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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
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31. 心の傷 前編

 火曜日の放課後。竣亮は学校の正門近くのバス停で、レッスンに行くため事務所の送迎車が来るのを待っていた。正直、ここから事務所までは距離があるので、送迎車を出してくれた事務所と元木さんには感謝しかない。


 しかし、先ほど担当の中川マネージャーから、


「事故渋滞につかまってしまったので、少し遅れます」


 と連絡があった。

 仕方なく竣亮は1人、バス停のベンチに座って待つことにする。


 そうだ、と竣亮はスマートフォンを取り出し、イヤホンのプラグを差し込む。そしてイヤホンを自分の両耳に入れ、先日のレッスンで録画した自分たちのダンス動画を見る。明日香が体調不良で休んでいたから、5人だけの形だけど、みんな息ぴったりで踊れていた。


 こうして毎回録画した映像をみんなで共有して見直せるので、スマホって便利だなとつくづく実感してしまう。

 すると、スマホの画面が暗くなり、竣亮は肩をポンと叩かれた。


「!!」


 びっくりしてスマホを裏返しにして振り返ると、そこには吹奏楽部で一緒だった東海林と、一番会いたくない人物、難波が立っていた。


「国分、もう帰るのか?」


 東海林が竣亮に話しかける。

 竣亮は両耳からイヤホンを取りながら、


「そうだけど・・・・・・何か用?」


 と冷たく言い放つ。


「いや、難波がさ、どうしてもお前に謝りたいって言うから・・・・・・」

「いらない」


 竣亮はいい加減、あの日のことを忘れたかった。なのに、校内で難波を見かけるだけで途端に気持ちが悪くなり、終いには過呼吸のような状態になってしまう。

 だからもう、自分に一切構ってほしくなかった。謝ってもらったところで、過去は変えられないからだ。


 それでも、難波は竣亮に食い下がろうとする。


「ごめん国分。俺がしてしまったことは、取り返しのつかないことだってわかってる、それでも・・・・・・」


 久しぶりに難波の声を近くで聞いたその時、竣亮の頭の中に思い出したくもないあの瞬間がフラッシュバックする。


 難波に掴まれた腕の痛み、重ねられた唇の感触、無理矢理侵入してきた舌と呼吸、今でも鮮明に思い出されるほど、竣亮の脳裏に焼き付いて離れない。


 すると竣亮は突然、はぁはぁはぁはぁと浅い呼吸になり、自分の胸元を両手で掴んでベンチから崩れ落ちてしまった。


「国分! おい! 大丈夫か⁉」


 東海林と難波が竣亮を起こそうと近づいたその時、


「竣! 大丈夫か⁉」


 ワンボックスカーから降りてきた僚が、竣亮に駆け寄ってきた。


「・・・・・・僚・・・くん・・・・・・」

「竣、大丈夫だ。ゆっくり息をして、慌てなくていい。大丈夫、大丈夫」


 僚が竣亮の肩を抱いて、落ち着かせるように背中をトントンと叩く。車を運転していた林マネージャーも、運転席から降りて竣亮の元へ走ってきた。


「竣亮くん、大丈夫ですか⁉」

「林さん、竣を車に乗せるのを手伝ってもらえますか?」


 それから僚とマネージャーで竣亮を車に乗せる。


 バス停には竣亮のカバンとスマホがあり、それを取りに僚がバス停に戻ると、その一部始終を見ていた東海林と難波が、僚に話しかけてきた。


「あ、あの・・・国分は・・・」

「もしかして、竣の友達ですか?」

「あ、俺たちは・・・その、中学の時の部活仲間で・・・・・・」


 そこまで言われて、僚は察した。


(この2人のうちの誰かが、竣を傷つけたんだ。だから竣は・・・)


「俺は竣の幼馴染の、葉山僚と言います。竣は俺が連れて帰るので大丈夫です」


 それだけ言うと、竣亮のカバンとスマホを持ち車に戻る。


 幸いにも竣亮の過呼吸は症状が軽かったようで、車が走り出すころにはいつもの呼吸に戻っていた。


「ごめんね僚くん。林さんもごめんなさい」


 竣亮は僚とマネージャーに謝罪する。


「竣亮くん、念のため病院に行きますか?」


 林マネージャーに聞かれたが、竣亮はそれを断った。


「そういえば、なんで林さんの車が?」


 竣亮は本来、中川マネージャーの車が迎えに来る予定だった。その理由を僚が説明する。


「竣の迎えに行くはずだった中川さんから、事故渋滞で間に合わないって連絡があってさ、一番近くにいた林さんが迎えに来たんだよ」

「そっか・・・僚くんが来てくれてよかった」


 竣亮は心の底から安心した。来てくれたのが、自分が一番信頼している仲間だったから。それは僚以外の、隼斗、誠、明日香、深尋であっても同じように思っただろう。


 車の後部座席で、僚は竣亮に尋ねてみることにした。


「竣、答えにくかったら話さなくていいからな。さっきバス停にいた2人だけど、あの時の・・・・・・?」

「・・・うん。背の高い方がそう」


 竣亮は短く答える。


「そっか・・・さっきみたいな症状はいつから?」

「あんなにひどくなったのは、今日が初めて。でも、学校であいつの姿が見える度に気持ち悪くなってた」

「竣、親には言ってないのか?」

「うん・・・、言ってない。言えないよ・・・・・・」


 そうだよな、と僚は思った。すると林マネージャーが、


「竣亮くん、どうします? 今日はこのまま帰りますか?」


 と聞いてきたが、竣亮はそれをすぐ断った。


「行きます! 僕、みんなとレッスンしたいんです。もう大丈夫ですから!」


 そう本人が強く希望したため、そのまま事務所へと向かった。


 レッスンが始まると、竣亮は普段通りにしていた。僚以外の4人も、いつも通りの竣亮だとしか思っていない。

 しかし今日のことは、急遽迎えに行った林マネージャーから、元木の方へしっかりと報告されていた。


「本人は問題ないと言っていますが、心配です」

「うん、わかった。僕の方でも話を聞いてみるよ。報告ありがとう」

「はい、失礼します」


 そして元木は考える。デビュー前というのももちろんあるが、何よりも竣亮自身のことが一番心配だった。放っておけば取り返しのつかないことになるのは目に見えている。

 竣亮のために何か対策をしなければ・・・・・・そう考えていた。

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