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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
36/111

35. 駅前攻防

 1学期の終業式のあと、隼斗と竣亮は帰宅するため駅に向かって歩いていた。

 誠はレッスン日以外は殆ど美里と一緒に過ごしているせいか、最近めっきり構ってくれなくなっていて、隼斗は若干膨れ気味だ。


「ほんと、薄情だよなー誠のやつ」

「まあ、しょうがないよ」

「竣亮がいてくれてよかったよ。俺1人だったら、寂しすぎて耐えられない」

「大げさだなぁ、隼斗くん」


 竣亮に愚痴を聞いてもらいながら駅前に着くと、改札と切符売り場の間に、僚と同じ制服の男子高校生がスマホをいじりながら立っていた。


「あ、あれ、僚くんと同じ学校の制服じゃない?」

「ほんとだ。この駅で見かけることって、あんまりないんだけどな」


 2人でそんなことを話しながら、改札に向かって近づいていく。すると、その制服の男子高校生がパッと顔を上げた瞬間、隼斗と目が合った。


「げぇ」

「あぁ!」


 そこにいたのは隼斗の天敵、市木颯太だった。


「番犬くん! 久しぶり!」

「番犬じゃねぇっ。馴れ馴れしくすんな!」

「明日香ちゃんがここを通るのを待っていたんだけど、番犬くんも?」

「てめぇ、もはやストーカーじゃねぇか! 俺の学校の最寄り駅もここだよ!」

「あぁ、そうなんだね。いや~、しかし番犬くんってやっぱり明日香ちゃんと双子なだけあって、よく見ると似ているねっ」

「え・・・あ、そ、そう?」

「うんうん。目元とか、美人な明日香ちゃんにほんとそっくり!」


 明日香に似ていると言われて、まんざらでもない隼斗。


「そうかぁ? 明日香は美人だしな。俺とは双子だし、やっぱ似てるよなー」

「うんうん。似てる似てる。それでさ、明日香ちゃんの電話番号知りたいんだけど~・・・・・・」


 その瞬間、隼斗はヘラヘラしていた顔が真顔になる。


「てめぇみたいなちゃらんぽらんに教えるわけないだろ! バーカ!」


 市木よりも少しだけ背の高い隼斗は、背中を大きく反らして威嚇するように睨みつけた。


「ちっ、やっぱダメか」

「当たり前だろ!」

「葉山もガードが堅いしさぁ。この間のデートの時も全然教えてくれなかったし~」


 市木は威嚇されても萎縮するどころか、ぷぅと頬を膨らませていじけたように見せてくる。明日香とデートしたと聞いた竣亮は市木に尋ねる。


「デート? 明日香とデートしたの?」

「あれ? もしかして君も番犬仲間?」

「おいっ番犬じゃねぇ。俺らの幼馴染の竣亮だっ」

「なんだ、番犬じゃん。明日香ちゃんも大変だよね、番犬に囲まれてさ。こんなんじゃ恋なんて出来ないじゃん。そう思わない?」


 市木に言われた隼斗は一瞬ドキッとして、それまでの勢いが一気に削がれる。


「どういう意味だよ・・・・・・」


 隼斗が不機嫌そうにしていても、市木は態度を変えることなく隼斗に言う。


「この間のデートの時、明日香ちゃんと葉山にも言ったけどさ、君たちが明日香ちゃんを大事にすればするほど、明日香ちゃんが恋愛する機会を奪ってるんじゃないの? 大事にするのは結構だけど、大事にしすぎるのもどうかと思うよ。君たちがしていることは、幼馴染としても、姉弟としても、その範囲を超えていると思うけどな」


 隼斗と竣亮は、市木に言われてしばらく何も言えなかった。決して言われたことに心当たりがないとは言わない。

 でも、明日香にしろ深尋にしろ、大切な姉弟であり友人であるのだから、傷ついてほしくないし、守ってあげたいと考えての行動だった。

 それを、知り合ってたかだか数ヶ月の人間にとやかく言われるのは面白くない。


 自分たちのことなど何も知らないくせに・・・。

 そんな思いがずっと心にあった。


 そして隼斗は、明日香が僚への気持ちを吐露した時に聞いた話を思い出し、それを市木に確認しようと声を上げる。


「お前・・・・・・、明日香にそんなこと言ったのか」

「言ったよ。葉山にもね」

「お前あの日、明日香の前で、僚に彼女がいるとも言ったらしいな・・・」


 竣亮は自分が全く知らない話を、いまこの2人がしていることに驚く。隼斗はその竣亮がいても、構わず話を続けた。


「あぁ・・・・・・牧のことか。うん言ったよ」

「ハッ・・・お前の余計な一言のせいで、明日香がどれだけ傷ついたと思ってる⁉ あの日帰ってきてから、どれだけ泣いていたと思う⁉」


 駅前にもかかわらず、隼斗は市木に怒鳴り散らす。

 僚のことは仕方ないこととはいえ、明日香を傷つけるようなことを乱暴に教えた市木のことを、隼斗はどうしても許せなかった。


 教えるにしても、もっとやりようがあったはずだとずっと考えていたからだ。


「明日香ちゃんが葉山のことを好きなのは、あの日見てすぐ気づいたよ。でも、葉山は明日香ちゃんのことを、恋愛対象として見ていない。だったら、それをわからせて、次に行ったほうがいいと思ったんだ」

「次? 次ってお前のことか?」

「・・・・・・そうであってほしいね」


 隼斗は少し落ち着きを取り戻し、市木に言い放つ。


「だとしたら残念だったな。明日香の次の恋は当分先だ。今は誰にも恋したくないって言ってるからな。お前の作戦は大失敗だよ」


 そう言い捨てて、隼斗は竣亮と駅の改札を通って行った。

 

「隼斗くん、さっきの話って・・・・・・」

「ん、ああ、ごめん。俺と深尋は知ってたんだけど、明日香に口止めされてて・・・・・・言わないでほしい。特に僚には」

「うん、もちろん。もしかして、この間僚くんも一緒に帰った時、明日香泣いてた?」


 隼斗は、先日のショッピングモールからの帰りのことを思い出す。


「ああ、うん。最近あいつ泣いてばっかでさ。たぶん、僚がいたことでなんかあったんだとは思うけど、詳しく話してくれない。もう少し時間が掛かるだろうなー」


 竣亮は、自分が悩んでいた時、明日香にもたくさん助けられた。それなのに、明日香の苦しみに気づいてあげられなかったことを、とても後悔した。


「明日香、早く元気になるといいね」

「そうだな・・・・・・」


 そう言って2人は、ホームに入ってきた電車を静かに見ていた。


 一方、隼斗に作戦失敗と言われた市木は、まだ駅の改札前にいた。


(なんだよ・・・俺だって、必死なんだよ)


 いままでの女の子たちは、寄ってきた子は適当に相手して、その子たちが自分の元からいなくなっても、なんとも思わなかった。それが嬉しいとも、悲しいとも思ったことはないし、一番楽だったからだ。


 だけど、明日香だけは違った。初めて見た時、顔が美人なのはもちろんだが、澄んだ瞳に自分の意思をしっかり持っているところに惹かれた。


 そして、初めて聞いた明日香の歌声が、とてもきれいで透き通っていて、市木はあの日以来、その歌声を頭の中で何度も思い出していた。

 初めて自分で自分のものにしたいと思い、例え自分の友達のことが好きでも、横から掻っ攫っていきたいと思った。


「市木くん?」


 市木が改札前で立ち尽くしていると、ずっと聞きたかった声が耳に入る。


「あ・・・明日香ちゃん」

「どうしたの? こんなところで。めずらしいね」


 久しぶりに会った明日香は、心なしか元気がなさそうだった。そこに多少の罪悪感を感じながらも、いつも通りに振舞う。


「明日香ちゃんを待ってたんだよ」

「私?」

「だって、あのデートからだいぶ経つのに、全然会えないからさ~」

「それで、駅で待ってたの?」

「うん。引いた?」

「・・・・・・ちょっと」

「素直だね」

「それで? どうしたの?」


 市木の目の前で首を傾げる。そんな自然な仕草にも市木の胸は高鳴った。


「明日香ちゃん可愛いね」

「・・・・・・用がないなら行くよ」


 そう言って歩き出そうとする明日香を、市木が慌てて止める。


「待って、待って! あのさ今度、風見市の夏祭りがあるんでしょ?」

「うん。あるよ」

「一緒に行かない? 今度こそ2人で」

「・・・・・・・・・・・・」


 先日のデートで僚を連れて行ったのは、明日香としても申し訳なく思ってた。あの日市木に言われた言葉も、ずっと引っ掛かってた。だから明日香は、


「うん。いいよ」


 と返事した。


「え? いいの⁉」

「うん」

「2人だけだよ⁉」

「うん」

「あ、あの、浴衣とかって・・・」

「それは無理かな。隼斗に気づかれるよ」

「う・・・・・・わかった。あと・・・電話番号教えて?」

「うん。はい」


 明日香は素直にスマホを市木に差し出した。市木はそのスマホを見て思い出す。


(葉山と同じ機種・・・・・・)


「市木くん?」

「あ、ありがと! そうしたら、また電話するねっ」

「うん。それじゃ」


 明日香は市木に手を振って、改札の中に入って行く。

 その後ろ姿を市木はずっと見送っていた。

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