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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
33/111

32. 心の傷 後編

 その日のボイストレーニングが終わると、めずらしく誠から話があると言われ、レッスン室の椅子に全員座らされた。


「え・・・・・・? なに? 怖いんですケド・・・」

「どうした? 誠」


 いつもとは違う雰囲気の誠に、みんな緊張する。

 誠は5人を横1列に座らせ、自分はみんなの方を見て立つ。すると大きく息を吐き、


「俺、彼女が出来た」


 と宣言した。


「・・・・・・・・・・・・は?」


 全員、突然の宣言に驚きのあまり、口をあんぐりと開けている。


「え? え!? 誠が⁉」

「いつの間に⁉」

「何も聞いてないんですけど‼」


 興奮して椅子から立ち上がり、誠に詰め寄る。

 

「誠、もしかしてその彼女って・・・・・・」

「うん。美里」


 その名前にいち早く反応したのは隼斗だった。


「た、立花さんと⁉」

「隼斗、知ってる子?」

「俺のクラスメイト! てかさ、前から聞こうと思ってたんだけど、いつの間にそんなに仲良くなった?」


 隼斗は誠に疑問をぶつける。それに対し誠はしばらく考えて、口を開いた。


「気づいたら仲良くなってて、気づいたら好きになってたから告白した」

「!!!!!」


 この言葉で、再び全員興奮する。


「ま、ま、誠の口からそんな言葉が出てくるとは・・・!」

「きゃーーデレてる! 明日香! 誠がデレてるよ‼」

「なんか、こっちが恥ずかしくなってきた・・・・・・」


 しかし誠は、その上でみんなに相談があると言ってきた。


「美里に、俺たちのことを話したいと思ってる」


 今日の誠の本題はそれだった。

 デビューも決まり、レッスンの回数も増えたことで、彼女が出来た誠としては、週3回のレッスンのことを言わないわけにはいかなかった。


「いいんじゃないか? 話しても。隠し事をするのは、誠が心苦しいだろうし、彼女を安心させるためにも話してもいいと思うよ」

「うん。私もその方がいいと思う。でも誠、顔を出さずにデビューするのは変わらないから、口止めはお願いね」


 僚と明日香がそう言ってくれたことに対し、隼斗、竣亮、深尋も納得する。


「うん。それは美里にもちゃんと言っとく」

「ま、真面目な立花さんなら大丈夫だろ」


 なぜか隼斗が分かったように言うもんだから、誠が隼斗の足を踏んづけた。


「今度、みんなにも美里を紹介したい」


 その言葉に全員でOKと返事する。6人の中でいち早く恋人が出来たのが誠だなんて、誰も想像していなかったし、他人に無関心な誠をこれほど夢中にさせる彼女に早く会いたいと隼斗以外の4人は楽しみにしていた。


 そのあともみんなでしゃべっていると、ガチャっとドアが開き、元木が入ってきた。


「あっよかった、まだいた」

「あ、元木さーん。お疲れ様でーす」

「うん、お疲れ様。帰ろうとしてるところ悪いけど、僚、竣亮、ちょっといいか?」


 そう言って元木は、僚と竣亮を呼び出す。

 他の4人はどうしたんだろう? と気にしながらも話を続ける。


 元木は、僚と竣亮に隣の空いているレッスン室に入るよう促す。


「ごめんね急に呼び出して」


 僚と竣亮を椅子に座らせながら、話を切り出してきた。


「今日のこと林くんから聞いたんだけど、竣亮、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」


 竣亮の声は、先ほどとは打って変わってすごく小さい。


「竣亮、言いたくないかもしれないけど、何があったか話してくれないかな。何度も言ってるけど、僕は本当に君たちが大切なんだ。だから、少しでも君たちの不安や迷いや悩みを、取り除いてあげたいと思ってる。大人の僕なら、解決してあげられるかもしれない。だから、話してくれないか?」


 竣亮は顔を俯いたまま、唇を固く閉じていた。それを見た僚は、竣亮の背中に優しく手を置く。

 それはまるで、勇気を出して打ち明けるように手助けしているようだった。


「元木さん。誰にも言いませんか?」


 竣亮は意を決して重い口を開く。


「うん、約束する。竣亮に許可なく誰にも言わないよ」


 そうして竣亮は、あのバレンタインデーにあった出来事を話した。


 楽器庫で同級生の難波に無理やりキスをされたこと。

 その唇と舌の感触がいまだに残っていること。

 学校で難波を見かける度に気持ちが悪くなり、呼吸が早くなること。

 そして今日は直接話しかけられ、過呼吸の症状が大きく出たこと。

 そのことを両親に話していないこと。


 竣亮は話しているうちに涙が出て、止まらなかった。そして、元木が竣亮にハンカチを渡すと、


「竣亮、辛いのに話してくれてありがとう。でもね無理に頑張る必要はない。泣きたいときは泣けばいい。男だからって関係ないよ。それに竣亮には僚も、隼斗も、誠も、明日香も、深尋もいる。もちろん僕も。だから無理に頑張る必要はないんだ。みんなが助けてくれるから」


 そう優しく諭してくれた。


「そうだよ竣、言ったろ? 俺たちはいつでも竣の味方だって」

「・・・・・・うん。ありがとう、僚くん。元木さん」


 こうして少し笑顔を見せてくれた。


 竣亮が落ち着いたのを見て、元木が話す。


「竣亮、このことは僕を信じて、僕に任せてくれないかな」

「・・・どういうことですか?」


 竣亮には元木が、どのように解決しようとしているかわからなかった。


「君がこれ以上傷つかないために、大人の僕が頑張るんだよ」

「・・・・・・・・・・・・」

「ただし君はまだ未成年で、保護者であるご両親には話さないといけない。君が話せないなら、僕が代わりに話すよ。そして解決していきたい」


 両親に話すと言われて、竣亮は再び俯いた。それはそうだろう、竣亮の両親はとても厳しく、竣亮もみんなも苦手としているからだ。それをわかっている元木がある話をし始めた。


「君のご両親、特にお母様だけど、僕と頻繁に連絡を取り合っているんだよ」

「え・・・・・・?」


 竣亮は初耳だったらしい。母親からそんな様子が一切見られなかったからだ。竣亮の両親は、説明会以降GEMSTONEを訪れていなかった。いままで習い事が一切続かなかったので、今回も同じだろうと思っていたのか、それとも違う理由があるのか、詳しいことはわからない。

 だから、まさか母親が元木と連絡を取り合っていたなんて、信じられなかった。その母親とのやり取りを元木が話してくれた。


「小さい頃から体が弱くて、男の子なのに体力がない君を心配して、いろんな習い事をさせても何一つ続かなかったのに、ここのレッスンだけはずっと続けている。一体、どういう内容のレッスンをしているんですか? って聞かれたから、お母様に撮影した動画を送ったことがあったんだ」


 元木から語られていることは、竣亮の知らない話だった。


「それからお母様に定期的に動画を送っているんだよ。そしたらね、息子がこんなに生き生きしているのを見られるのが、こんなに幸せなこととは思わなかったって。ありがとうございますって言われたんだ」

「母が・・・・・・?」

「そう。君の一番強い味方は、君のご両親だよ。だから僕を信じて任せてほしい」


 元木はそう言い切った。


 竣亮は、自分の両親が自分のことをこんなにも考えてくれているなど、想像もしなかった。

 両親が喜ぶのは、とにかくいい学校に入って、いい成績をとって、将来は安定した職業に就くことだと思っていたからだ。それがまさか、そんな風に思われていたなんて、考えもしなかった。


 思えばデビューしたいと言った時も、姉の助けを借りたが、それでもすんなりと受け入れてくれた。

 もしかしたら両親は、動画で自分の様子を見てその覚悟をしていたのかもしれない。今になって竣亮は、改めて両親のことを思った。

 そして、元木の任せてほしいという提案に対して、


「はい。よろしくお願いします」


 と返事をした。


 その後、元木から話を聞いた竣亮の両親は、竣亮のことをひどく心配し、竣亮と両親、そして学校と話し合った結果、竣亮が転校することに決まった。

 転校先については、隼斗と誠の学校へ転校することとなった。竣亮の成績であれば問題はなく、何より信頼できる友達がいたからだ。


 梅雨本番を迎えた6月下旬。竣亮は新しい制服を着て、新しい学校に登校する。これ以上傷つかないために。

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