44. 旅行計画
2回のコールで隼斗が電話に出る。
「もしもし、隼斗?」
『んあ? どうした?』
「いまどこ?」
『部屋にいるけど・・・』
「今から私の部屋に来てほしいんだけど」
『え、だって今日お前、女子会って言ってなかったっけ』
「うん。ちょっと相談したいことがあるから」
『まあ、別にいいけど』
「あと、僚と竣亮と誠ってどうしてるかわかる?」
『誠と竣亮はさっきまで俺と一緒に飯食いに行ってて、一緒に帰ってきたから部屋にいると思う。僚はわかんね』
「そっか・・・できれば3人も連れてきてほしいんだけど」
『僚はいるかわからんけど、とりあえず部屋に行ってみるよ』
「うん。お願いね」
そして通話は終了した。
女子3人は男の子たちが来るというので、テーブルを片付けし始める。
明日香が電話を切っておよそ15分。
「ねえ、遅くない?」
「同じマンションの同じ階なのにね」
不思議に思っていると、玄関の向こう側でざわざわとうるさい声が聞こえてくる。
「あ、来た」
深尋の声と同時にピンポーンとチャイムが鳴り、インターフォンのモニター画面を見ると、何やら騒がしい。
その様子を見た明日香は、急いでドアを開けに行く。
「ちょっと、なに騒いで・・・」
「やっほ~明日香ちゃんっ。お待たせっ」
なぜか楽しげにしている市木が入ってきた。
「市木くん⁉」
明日香が驚いていると、後ろから僚が謝りながら顔を出す。
「ごめん明日香。こいつ今日うちに遊びに来てて・・・」
「明日香ちゃんのお部屋にまたご招待してくれてうれしいな~」
「おいっ市木! お前は呼んでねぇ!」
「やだな番犬くん。君と俺は心の友じゃないか」
相変わらず揉める2人。明日香ははぁ・・・とため息を吐いて、
「とりあえずうるさいから、全員入って」
と、予想外の男子5人を招き入れた。
いくら広めの1LDKといっても、180㎝超え2人、178cm2人、175cm1人の男5人が入ると、だいぶ狭く感じる。
ガラステーブルを囲むこともできないので、みんな好きなように床に座り込んでいた。
「明日香、相談って?」
隼斗が切り出す。が、市木がいることは想定外なので、明日香はどうしようと考える。しかし天真爛漫の申し子である深尋が、あっさりと計画をバラした。
「3月の14日と15日って休みでしょ? みんなで旅行でもどうかなって話してたの」
明日香もバラされたのは仕方ないと腹を括る。
「みんなで旅行って行ったことないから、どうかなって」
「確かに、みんなで旅行とか行ったことないね」
「しいて言えば、中3の夏に海水浴に行ったくらいか」
「海水浴⁉ 葉山お前、明日香ちゃんの水着姿を見たのか⁉」
「なんで俺だけに言うんだよ。竣も誠もいるだろ」
「でも、あの時の水着って、ほぼ服に近かったような・・・?」
「市木くーん。ビキニはね、私たちの鬼マネージャーにダメだって言われたのー。足も腕もお腹も出しちゃダメって言われてさー」
「さっすがbuddyのマネージャーだなっ。有能すぎる」
「市木、お前しれっと会話に参加してるけど、行く気か?」
「当たり前じゃん! なんで仲間外れにするの⁉」
「いつから仲間だよ・・・・・・」
「市木、その他大勢の女の子たちはいいのか?」
「ち、ちょっと、葉山っ! 俺は明日香ちゃん一筋っ! 変なこと言わないでくれるかな~」
「市木くん、無理なら別に・・・」
「明日香ちゃん、無理じゃないよ~。明日香ちゃんと一緒ならどこへでも行くし~」
「お前、まだ明日香のこと諦めてないんだな。たいがいしつこいぞ」
「失礼だな、番犬くん。一途だと言ってほしいね」
「その割にはこの間別の女の子と・・・・・・」
「だーーっもう! 俺の話はいいから、旅行の話! 葉山こそ予定はないのかよ」
市木のその言葉に、一同しんっと静まる。
「え・・・あ、俺? 別に何も予定ないけど?」
明日香はその言葉を聞いて、内心ホッとする。
「おいおい、モテ男がホワイトデーに何の予定もないの?」
「別にいいだろ。それより竣と隼斗は? 大丈夫なのか?」
僚に尋ねられた2人も、あっけらかんと答える。
「僕も特にはないよ。逆に何しようか考えてたくらい」
「俺もなーい。明日香が買い物行きたいって言ったら、車を出そうかと思ってたくらいだなぁ」
それを聞いた市木は、急に悲しそうな顔で男たちを見る。
「なんか・・・君たち、こんなに売れてるのにそんなに地味でいいの? 芸能人とかってさ、もっとこう、パーっと華やかで、煌びやかでってイメージなんだけど、全然だね」
そう言われても、6人はピンとこない。顔を出していないから普通の生活が送れているのは確かだが、自分たちの全てを公表した後のことは全く想像が出来ないでいた。
「そしたら全員OKってことで・・・・・・」
「おい、明日香。なんで俺には聞かないんだ?」
これまでずっと黙っていた誠が初めて口を開いた。
「え、なんでって、美里が行くなら誠も行くでしょ?」
「そうだよー。だいたいこれを言い出したのは美里ちゃんだしー」
「ほんとか? 美里」
誠に尋ねられると、美里はうん、と頷く。
「だって、もし誠くんたちが顔を公表したりしたら、みんなで旅行に行くなんてなかなか出来ないだろうし、せっかくだからみんなで思い出作りにどうかなって思って・・・ダメかな?」
美里が上目遣いで誠にお願いをする。
「・・・わかった。美里が言うならいいよ」
今日も美里の圧勝だった。
それを見て明日香と深尋は思った。
(美里って猛獣遣いの女王様だね・・・)と。
「旅行って言っても、1泊2日だからそんなに遠くはいけないね」
全員が行くとなれば、今度は旅行先を決めなければならない。それが総勢8人となれば、決めるのにも時間が掛かる。と、思われたが。
「なんかー、ずっとレッスンとかお仕事続きだから、温泉に入ってゆっくりしたーい」
「温泉か~。それもいいね~」
「ねぇ、こういうのはどう?」
明日香がスマホを見せてくる。
「えぇっ、テントの中なのに、ちゃんとベッドもある」
「へぇ、おもしろそうだね」
「これ知ってる。グランピングってやつでしょ?」
「深尋、ここ温泉もあるみたいだぞ」
「そうなの⁉ スゴイっ」
「プラネタリウムもあるって書いてる」
「ロマンチックだねー美里ちゃんっ」
「う、うんっ」
「ご飯はみんなでバーベキューか・・・いいね」
「じゃあ、グランピングでいい?」
いとも簡単に、揉めることもなくグランピングに行くことに決まった。
「ここなら車で3時間くらいだし、距離的にもちょうどいいな」
僚が場所を確認しながら言う。
「でも8人だと、車は2台借りた方がいいかもな」
「うん。それは僚たちに任せてもいい? 私はペーパーだし・・・」
「明日香ちゃん、任せて。俺もいるから!」
意気揚々と市木が胸を張る。
「あ、市木くんも、免許取ったんだ?」
「当たり前じゃんっ。だから今度2人でドライブに・・・」
「ねーねー車に乗るグループ決めよー」
「深尋ちゃん・・・・・・」
市木のアタックを見事に潰す深尋。隼斗と僚は心の中で「いいぞ! 深尋!」と、初めて心から深尋を応援した。
「車は2台借りるから4人ずつとして、まず、誠と美里でしょ」
明日香がノートに名前を書きだしていく。
「あと、運転できるのは・・・」
「明日香、僕は誠の所に入るよ」
竣亮が名乗りを上げる。
「うんわかった。そしたら・・・」
「俺は明日香ちゃんと一緒がいいっ」
「お前っ! だったら俺も明日香と同じ車だっ」
「番犬くんはまこっちゃんのとこいきなよ~」
「まこっちゃん?」
そう。と言って、市木が誠を指さす。
「誠のことをそういう風に呼ぶ奴、小学校以来だな」
「お前医大生のくせに、頭は小学生なんだな」
「おいっ、葉山も番犬くんもひどいよっ」
「明日香ー。私も美里ちゃんと同じ車に乗るー」
「え? 深尋・・・」
「だって、市木くんをコントロールするのは僚と隼斗がいなきゃでしょ? 私じゃ無理だもん。それに、こっちの方が落ち着いているしねー」
明日香は確かに・・・と思った。絶対、誠と竣亮の運転する車の方が、快適に過ごせる、と。
「じゃあ、それで決まりだね~」
市木が勝手に決定を出す。話し合いの結果、誠、美里、竣亮、深尋のグループと、僚、明日香、隼斗、市木のグループに分かれることになった。
旅行まで約2週間。楽しみなような、気が重いような、そんな矛盾した感情でその日を迎えることになる。




