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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
43/111

42. 生きる希望

※このお話の内容にはイジメに関する記載があります。苦手な方、心苦しい方はご遠慮ください。このページを読まなくても、話の流れは理解できるようにいたします。

 まだまだ寒さ厳しい冬。竣亮は大学の図書室にいた。

 座る場所はいつも決まっていて、日中は日差しが差し込むカウンター席の一番左端がお気に入りだった。


 今日はそこで、授業に必要な調べ物をする。

 何冊か資料の本を抱えて席に戻ると、竣亮から2つほど席をあけて女性が座っていた。

 その女性の傍らには、buddyのロゴステッカーが貼られたスマホが置いてあり、それを見た竣亮は思わず「あっ」と声を出す。


 場所が図書室ということもあり、かなり声が大きく聞こえたのだろう、その女性がすぐ振り向き、竣亮と目が合う。


「なにかありました?」


 その女性は、先日も同じ席に座っていた女性だった。眉よりも少し高い位置できれいに揃えられている前髪に、肩にかかるくらいの栗色の髪の毛は、毛先が外側にくるんと巻かれている。


 思いっきり目が合って「何もない」はないなと思い、竣亮は勇気を出して話し掛ける。


「あ、あの・・・そのステッカーが目に入ったので、つい・・・・・・」


 図書室なので、コソコソと小声で話す。するとその女性に、


「buddyを知ってるの?」


 と聞かれた。

 さすがに「本人です」とは言えず、


「はい・・・」


 とだけ答える。すると女性はおもむろに、自分が持っていたノートにさらさらと何かを書くき、そしてそれを竣亮に見せてきた。


 そこには『勉強が終わったら、時間ある?』と書かれており、それを見て竣亮はその女性にコクンと頷く。


 1時間後、竣亮は調べ物が終わると女性の元へ行き「終わりました」と小声で声を掛ける。

 するとその女性はこっちと指をさし、竣亮についてくるよう促す。


 女性のあとについて図書室を出ていくと、その女性はクルッと竣亮の方を向き、目を輝かせながらやや興奮気味に竣亮に迫ってきた。


「あなたもbuddyのファンなの⁉」

「あ・・・は、はい・・・・・・」

「キャーッ! うれしいっ! 初めて生でbuddyのファンに会えたわ!」


 想像以上の喜び方に、竣亮は圧倒される。


「ね、ね、デビュー曲の『さよならいつか』って曲、サイコーよねっ。切なくて泣けてくるし、私あの曲で一気に好きになっちゃってっ! あ、あと『さくら舞う夜』もいいし『Sapphire(サファイア)』もかっこよくてはずせないし、あなたは何の曲が好き⁉」

「え、えーと・・・僕は『Sunshineサンシャイン driveドライブ』とかかな」

「・・・やだ、あなた・・・私と同じくらいのbuddyファンじゃないっ! 確かその曲って、この間発売されたアルバムにしか入ってない曲でしょう⁉」


 あまりの熱烈っぷりに、竣亮はもうやけくそだった。


「そ、そうだね・・・・・・」

「あのアルバムもほんっと、サイコーよねー。発売されてから、何十回と聞いたわぁ。ああ、こんなに素敵な歌を歌っている人がどんな人なのか、気にならない⁉」


 この日一番困る質問をされた。

 だけどその女性は話に夢中で、竣亮の返事など待ってはくれない。


「でもね、いまは学業優先で顔を出されなくても、いつかきっと、私の前に現れてくれると信じているの」


(いま目の前にいますよー)


 とは絶対に言えない。


「ものすごい応援しているんだね」

「そうよ、当たり前じゃない。私、buddyに救われたの。buddyがいなかったら、いまの私はいない」


 女性はそう言うと、竣亮に強い眼差しを向けた。


「あ、あの、僕、文学部1年の国分竣亮と言います。あなたのお名前を聞いてもよろしいですか?」

「偶然ね。私も同じ文学部2年の河野葉月(こうのはづき)よ。よろしくね」


 竣亮と葉月はお互いの自己紹介を済ませ、やっと図書室の前から歩き出す。竣亮はそのあとをついていった。


「あの、buddyに救われたって・・・・・・」


 今日初めて話したのに聞いていいものか悩んだが、自分たちが彼女にどう影響を与えたのか気になり、竣亮は堪らず聞いてみる。


 歩いて行った先の中庭のベンチに腰掛け、葉月が竣亮に隣に座るようポンポンと叩く。そして先ほどの興奮とは打って変わって、ゆっくりとした口調で話し出した。


「私ね、中学から高校2年までずっとイジメにあっていたの」


 それを聞いた竣亮は、


「あ、あの、話したくなければ別に・・・・・・」


 と言って止めようとしたが、葉月は「聞いてほしい」と言って話を続けた。


「始まりはほんの些細なことだったわ。些細過ぎてそれが何だったのか忘れたくらい。でもね、それがだんだんエスカレートして、止まらなくなっていった。イジメる側は、自分たちがエスカレートしてるなんて思わないのよ。ただ、それが日常だからやっているだけ。イジメられる方は堪ったものじゃないわ。物を隠される、捨てられるのは当たり前。トイレで水を掛けられたこともあった。突然髪の毛を切られたりもした。とにかく、やられたことのないイジメはなかったっていうほど、散々だった」


 竣亮は何も言うことが出来ず、葉月の話をじっと聞いていた。


「高校2年の冬、もう耐えられない。もう無理だ。死んだ方がマシ・・・そう思っていた時に、buddyの『さよならいつか』が自分が住んでいた街のCDショップの前で流れていたの。内容は失恋した後のことを憂いている内容の歌だったけど、その歌詞が私に希望をくれたの」


『今は離れたあなたの心も 今は感じないぬくもりも 生きていればまた巡り合う あなたという奇跡に』


「あの歌詞は失恋した相手に送る言葉だったけど、私はそれを今はいない友達に当てはめた。今は友達の存在を感じなくても、生きていれば巡り合う。生きなきゃ何にもならない。生きなきゃ意味がない。逃げるばかりじゃダメだ、そう思った。だから私は、イジメている奴と戦うことにしたの。未来にできる友達のために」

「戦う・・・・・・どういう風に?」


 竣亮は恐る恐る聞いてみた。


「簡単なことよ。まずスマホのレコーダー機能を使って、ありとあらゆる会話・・・違うわね、私を罵倒する言葉を片っ端から録音していった。そして、決定的な場面を録画することが出来たの」

「あの、そこは怖いから遠慮するよ・・・・・・」

「そう? 残念。それで私はその証拠を、学校とそいつらの親に叩きつけてやったのよ。そしてこれを地元の新聞社に持っていくって言ってやったわ。そしたらあいつらどうしたと思う?」


 竣亮はこれ以上話を聞くのは怖かったが、葉月を振り切る方が怖いと思い、黙って話を聞くことにした。


「今まで学校もあいつらの親も、散々あいつらを野放しにしていたくせに、手のひらを返して和解金の提示までしてきた。300万でどうかって。でもね、お金じゃないのよ。私の4年以上の苦しみをたった300万で済まそうとするあいつらを、私は一生許さない」


 そう言う葉月の両手はブルブルと震えており、両目からは涙が零れていた。


「河野先輩・・・・・・まだ傷が塞がってないんですね」


 竣亮が葉月に問いかける。


「だっ・・・て、4年っ以上も・・・苦しめられて・・・つら・・・くて、そ、それ・・・を、なかった・・・・・・こと・・・になんて・・・できるわけ・・・ないじゃない・・・!」


 竣亮もかつて、心に傷を負わされたことがある。そのせいで、過呼吸にもなった。葉月のイジメとは比べ物にならないが、その気持ちは十分理解できる。


「先輩、苦しくて、つらい時は我慢しないで泣いてください。弱音も吐いていいんです。僕でよければ聞きますから」


 葉月は涙でぐしょぐしょになった顔を上げる。


「buddyが歌う曲は、どれもが私に勇気を与えてくれる。それから私はbuddyの虜なの」


 そう言って涙を流しながら、竣亮に笑顔を向ける。竣亮は自分が元木にしてもらったように無言で葉月にハンカチを渡す。すると涙を流しながら竣亮に、


「ふふっ。やっぱり、buddyファンに悪い人間はいないわね」


 と言い、竣亮に差し出されたハンカチで涙を拭った。


 それから竣亮は葉月と連絡先を交換し、お互いの講義の合間に大学内でbuddyについて(葉月が一方的に)話を咲かせるようになった。


 葉月は竣亮に話を聞いてもらうことで少しずつ傷を癒していき、竣亮はそんな葉月を元気づけることで、歌手としてデビューしてよかったと心から思うことが出来た。

 だから、葉月がどんなに一方的に話していても、それを苦痛に感じることはなかった。

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