24. きっかけは突然に
Evanとの初対面後、6人はそれぞれの家族で話し合い、デビューすることを両親たちが了承した。GEMSTONEに入所した時から、いずれはこんな日が来るだろうと覚悟をしていたようだ。
一番反対するだろうと思われていた竣亮の両親も、竣亮の言う通り、姉のおかげですんなりとお許しをいただけた。
そして、Evanとの初対面から2週間たったレッスンの日。ダンスレッスンの休憩中に元木が6人の元へやってきた。
「みんなお疲れ」
「あ、元木さーん。お疲れ様でーす」
深尋はあんなことがあっても、元木を諦めることが出来ずにいた。というよりも、諦めることを諦めたと言った方がいいだろう。好きなものは好き。それが深尋が出した答えだった。
「今日はみんなに渡したいものがあって、持ってきたんだ」
「渡したいもの?」
元木は6人をダンスレッスン室の隅にあるテーブルへ集める。そして持っていた紙袋の中から6個の箱を取り出し、それをひとつずつ手渡しすると、6人に言った。
「これは事務所から支給するスマートフォンです。これからデビューに向けて、いろいろと連絡が増えるからね。あると便利だし、大事に使うんだよ」
箱を受け取った6人は、
「いえーーい!」
「やったーー!」
「念願のスマホだーー!」
と大はしゃぎした。しかしここで元木が全員に釘を刺す。
「ただし! 守ってもらうことがあります!」
1つ、学校での使用には、それぞれの学校の規則に従うこと。
2つ、むやみやたらに番号を教えないこと。
3つ、SNSのアカウントの取得はしないこと。
4つ、絶対に無くさないこと。
「そして、一番大切なこと。特に男子! いかがわしいサイトや動画にアクセスしないこと! 男子高校生にこんなことを言うのは辛いけど、君たちのためを思って言ってるんだよ。まぁ、アクセスできない契約にはしているけどね。念には念を。ウィルスの攻撃や詐欺の元にもなるからね。わかった?」
元木は今までにないくらい強く言い聞かせる。その言葉に6人、特に男子4人は、
「「はい、わかりました」」
と素直に約束した。
「君たちのスマホには、お互いの電話番号も入れてあるし、僕の番号と事務所の番号も入れてある。あとは、自宅とか家族の番号は自分で入れておいてね」
それだけ伝えると、頑張ってねと言って元木は出て行ってしまった。
いろいろと約束事項はあるが、念願の自分専用のスマートフォンが手に入り、この日の6人は帰りの電車やバスの中で、ずーっと触っていた。
そして5月のゴールデンウィークが終わると、今まで日曜日のみのレッスンだったのが、火曜日と木曜日が追加され、週3日となった。
それに伴いマネージャーも、元木以外に新たに3人増員された。
元木がチーフマネージャーとなり、その下に3人のマネージャーが付くことになる。
しかしまだデビュー前なので、当面はレッスン日に送迎する時くらいしか顔を合わせることはなかった。
金曜日。誠は再来週に行われる球技大会の練習のため、昼休みにクラスメイトと一緒に体育館へ来ていた。選択した球技はもちろんバスケットだ。
それは隼斗も同じで、クラスが違うため、お互いに勝ち進めばどこかで当たるだろう。
体育倉庫からバスケットボールを2、3個持ち出し、ゴール下へと向かう。体育館の中は、おなじように球技大会の練習をしている生徒がいて、そのほとんどがバスケットのようだった。
誠たちが確保したバスケットゴールの反対側には、女子生徒が数人、シュート練習をしていた。
「あそこにいる女子、隣のクラスだな」
誠の友人がちらちら見ながらそう話す。
「おらっ、よそ見してると顔にぶつけるぞ」
友人に対し容赦ないパスを出す誠。これでも中学3年間はバスケ部のレギュラーだったので、手加減しても普通の人にはかなり強い。
「ぐえっ。崎元、手加減しろよー」
「かなり手加減してるぞ」
「どこが・・・!」
そんなことを言いながら、誠たちもシュート練習を始める。最初はリングまで届かなかったり、跳ね返ったりしていた友人たちのシュートが、誠がちょっとコツを教えるとパスッパスッと、シュートが決まる確率が増えてきた。
すると後ろの方からポンポンポンと、バスケットボールが転がってきて、誠の足元で止まった。
「あ、すみません・・・・・・」
ボールを取りに来たのは、隼斗と同じクラスの立花美里だった。
「はい」
手の大きい誠はバスケットボールを片手でつかみ、美里に渡す。
「ありがとうございます・・・」
「ふっ、まだ敬語だな美里」
名前を覚えられているとは思わなかった美里は、びっくりしてどもってしまう。
「い、今のは普通にお礼、した・・・だけだから・・・」
美里は掛けている眼鏡をくいっとあげる。
「バスケ、できるの?」
「できないけど、なにか選ばないといけなかったし・・・」
「ふーーん・・・」
誠は少し考える。
「明日、ヒマ?」
「え? あ、明日?」
突然そう言われて、美里は頭が混乱する。
「明日、学校のそばの公園にバスケットゴールがあるから、教えるよ」
「えぇ? さ、崎元くんが私に?」
「そう。美里に言ってるんだけど」
なぜ? と聞きたいのに、聞けない雰囲気がある。どうしようと思っていると、誠の友人が誠を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、崎元ーーー」
友人の声に気づいた誠は、戻る直前に美里の顔を見る。
「じゃあ、明日午後1時に公園集合な」
誠は一方的に言うだけ言って、友人の元へ戻ってしまった。
「あ、あの・・・!」
美里は本当に訳が分からなかった。誠とはあの日直の時に少し手伝ってもらっただけで、それ以外の接点なんてほぼなかった。しいていうなら、放課後隼斗を呼びに来た誠を見かけるくらいだ。
「ねー立花さん。今の隣のクラスの崎元くんでしょ? 藤堂くんと仲良しの。知り合い?」
美里は一緒にシュート練習をしていたクラスメイトにそう聞かれるも、何と言っていいかわからず、首をフルフルと横に振った。
その日の放課後。誠と隼斗は駅に向かいながら歩いていた。
「なー明日何してる?」
隼斗が誠に聞くと、
「明日は、学校のそばの公園で美里にバスケ教える」
「美里? 美里って誰?」
「お前のクラスの立花美里」
「・・・え⁉ え⁉ 誠が立花さんに⁉ なんで?」
隼斗も美里と同じく訳が分からなかった。この2人いつの間に? とぐるぐる頭を回転させる。
「まぁ、なんとなくそんな流れになったから」
誠はいつもの飄々とした調子で隼斗に言う。
「誠が・・・あの誠が、明日香と深尋以外の女子と・・・話ができるのか・・・?」
「いや、話してるだろ」
「他の女子にはいつもYESかNOだけだろ!」
「そうだっけ?」
「誠、俺より先に彼女を作るんじゃねぇぞっ」
隼斗はもはや悔しくて、悔しくてしょうがないという気持ちでいた。
「お前、明日香だけじゃなく、俺まで監視するつもりか?」
「うるせーっ」
この日隼斗は、誠と美里のことが気になりすぎて、なかなか寝付けなかったらしい。




