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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大学生編
42/111

41. バレた

 冬休みが終わった1月中旬。

 buddyはデビュー3周年を記念し、初めてオリジナルアルバムをリリースした。

 デビュー曲からこれまでリリースした曲を全て含む、全18曲のアルバムだ。


 そのアルバムを、市木は同じ医大生の友人に半ば強引に勧められ、自分のスマホにダウンロードしていた。


(あいつの押しの強さは俺以上だな)


 大学内のカフェテリアでランチをとりながら、市木はイヤホンを耳に差し込みそのアルバムを流す。

 流れてきた曲はテレビなどで聴いたことがある曲で、ヒットしたことは市木も知っていた。

 しかし、イヤホン越しに自分の耳でその曲を聴いているうちに、違和感を覚える。


(・・・・・・ん? いまのところ・・・・・・)


 女性が1人で歌っているソロパートを聴き、市木は何かを思い出しそうになる。その正体が何なのかわからず、少し巻き戻してもう一度よく聴く。

 それから3、4回巻き戻して聴いてを繰り返しているうちに、ハッと気づいた。


(この声、明日香ちゃんの歌声にそっくりだ)


 高校1年の時。明日香と僚と3人でカラオケに行った時のことを思い出す。


 きれいで透き通っている明日香の歌声に感動して、明日香から目が離せなくなった。明日香のことを本気で好きになったのもあの時だったと、いまならそう思える。それくらい市木の脳裏に焼き付いて離れなかった歌声だ。


 その声がいま、イヤホンを通して自分の耳に入ってきている。

 市木はボリュームを少し上げ、更に集中して音楽を聴く。

 そして男性のソロパートの声を聴いた瞬間、全身が硬直するほどに驚愕する。


(・・・・・・葉山の声だ・・・・・・)


 市木は混乱した。ただのそっくりな声にしては、2人の声にあまりにも似すぎている。こんなことってあるのか? と。


「おっ、市木。早速聴いてるのか?」


 肩をポンッと叩かれ振り返ると、そこにいたのはこのアルバムを勧めた張本人だった。


「あ、ああうん。せっかくダウンロードしたしな」

「なぁ、どうだった? buddy、めっちゃよくねえ?」

「まだ1曲しか聴いてないよ。でも、いい曲だな」

「だろー?」


 友人は自分が勧めたものを気に入ってくれたのがよほど嬉しかったのか、鼻が高くなっていた。


「ところでさ、このグループの人達の写真ってないの?」


 市木は顔を確認したくて友人に尋ねる。

 しかし、友人から返ってきたのは呆気ない返事だった。


「ないよ」

「え? ない?」

「顔どころか、名前も、グループの人数も全部非公開なんだよ」

「マジか・・・」


 それでは何も確認が出来ないなと諦めかけたその時、友人から有力な情報が入る。


「でもさ年齢も非公開なんだけど、たぶん俺らと年は近いと思うよ」

「年が近いって、なんでそんなことわかるんだ?」

「だってbuddyがデビューした時、事務所が公表したのは男女混成グループっていうのと、メンバー全員が現役高校生ってことだけだったし。buddyがデビューしたのは俺らが高校1年の頃だからさ。同い年か、ちょい上くらいだろ」


 それを聞いた瞬間、市木はほぼ間違いないと確信する。

 そしてその日の夕方、市木は明日香を呼び出すことにした。


(久しぶりに連絡が来たと思ったら、なんだろう?)


 明日香が待ち合わせ場所のカフェでコーヒーを飲みながら待っていると、時間通りに市木がやってきた。


「明日香ちゃん、久しぶり」

「あ、久しぶり。市木くん」


 市木は店員にコーヒーを注文すると、水を一口飲む。


「ごめんね、急に呼び出しちゃって」

「ううん。大丈夫だよ」

「今日はちょっと、明日香ちゃんに直接聞きたいことがあってさ」

「聞きたいこと?」

「うん。聞きたいことというか、確認したいこと」


 なんだか含みのある言い方をする市木に、明日香は不安になる。


「そんな言い方されると、なんか怖い・・・・・・」

「ははっ、そんな顔しないで。怒るわけでもないからさ」


 そして、店員が運んできたコーヒーを一口飲むと、市木は自分の着ていたジャケットからスマホを取り出し、あのアルバムを画面に映し出す。


「これ、明日香ちゃん()()だよね?」


 明日香は市木が見せたスマホの画面を見て、固まってしまった。

 まずい、こんな態度でいると、勘の鋭い市木にはすぐにバレてしまうのに、急に見せられてどうしたらいいか全く思いつかない。


 顔を青くして動揺する明日香を見た市木は、思わず笑ってしまう。


「・・・・・・ぷっ」

「あ、あの・・・市木くん・・・・・・」

「あははっ。明日香ちゃんはやっぱり素直ないい子だね」


 そう言われて、明日香は何も言えなくなった。

 市木くんにバレた・・・みんなになんて言おう・・・そんなことを考えていると、市木が身を乗り出して明日香の耳元で囁く。


「大丈夫。誰にも言わないから」


 明日香がパッと顔を上げた時には、市木はすでに元に戻っていて、ニコッと笑っている。


「誰にも言わないけどさ~、俺としては悲しかったわけ。高校の時からとはいえ友達なのにさ~」

「う・・・ごめんなさい・・・・・・」

「まぁ、明日香ちゃん1人で決めたことではないと思うけど。ねぇ、俺に話してくれない?」


 市木に言われた明日香は、どうしようかと考える。


「あ、あの・・・市木くん。ここは人が多いから、ちょっと待ってて」


 明日香は店の外へ行き、電話を掛ける。市木は店内のガラス越しにその様子を見ていた。


「市木くん、場所移動してそこで話したい」


 電話を終えて戻ってきた明日香は、開口一番に市木に告げる。

 市木はもちろんそれを断る理由もなく「いいよ」と快諾して、そのまま2人で店を出た。


 市木は明日香に連れられ、とあるマンションに来た。

 明日香が1人暮らしをしているのは聞いていたが、どこに住んでいるのかは全然教えてくれなかったので、内心「ラッキー♪」と喜ぶ。


 しかし、その喜びはあえなく散る。


「どうぞ、お入りください・・・・・・」


 明日香に通された部屋には、市木の心の友であり同士でもある、明日香の弟・・・もとい、忠実な番犬の隼斗がいた。


「げっ市木っ! なんでお前がっ・・・明日香!」

「なんで番犬くんがいるんだよ~っ」


 お互いに顔を見合わせ、同時に嘆きの声を上げる。


 部屋は明日香の部屋だが、明日香の部屋の合鍵を持っている隼斗に、自分の部屋で待っているように言っていたのだ。


「とりあえず市木くん、座って」


 明日香は市木をソファーへと促す。隼斗はそれを不服そうにしていた。

 明日香がコーヒーカップに3人分のコーヒーを入れて持ってくると、早速隼斗が口を開く。


「明日香、一体どういうこと? なんで、こいつをここに連れてきた?」

「番犬くん、俺が説明するよ。実はこの度、めでたく明日香ちゃんと・・・」

「うるせえ! 嘘ばっかつくんなら追い出すぞ!」


 いまの隼斗には冗談の1つも通じないらしい。市木は、それはそれで面白くなってきていた。


「はいはい、そうカッカカッカしなさんな。血圧上がっちゃうゾ」


 市木はふざけながらも、さっき明日香に見せたスマホに入っているアルバムを、隼斗にも見せる。


「これ。明日香ちゃん()()だよねって聞いたらさ・・・・・・」


 隼斗もその画面を見て、思わず固まってしまう。明日香と同じように、顔を青くして。

 

「そう、同じような反応してたんだ。やっぱり君たち双子なんだね」


 市木は楽しそうに、隼斗にもニッコリと笑顔を向けた。


「うぅ・・・隼斗ごめん・・・・・・」

「な、な、なんでわかった?」


 隼斗はさっきと態度が一変する。


「うーん、まず、俺が明日香ちゃんの歌声を覚えていて、この曲の声と同じことに気づいたってところかな」

「明日香の歌声って・・・明日香、こいつの前で歌ったことあるのか?」


 隼斗に聞かれて、明日香は少し考える。


(市木くんの前で歌った? 私が?)


「明日香ちゃん、大ヒント。ボウリング、ファミレス、カラオケ・・・」


 市木にそこまで言われ、明日香はやっと思い出す。

 僚と市木と3人でカラオケに行ったこと。そこで自分も僚も歌ったこと。

 あの日は、自分が失恋したことにいっぱいいっぱいで、そんなことすっかり忘れていた。


「思い出した?」

「うん、思い出した。市木くんと僚と3人でカラオケに行ったこと」

「ひどいな明日香ちゃん。葉山がいたとはいえ、俺はあの日のデートを忘れたことはなかったのに」

「うっ・・・ごめんなさい・・・」


 市木のボヤキに対し、本気で落ち込む明日香を見て、思わず可愛いと思ってしまう。

 同時に隼斗も「そうだった!」と思い出し、あちゃー・・・と頭を抱えた。


「このメンバーの中に、葉山もいるでしょ」

「・・・・・・うん」

「あはは、素直でよろしい」


 その時、隼斗のスマホの着信音が鳴る。隼斗が画面を見ると、相手は僚だった。


「もしもし」

『隼斗、いまどこにいる?』

「明日香の部屋」

『明日香の部屋って、今日一緒に飯食いに行く約束だったろ』

「僚、悪いけど、明日香の部屋に来てくれない?」

『まあ、いまお前の部屋の前だから、すぐ行くよ』


 言い終わらないうちに、明日香の部屋のチャイムが鳴る。

 明日香が玄関を開け、僚を部屋の中に招く。


「隼斗お前なに・・・って、市木・・・?」


 僚は市木の姿を見て驚く。


「葉山は明日香ちゃんの家、知ってたんだ。前に聞いたときは知らないって言ってたのに」

「・・・・・・明日香、隼斗、どういうこと?」


 僚は市木の話には何も答えず、明日香と隼斗に説明を求める。


「僚っ・・・あのっ」

「なんかこいつにバレたみたい。俺たちのこと」

「バレた・・・・・・?」


 僚は隼斗に言われても、何がバレたのかわからなかった。

 明日香の部屋のことを知ってて知らないと言ったことか、それとも・・・。

 僚が困惑する様子を見て、市木が僚にも同じスマホの画面を見せる。


「コレ。明日香ちゃんと葉山と番犬くんと・・・それと俺の勘だと、君たちの仲良しグループが出しているヤツじゃないの?」

「なっ・・・・・・」


 さすがの僚もそこまで言われると観念するしかなかった。

 それから市木に、スカウトされた時からデビューに至るまで、そして今全員このマンションの同じ階に住んでいることなどを打ち明ける。


「はぁ・・・・・・」


 僚がため息を吐く。


「おいっ、葉山。悲しいのは俺の方だぞっ」

「なんでだよ・・・・・・」

「お前とは中学からの付き合いで、明日香ちゃんと番犬くんとは高校からの付き合いの友達なのに、こんな大事なことをずーっと内緒にされていたなんて、悲しいに決まってるだろっ」


 市木が3人に訴えかける。すると隼斗が、


「こういうのがメンドーなんだよな」


 と辛辣な一言を浴びせる。


「まぁ、バレてしまったものは仕方ないし・・・だから市木、約束して。絶対に誰にも言わないこと」

「うん・・・まあ、それは約束するよ」

「俺たちのこともそうだけど、ここにみんなが住んでいることもだ」

「わかってるよ」


 3人はいまは市木のこの言葉を信じるしかないと思った。


「は~・・・でもこれで、俺の長年の疑問が解決されたよ」

「疑問?」


 誰も市木の言う疑問に心当たりがない。


「葉山たちがつけている腕時計。それ、自分たちで買ってないだろ? それとスマホ。葉山と明日香ちゃんが同じ機種だったからさ。いくら幼馴染で仲がいいとはいえ、時計もスマホもお揃いにするか? ってずっと思ってた」


 その勘の鋭さと記憶力に3人とも黙ってしまった。


「ほんと、お前の頭の良さには驚かされるよ。そうだよ。時計は俺たちをスカウトして育ててくれた今のチーフマネージャーからもらったもの。スマホは事務所から与えられたものだよ」


 僚が参ったと言わんばかりに市木に素直に答える。


「明日香ちゃんが頑張っていることっていうのも、歌手デビューのことだったんだね」


 今度は明日香に目を向ける。そして、自分が言ったその言葉を思い出した。

 高校1年の夏祭りの夜。市木に告白されて、明日香は断った。失恋直後だったことと、その冬に歌手デビューを控えていたことを理由に。


「あ・・・うん。ごめんなさい・・・・・・」

「謝らなくていいよ。あの時は言えなかっただろうし、まあ、それ以前にいろいろあったしね」


 市木が含みのある言い方をする。


「おいっ! 明日香と何があった⁉ 何したんだ⁉ 言え‼」

「番犬くん、それは明日香ちゃんと俺だけのヒ・ミ・ツだよ」


 市木は(フラれた時の言葉だなんて言えるか‼)と心の中で叫んでいた。


「なぁなぁ、ちなみに葉山の部屋って・・・?」

「この隣だけど」

「えっ・・・」


 僚のそのひとことで市木の顔が変わる。


「な、な、なんて羨ましいんだっ。なあ、また遊びに・・・・・・」

「お前は2度と来んな。てか、まだ明日香のこと諦めてないのか?」


 隼斗が市木にズバリ言うと、明日香は顔が赤くなる。それを見た僚は少しイラっとした。


「ちっちっちっ、番犬くん。俺は明日香ちゃんの部屋ではなく、葉山の部屋に遊びに行くと言ったんだよ」


 市木は右手の人差し指を左右に動かしながら、どや顔で言ってくる。


「いや、俺もお前を呼ぶつもりはない」

「だそうだ! はっはー! 残念だったな!」

「ぐぬぬぬっ・・・!」


 僚と隼斗の2人がかりで言い負かされた市木は、悔しさを顔に浮かべる。

 明日香はそんな3人のやり取りを見て、もうほっとこうと思いながら、自分の部屋で騒がしくしている男どもに声を掛けた。


「ねぇ、昨日の残りのカレーでよかったらあるけど、食べる?」

「食べる!」

「えぇっ明日香ちゃんの手作りご飯⁉ ぜひ食べさせてください‼」

「大げさだな・・・ただのカレーだよ?」

「明日香、何か手伝うよ」


 気を利かせた僚が、キッチンに手伝いに来てくれた。


 せっかく手伝いに来てくれたので、明日香は僚に簡単なサラダづくりをお願いする。レタスをちぎって水にさらし、キャベツをピーラーでスライスする。プチトマトも食べやすいように半分に切って、キュウリを切る。


 そうやって僚と明日香がキッチンで夕飯の準備をしているのを、リビングのソファーから見ていた市木が隼斗に尋ねる。


「ねえ、番犬くん。あの2人って、ホントに付き合ってないの?」

「そうだよ。何も変わらない」

「なんで、あの雰囲気なのに付き合わないんだろ? 葉山って絶対明日香ちゃんのこと・・・」

「おい、それ以上言うな。こんなこと外野が言って、気まずくなったらイヤだろ」

「まぁ、それはそうだけど・・・」


 隼斗に言われて、市木がふとガラステーブルの下を見ると、雑誌の下に置いていた「海外留学」のパンフレットが目に留まる。

 市木はなぜか無性にそれが気になり、しばらくのあいだパンフレットを見つめていた。

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