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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
26/111

25. 誠の恋 前編

 翌日土曜日。誠は自宅から持ってきたバスケットボールを手に、1人公園へやってきた。

 バスケットゴールがあるとはいっても、広い公園の中のグラウンドの端っこの方にポンと置かれている古びたもので、下は砂地になっているため滑りやすくなっている。

 待ち合わせの時間にはまだ早かったので、誠は1人でドリブルして、シュートするということをひたすら繰り返し、時間をつぶしていた。


 美里は一晩考えたが、なぜ誠があんなことを言い出したのか、未だに理解が出来ないでいる。

 自分のシュートがあまりにも下手すぎて、見ていられなかったのか・・・そんなことを考えてしまうほど、誠の真意が見えてこなかった。


 結局、一方的な約束だったものの、返事を曖昧にしてしまったので、とりあえず行くだけ行こうと公園までやってきた。


 美里はバスケットゴールを置けそうな広い場所を探し、砂地のグラウンドへと辿り着く。すると、背の高い男の子が流れるようにドリブルをし、シュートを決めている。その姿がとてもきれいで、美里は思わず見入ってしまっていた。

 美里に気づいた誠が声を掛ける。


「おぅ、美里」

「あ、おはよう・・・? あ違う、こんにちは・・・崎元くん」

「あのさ、誠でいいよ」

「え?」

「名前、友達はみんな下の名前で呼んでるから」


 美里はますます困惑する。でも言われてみれば、あの日直を手伝ってもらった日の別れ際には、誠はすでに「美里」と名前で呼んでいた。同じクラスの隼斗はいまだに「立花さん」なのに。


「な、なんか、崎元くん、人との距離感おかしいね」

「誠。敬語の次はコレ?」

「う・・・ま、誠くん・・・」

「んーーしょうがない。合格」


 合格を貰ったはずの美里は、全く嬉しくなかった。それどころか、恥ずかしさしかない。


 それから2人は、シュートの練習を主にする。とにかく美里は腕力がなく、リングにボールを当てるだけで精一杯という状態だった。


「美里、その腕力でよく生きていけるな」

「うぅ・・・体育はニガテなの・・・」


 美里は美里なりに一生懸命やっているのだが、いかんせん基礎体力がなさ過ぎて話にならない。数回シュートを打っただけで息が上がっていた。


「球技大会まであと10日くらいか・・・・・・」

「そうだね。でも、もう結構諦めてるよ。こんなボロボロじゃさ・・・」

「努力する前に諦めんの?」


 誠は美里をじっと見おろしている。そんな誠の視線に耐え切れず、美里は思わず目をそらす。


「だって・・・、そんな急に上手くなれないし・・・・・・」

「上手いとか下手とかじゃなくて、努力したかどうかじゃないのか?」


 美里は何も言えなくなって俯いてしまった。


「あと10日間、毎日練習するぞ。諦めるのはそのあとにしたらいい」

「え?」

「あ、でも、日曜、火曜、木曜以外な。放課後ここで」


 誠のこの口ぶりはどうやら決定事項らしい。


「あ、あの・・・誠くん、なんでここまで・・・・・・」


 美里が言いかけた時、


「まことーーーー!」


 グラウンドの入り口から、隼斗が呼んでいるのが聞こえてきた。


「ちっ、あいつ・・・・・・」


 毒づくように言い放つ誠の声に気づいた美里も、くるっと振り返りグラウンドの入り口を見る。そこには隼斗と、見たことのないきれいな女の子が立っていた。


「誠、立花さん、ほんとにいた」


 隼斗は何が嬉しいのか、やけにニコニコしている。


「誠、ごめん。こんなこととは思わなくて・・・・・・」


 明日香は状況を察したのか、すぐに謝ってきた。


「いいよ。どうせ明日香はこいつに連れてこられただけだろ」

「ん、まぁ、そんなとこ」


 へへっと誠に対し苦笑いをする明日香。


(きれいな人・・・。藤堂くんの彼女? でも、誠くんとも親しそうだし・・・)


 3人の会話に入れず、美里はその様子をただ眺めていた。

 すると、それに気づいた誠が美里に声を掛ける。


「美里、こっちは藤堂明日香。隼斗の双子の姉ちゃん。明日香、こっちは立花美里。俺の隣のクラス」

「俺のクラスメイトな。ちなみに日直が一緒」


 なにを張り合っているのか、隼斗が割り込んでくる。


「あ、あの、初めまして・・・」

「初めまして。いつもバカ隼斗がお世話になってます」

「おいっ明日香、バカは余計だ」

「あんたねっ! 邪魔しといて何言ってるのよっ」


 明日香は隼斗にしか聞こえない声で叱り飛ばす。その様子を見ていた美里はつい本音を零した。


「あ、あの、藤堂くんのお姉さんがあまりにもきれいだから、藤堂くんの彼女かと思ってしまいました」


 美里にそう言われて気分の良くなった隼斗がしゃしゃり出てくる。


「よく言われるんだよねーそれ。お似合いだねって」

「ほんっとキモい、隼斗」

「美里、隼斗は筋金入りのシスコンだから気にするな」

「おいっ誠っ! バラすなよっ。高校では隠しているんだから」

「隠してるんだ・・・・・・」

「隠してたんだ・・・・・・」

「隠れてないけどな」


 こうして無事に(?)隼斗のシスコンが美里にバレたところで、明日香が美里に告げる。


「あ、あの美里さん。私のことは名前で呼んでね。隼斗の姉だけど、一応同級生だから」

「え・・・あ、うん。わかった。明日香・・・さん」


 その2人のやり取りを見て、誠はなぜか嬉しくなった。


「お、明日香。もう行かねーと」


 元木にもらった腕時計を見て、隼斗が明日香に目配せする。お揃いの腕時計を見て、明日香も焦り出した。


「あ、ほんとだ。ごめん誠、僚と待ち合わせしているから行くね。美里さん、またね」

「僚と? めずらしいな3人で?」

「そう、ちゃらんぽらん男に対する作戦会議」


 隼斗がいつになく真剣な顔で誠に言う。


「あーー、それはまぁ、頑張って」


 心のこもってない頑張ってを伝えると、2人はじゃあなと言ってグラウンドを後にした。再び2人だけになった誠と美里は、少し休憩しようとグラウンドのそばにある東屋で休むことにした。


「なんか、騒がしかったな」

「あははは、でも藤堂くんはクラスでもあんな感じだよ」

「あいつは何にも成長してないからな。図体ばっかりデカくなって」

「でも、双子のお姉さんがいるのはびっくりしたな。しかもすごい美人で。誠くんとは付き合いが長いの?」

「そうだな。藤堂姉弟の他にもあと3人いて、6人でいつもつるんでる」

「そっかー・・・そういう友達がいるのって、羨ましいな・・・・・・」


 美里は先ほどの3人のやり取りを思い出しながら言ってみた。


「そうか? ずっと一緒にいるのが当たり前みたいになっているから、あんまり実感ないな」

「いいね、そういう友達。とても大事だよ。私もそういう友達が欲しかったな・・・」


 美里は東屋のベンチから、先ほどまで隼斗と明日香がいた場所を見ながらなんとなく言ってみた。


「別に、今から作ってもいいんじゃねぇ?」

「・・・・・・?」

「だから、俺が美里の第一号の、そういう友達になるってこと」

「・・・・・・!」


 何だろう。友達になろうって言われただけなのに、なんでこんなにドキドキするの? 美里にそう言った本人も、めずらしく顔が赤くなっていた。


「わ、私でいいの?」

「美里だからいいんだよ」

「でも、明日香さんみたいに美人じゃないよ?」

「はぁ? 関係ないだろ。美里は美里。明日香とは違う人間なんだから」


 誠がさらっとそんなことを言うので、美里の鼓動はより早くなった。


(誠くんって、天然プレイボーイ⁉)

 

 美里がパニックで頭がぐるぐるしているのをみて、誠は美里が落ち着くのを待つ。すると突然大きな声が響いてきた。


「じ、じゃあ、よろしくお願いします‼」


 美里は自分でも驚くくらい大きな声で誠にお願いをし、頭を下げる。

 それを見た誠はふっと笑い、


「おぅ、よろしく」


 いつもの誠らしく飄々と返事をして、美里の頭にポンと手をのせた。


 この日から2人は<そういう友達>になった。

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