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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
40/111

39. バレンタインデー

 デビューから2か月後の2月。世間はバレンタインデーで賑わっていた。


「ねーねー明日香、今年のバレンタインどうする?」

「そうだねぇ・・・去年は受験で手作りできなかったから、久々に頑張って作ろうか」

「賛成!」


 木曜日のレッスン終了後、女子更衣室で着替えながら、明日香と深尋はバレンタインデーの相談をしていた。


「でもさ、今年は作る数が圧倒的に増えたから、いつもより頑張らないとね」


 明日香はそう言いながら、どれくらい作ればいいか考える。


 まずはおなじみの僚、隼斗、誠、竣亮の4人。そして、男性マネージャーの元木さん、林さん、中川さん、女性マネージャーの清水さん。ダン先生に透子先生。Evan先生。あと、市木くん。あ、忘れてた、お父さん。それ以外のスタッフの皆さんにもと考えると、ざっと見積もっても30くらいは必要になりそうだった。


「うへー、大仕事だよー」

「ね、深尋。バレンタインデーは日曜日だから、土曜日にうちに泊まりに来て作らない? そのままレッスンにも行けるし」

「えっ、いいの⁉」

「うん。お母さんには言っておくから」


 やったー! と手を挙げて喜ぶ深尋。久しぶりにチョコを作ることに、明日香は嬉しい反面、僚へのチョコが純粋な友チョコではないことに顔を曇らせた。


 そしてバレンタイン前日の土曜日。深尋は藤堂家に来ていた。

 2人は何を作るか相談した結果、男子4人と元木さんには3号サイズのガトーショコラケーキ、その他の人にはチョコのカップケーキを作ることにした。


 そして、明日香と深尋がキッチンを使っている間、隼斗と藤堂父はキッチンへの立ち入りが禁止されることに。


「ねぇ、2人とも。本命チョコは作らないの?」


 藤堂母がケーキ作りをしている2人に質問をする。


「お母さん、何? 突然」

「だってさ、年頃の若い娘2人が一生懸命作っているのが義理チョコ、友チョコなんて悲しすぎない?」


 母に言われた2人は、苦笑いしか出てこなかった。


「そういえば明日香、夏にお祭りデートした男の子とはどうなったのよ?」


 ゴホッと明日香はむせ返る。


「ち、ちょっと、お母さんっ。私、男の子とデートなんて言ってないっ」

「あら、そう? でも、顔に書いてあったわよ。デートって」

「明日香ぁ・・・おばさんにバレバレじゃん」


 深尋があきれている。


 すると、キッチンの磨りガラスになっている扉がドンドンドンと叩かれ、見ると父親らしき姿が映っていた。


「明日香! デートってどういうこと⁉ お父さんは聞いてないよ⁉ どこの誰⁉」


 扉に張り付き1人叫ぶ父。その声を聞いて隼斗がリビングから出てきて、父を援護する。


「父さん、大丈夫だから! 明日香はちゃんとそいつのこと振ったから、心配しないで!」


 それを聞いた父は、


「ホントか⁉ 隼斗!」


 と喜び、母は、


「なんでそんなもったいないことするのよ!」


 と嘆いた。


 とにかく藤堂家は騒がしい。一人っ子の深尋は、それがとても羨ましかった。


 そして、ケーキを作り終えたあとは、父親と隼斗がうるさかったので、2人にはその日に渡してしまった。

 明日はレッスン日なので、僚、誠、竣亮の分と、元木さんをはじめとするスタッフの分を持っていくことにする。


 翌日、明日香と深尋と隼斗は3人で駅に向かっていた。いつも深尋は自宅からバスで事務所まで行くため、こうして駅で待ち合わせてみんなで行くのはとても新鮮だった。


「なんだかドキドキするー」

「元木さんにケーキを渡すのがか?」

「違う! それもあるけど・・・・・・でも、いまはみんなで事務所に行くことに、ドキドキしてるの!」

「そんなことかよ。ただ電車に乗るだけだろ」

「隼斗には当たり前でも、私には当たり前じゃないのっ」

「もう、2人ともケンカしないでよ」


 いつも通り、隼斗と深尋の言い合いを仲裁しながら駅前に着く。すると、駅前のバス停に立っている僚とショートカットの女の子・牧がいた。


「あ、明日香・・・・・・」

「あの子、市木くんが言ってた僚の彼女・・・」


 明日香は2人の姿を見て立ち止まってしまった。


「でも、僚は違うって言ってたんでしょ?」

「違うとは言ってないよ。デートじゃないって言っただけ」


 夏祭りの日に、僚とあの子が一緒にいた時、僚は確かにそう言ってた。

 だから明日香はずっと、今もあの子が僚の彼女だと思っている。


 もし、自分がもっと早く僚への気持ちに気づいて、その想いを打ち明けていたなら、あそこに立っていたのは自分だったのかな・・・と、何度もそんなことを考えた。


 そこで隼斗が何を思ったのか突然「僚!」と名前を呼び、僚と牧の元へ行こうとする。


「ちょっと、隼斗っ」

「はっきりさせたほうがいいだろ」


 隼斗も、僚の彼女だと聞いているのに、僚から一向にそんな話がないことをずっと不審に思っていた。この機会に確認する、そんな思いで僚のもとへと歩き出す。


 止めようとする明日香を振りほどいて行く隼斗。それに明日香と深尋も仕方なくついていくことにした。


「隼斗。明日香、深尋も・・・・・・」

「何してんの? 僚の彼女?」


 隼斗は多少不躾だと思いながらも、僚に訊ねる。すると僚ははっきりと答えた。


「彼女じゃないよ。クラスメイト」

「ふーん・・・・・・」


 ちらっと僚の手元を見ると、小さなかわいらしい手提げ袋を持っている。それは明日香と深尋からも見えていた。


(僚の彼女じゃないんだ・・・・・・それでも、私が友達以上ではないことは変わらない・・・・・・)


 明日香はホッとするのと同時に、この子の存在が何であれ、結局結果は変わらないことにまた胸が苦しくなる。


「あの・・・葉山・・・」


 牧は隼斗の圧に押されたのか、おどおどしている。


「ごめん牧。こいつは藤堂隼斗、こっちは隼斗の双子の姉の明日香、そして新井深尋。みんな俺の幼馴染」


 僚は牧に自分たちを紹介する。


「あの、牧 有紗(まきありさ)です」


 僚に紹介された牧は、目の前にいる3人に名前だけを告げ、その目は、明日香をじっと見据えていた。


「牧、ごめん。俺いまから、隼斗たちと出掛けないといけないんだ。だから・・・・・・」


 話を切り上げて駅に向かおうとする僚のコートの袖を掴み、牧は涙目で訴える。


「待って、葉山っ。私どうしても・・・・・・」

「うん、ごめん。もう何度も言っているけど、牧とは付き合えない」

「なんで・・・?」

「俺、好きでもない女の子と付き合うなんて考えられないんだ。付き合うなら、ちゃんとその子のことを好きになった上で付き合いたい。牧のことは友人としか思えないし、それ以上の感情はないよ」


 隼斗たちを前にしても、牧に対しはっきりと告げる僚。


「行こうか」


 僚は3人にそう言うと、牧のことを振り返ることなく、改札へ向かって歩き出した。


 明日香は牧の様子が気になり、ちらっと後ろを振り返る。すると牧は自分の袖で涙をぬぐって泣いていた。

 明日香は僚が牧からの告白を断った場面を見ても、ちっとも嬉しくなかった。だって、自分と牧の立場が同じだから。牧は勇気を出して告白したけど、自分にはその勇気がない。牧のように泣いていたのは、自分だったかもしれない。そう思うと心が痛んだ。


 改札を通り駅の構内で誠と竣亮を待つため、ベンチに腰かける。


「ごめん。変なところを見せて」

「僚のそういうのは慣れてるけどさ、クラスメイトなんだろ?」

「うん。まぁ・・・・・・」

「ねぇ、僚ってモテるのに、なんで彼女作らないのー?」


 深尋が久しぶりにぶっ込んでくる。その質問に隼斗と明日香がぎょっとするが、言われた当の本人は少し考えて真剣な顔をして答えた。


「俺、付き合うって、どうしたらいいかわからないんだ。それが好きでもない子に言われると、余計になんで? って思うというか・・・・・・」


 いつもの僚らしくないものの言い方で、3人とも驚く。


「なぁ、もしかして僚って、初恋も・・・・・・?」


 おっかなびっくりしながら隼斗が聞いてみる。


「・・・・・・悪いかよ」


 僚は顔を赤くしながら口元を腕で隠す。

 まさかこのモテ男がこんな純情ボーイだなんて・・・・・・と、3人は言葉が出てこなかった。


 そのあと誠と竣亮と合流した6人は、全員で事務所へと向かう。

 事務所についたあと、明日香と深尋から僚、誠、竣亮にガトーショコラケーキを渡した。


「明日香、深尋、ありがとう」

「うわーこれ作ったの? すごいね!」

「ありがと」


 三者三様にそれぞれ喜んでくれた。明日香は、自分の気持ちは伝えられないけど、喜んでくれるだけで今は十分だと思うようにした。


 友人でさえいれば、この距離で僚はいてくれる。それだけでいいと、自分に言い聞かせるようにした。


 それからダン先生や透子先生、マネージャーたちにも渡すと、みんな喜んでくれ、最後に深尋から元木へケーキを渡す。


「深尋、明日香、毎年ありがとう」

「へへへっ。元木さんの分は、他のものより愛情たくさん込めたからねっ」


 深尋は、はにかみながら元木に笑顔を向ける。

 元木はそれを複雑な気持ちで受け止めるしかなかった。


 その翌日、明日香はいつものショッピングモールで市木と待ち合わせをしていた。1日遅れのバレンタインのチョコカップケーキを渡すためだ。

 モールの中のコーヒーショップで市木を待っていると、


「明日香ちゃん、ごめん! 遅くなったっ」


 ハァハァと息を切らせながら市木が店に入ってきた。


「市木くん、そんなに急がなくて大丈夫だよ」

「だって、早く会いたかったからさ~」


 荷物を置くと、市木はコーヒーを注文しに行く。


「はい、これ。1日遅いけど」


 明日香が市木に、きれいにラッピングされた包みを渡す。


「うわ~・・・マジでうれしい・・・手作り?」

「うん。深尋と一緒に作ったの」

「そっか~。もちろん、葉山にも渡したんでしょ?」

「うん、隼斗と同じものをね。毎年あげてるよ」

「ふ~~ん・・・」


 市木は意味深にニヤッとする。


「葉山もたいしたことないな」

「どういうこと?」

「明日香ちゃんから本命チョコすらもらえないからさ」


 一瞬、市木の言葉に詰まる。


「それは・・・・・・私の都合で、僚のせいじゃないよ・・・・・・」

「優しいね、明日香ちゃん」

「意地悪だよね、市木くん」


 市木と2人で会うと、いつもこんな雰囲気になる。でも明日香は、それが思いのほかイヤではなかった。

次話より、いよいよ大学生編が始まります。

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