同じくらい踊れるようになっている。だから、一番上手いともてはやされるのが恥ずかしかったのだろう。案外可愛いところもある誠だった。


「でも私、動画もいいけど、早くみんなのそのダンスというか、パフォーマンスを生で見てみたい」

「!!!」


 それはファンの切実な願いだろう。全員それはわかっている。

 竣亮は特に、葉月という熱烈なファンが身近にいるため、最近は嫌という程痛感していた。


「そうだな。俺も早く美里に見てもらいたい」


 誠は前を向いたまま、美里の頭にポンと手をのせた。



~僚チームの車内~


 僚たちは目的地まで残り半分の道の駅で休憩していた。

 車内は相変わらず隼斗と市木の応酬が繰り広げられており、僚と明日香は仲裁するのも疲れ、辟易していた。

 明日香がお手洗いから出ると、自販機の前に僚が立っている。


「僚、運転お疲れさま」

「ん? ああ、はは。運転はそんなに疲れないけど、あの2人に疲れたな」

「あれでも前よりは仲良くなったんだよ?」

「あの2人はああやって言い合っているのが丁度いいんだろ」


 いまも車のそばで、なんだかんだ2人で話しているのを見て、僚が疲れた声を出す。

 そしてミネラルウォーターのボタンを押すと、もう一度お金を入れて、


「明日香、好きなもの押していいよ」


 と、笑顔で言ってきた。僚のその顔を見た瞬間、明日香はいままで我慢していた胸の高鳴りが一気に押し寄せて来るのがわかった。


(しばらく考えないようにしてたのに・・・・・・)


 急に意識したため、顔が赤く火照っているのが自分でもわかる。それを僚に見られないように俯くと、腰を屈めて顔を覗き込まれた。


「どうした、大丈夫か? 顔赤いけど」

「あ、あははっ大丈夫。あの、それじゃ頂きます・・・」


 ピッと明日香も同じミネラルウォーターのボタンを押す。

 真っ赤な顔はしばらく治まりそうにない。


 その2人の一部始終を、隼斗と市木は少し離れた場所からずっと見ていた。


「ちょっと、番犬くん。あの2人見てよ、イチャイチャしちゃって。番犬くん的にあれはいいの?」

「んー? まあ、僚だしいいんだけどさ・・・・・・」

「なんだよ。俺のことは必死に止めるくせに」

「お前と僚じゃ大違いだろ。あいつ、女のことは真面目を通り越して、潔癖すぎるくらいだからな」

「そうなんだよね~。あれだけモテるんなら、選び放題、遊び放題なのに、もったいないよね~」

「お前は清々しいくらいの女好きだな」

「そういう番犬くんもでしょ~」


 このこの~と、市木が隼斗を人差し指でつつく。


「ばっ・・・! 俺はお前みたいに女好きでも、僚みたいな潔癖でもねぇっ! 普通だっ!」

「でもさ、番犬くん。葉山って意外とむっつりだぞ」

「あっ、そう思う? 俺も・・・」

「誰が何って?」


 隼斗と市木の後ろから、僚が半笑いで睨んでいる。明日香は聞こえていなかったようで、何のことだかさっぱりわかっていなかった。


 そして僚は車のキーを隼斗に渡し、「運転交代」を命じた。


 こうして2台の車は、本日の目的地である山の中のグランピング施設へと順調に進んでいく。

 まだまだ旅行は始まったばかりだ。

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