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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
高校生編
19/111

18. 高校1年生③

 風見市にある自宅から、バスで45分ほどの小高い山の中に竣亮の通う高校はある。中学から大学までの一貫校で、文武両道を掲げている学校だ。


 竣亮は僚、隼斗、誠のような男らしいタイプではなく、どちらかというと中性的なかわいい男の子というタイプであった。それでも、中学の成長期には身長も175cmまで伸び、ただの「かわいい」から「かっこかわいい」に進化していた。


 中学生の時は吹奏楽部に所属し、トランペットを担当していた。吹奏楽部を選んだのは、運動部ほど体力を使わないだろうと思ったからだ。

 小学校の時は、あまりの体力の無さに親が心配して、いろんな習い事をさせたがどれも続かず、唯一続いているのがGEMSTONEでのレッスンだった。


 最初はみんなについていけず、苦しくて辛いことばかりだったが、その度にみんなに励まされ、元気づけられてきた。

 そうして1年が経つ頃には、みんなと同じように歌ったり踊ったりすることができるようになり、竣亮自身も楽しんでレッスンに通うことが出来た。


 ただ、学校の部活となると話は別だ。試合で足を引っ張ることはできないし、自分のせいで負けたりするのは嫌だと思った。だから吹奏楽部を選んだのだ。

 吹奏楽部では腹筋を使うので、それがボイトレに生かせるというのも良かった。


 しかし竣亮は、高校進学後は吹奏楽部に入部していない。竣亮の学校は一貫校なので、ほとんどの生徒は中学高校と同じ部活に入るのだが、高校生になって2週間が過ぎても、竣亮は入部せずにいた。


「おーい国分!」


 竣亮は学校の廊下を歩いていると、後ろから呼ばれて振り返る。いたのは中学の時に同じ吹奏楽部でトランペットを担当していた、東海林(しょうじ)だった。


「東海林くん・・・なに?」

「なにじゃないよ。なんで、音楽室に来ないの?」

「僕、別に吹奏楽部の部員じゃないし、行く必要がないから」


 竣亮はそれだけ言うと、そのまま立ち去ろうとする。しかし、東海林が竣亮の腕をガシッと掴んできた。


「なぁ、頼むから一緒にトランペットやろうぜ。男子部員が少なくて肩身が狭いんだ」

「僕が入っても、入らなくても、大して変わらないよ」


 友人にこんなにお願いをされても、竣亮の意思は変わらない。


「なぁ、もしかしてまだあのこと・・・」

「東海林くん。僕、急いでいるから行くね」


 東海林がまだ話している途中で、竣亮は足早に去った。


 竣亮は中学3年生の冬、心に大きな傷を抱えてしまったのだ。それが原因で、吹奏楽を続けられなくなっていた。


 今から約3か月前の1月。竣亮と僚以外の4人が高校受験のため、しばらくの間レッスンが休止になった。

 みんなに会えないのは寂しいけど、高校受験も頑張ってほしいので、陰ながらみんなを応援していた。


 竣亮の学校は、日曜日の部活動は大会前などを除いて基本的に休みだ。ただし、吹奏楽部は日曜日でも自主練で音楽室に来る生徒が多かった。防音室があるというのが、大きな理由の1つだろう。


 竣亮は日曜日はレッスンがあるので、これまで自主練にはほとんど参加したことがなかったが、4人の受験期間中は、日曜日に特に何もやることがなかったので、たまには自主練に参加してみようと思い、冬休み明けの日曜日に学校へと向かった。


 音楽室に入ると、何人かの部員がすでに来ていた。譜面台やメトロノームを準備したり、クラリネットのリードを削ったりと、同級生や後輩たちがそれぞれ練習の準備をしている。


「お、国分。珍しいな日曜に来るなんて」


 話しかけてきたのは同じトランペットで中学部の部長の難波(なんば)だった。


「あ、難波くん。おはよう」


 竣亮はいつも通り、ヘラっと笑って挨拶をする。それを見て難波は、


「お前はいつ見てもかわいいなー」


 そう言って、竣亮の頭をぐしゃぐしゃっとかき回す。


「もーやめろよー」


 竣亮はそう言いながら、手ぐしで髪の毛をさっさっと整える。それから竣亮は楽器を準備して、同じトランペットの東海林らと合流し練習を始める。

 その日から竣亮は、毎週日曜日に自主練へ行くようになった。


 自主練に参加するようになって、何回目かの日曜日。

 その日もいつものように朝から学校へと向かった。しかし音楽室に入ると、いつも部員が十数人いてざわざわとしているのに、この日は4、5人ほどしかいなかった。


「国分、おはよう」

「あ、難波くん、おはよう。ねぇ、今日人少ないね」


 音楽室を見まわしながら、竣亮が尋ねる。


「あー・・・あれだろ、今日。バレンタインデーだから、みんないろいろあるんじゃねぇ?」

「あ、そっか。今日、14日か・・・」


 竣亮は毎年、明日香と深尋からチョコを貰っていたことを思い出した。いつも2人で手作りして、自分たちに渡していたのだ。


(今年は無いのか。残念だなぁ・・・)


 竣亮は知らず知らずのうちに、毎年楽しみにしていたんだなと実感した。

 そしてお昼を回るころには他の部員も帰ってしまい、気がつくと難波と2人だけになっていた。


「国分、そろそろ終わるかー」

「そうだね。お腹も空いてきたし」


 2人でトランペットのマウスピースを洗い、楽器をしまうため楽器庫へ入る。

 竣亮と難波はトランペットをケースにしまう前に、トランペットの内部や外側をきれいに磨く。この楽器の掃除が、楽器を長持ちさせるためにとても重要なもので、2人とも丁寧に掃除する。

 楽器庫の中の椅子に並んで腰かけ、掃除をしながら2人で雑談が始まった。


「難波くんはさ、チョコとか貰った?」

「あ? そんなの貰う予定があったら、ここに来ないだろ」

「それもそっか・・・」

「国分は? 貰ったのか?」

「僕は、仲のいい幼馴染の女の子が2人いるんだけど、今年は高校受験でなかなか会えなくて、まだ誰からも貰ってないんだ」

「ふーん・・・、俺たち寂しいもの同士ってわけだな」


 そう言われて竣亮は、もう1か月以上も他の5人と会っていないことに気づいた。中学が変わっても、必ず日曜日にはみんなで顔を合わせていたので、みんなに会えていないことを自覚した途端、寂しさが募ってしまう。


 だからだろうか、ポロっと言葉が零れてしまった。


「・・・・・・うん、寂しいね・・・・・・」


 ついついそんな言葉を口に出してしまった。

 すると隣からガタっと音がし、竣亮が難波の方を向くと、難波の顔が思いのほか近くにありびっくりした。


「難波くん・・・?」

「なあ、国分。俺が・・・お前のこと好きだって言ったらどうする?」

「え・・・・・・?」

「男同士で気持ち悪いって思う?」


 竣亮は何を言われているのか理解できなかった。さっきまで、吹奏楽部の部長として、同級生として、友達として接していた人物が、いきなり自分を好きだと言っている。


「それって・・・」

「もちろん、友達じゃなく恋愛対象としての好きって意味で」

「・・・・・・・・・・・・」


 竣亮は確かに中性的な顔立ちをしているが、恋愛対象は女性だ。だから正直、難波にそんなことを言われても困る。でも、それをはっきり言って難波を傷つけることになるのは避けたい。


(どうすればいい? どうすればいい!?)


 こんな経験など一度もない竣亮は、頭の中をフル回転させて考えるが、いくら考えても解決方法が思いつかない。


 そうして悩み過ぎて頭を俯いていると突然、右ほほから耳にかけて難波の左手がにゅっと伸びてきた。

 竣亮がびっくりして顔を上げると、その伸びてきた左手がぎゅっと後頭部を包み、難波の右手が竣亮の左手を握ったと思った瞬間、竣亮は難波にキスをされた。


 あまりにも一瞬の出来事で、目を見開いたままの竣亮は、なんとか難波を自分から引き剝がそうとするが、自分よりも体格が大きい難波はびくともしない。


 そしてあろうことか難波は、にゅるっと竣亮の口の中に舌を滑り込ませてきた。竣亮は涙目になりながらも必死に抵抗する。そして、難波の力がほんの少し緩んだところをドンっと突き飛ばす。


「!!!!」

「あ・・・・・・国分、ごめ・・・」


 竣亮は難波の言葉を最後まで聞くことなく、楽器庫を飛び出していった。

 そして、まだ難波の唇と舌の感触が残る自分の口を、ゴシゴシゴシと何度も拭う。でもいくら拭っても、その感触が消えることはなかった。


 竣亮はそれからどう帰ったかわからない。とりあえず学校の前からバスに乗り、自宅近くのバス停で降りたことはわかる。でもそれだけだ。


 泣いて目を真っ赤にしながら自宅に向かって歩いていると、錆びついた遊具が並ぶ公園の前に来た。するとどこからか、


「おーーい! しゅんすけーー!」


 と聞こえてくる。

 竣亮が呼ばれた方向に顔を向けると、公園のブランコの方からこちらにブンブン手を振っている女の子がいた。


「・・・・・・深尋」


 よく見ると、僚、隼斗、誠、明日香も一緒だ。竣亮がいま会いたい人全員がそこにいる。それを見た竣亮は急いで5人の元へ向かった。


「よかったー竣亮、会えてー」


 深尋がニコニコして言う。すると明日香が、


「はい、竣亮。バレンタインのチョコ。今年は手作りじゃなくてごめんね」


 そう言いながら、きれいにラッピングされた四角い箱を渡された。


「ありがとう・・・・・・」


 竣亮は先ほどのこともあり、感情がぐちゃぐちゃになっていた。

 そして、泣きたくないのにポロポロと涙が出てくる。


「お、おいっ竣亮。泣いてるのか?」

「え? なんで? 竣亮、大丈夫?」


 深尋と隼斗にそう声を掛けられた瞬間、ポロポロと流れていた涙はどんどん溢れ出て、数年ぶりに号泣してしまった。


「竣、落ち着いた?」


 僚がポンポンと背中を優しくたたく。


「・・・うん。みんなごめん」


 竣亮は、申し訳なさと恥ずかしさでみんなの顔を見ることが出来ないでいた。


「竣亮、何があったのか聞いてもいい?」


 明日香が心配そうに尋ねる。

 それから竣亮は、今日の出来事をぽつりぽつりと話し出した。

 

「竣、辛かったな・・・・・・。でもこれだけは覚えておいて。学校は離れていても、竣には俺たちがいるから、1人で悩んで抱え込まなくていいんだよ。俺たちは何があっても竣の味方だから。いつでも話は聞くからな」


 竣亮の話を聞いた僚は、傷ついた心を労るように語りかける。


「うん・・・。ありがとう僚くん。みんなもありがとう」


 みんなに話せたことで、少し落ち着いたのだろう。いつもの笑顔が少し見られて、みんなホッとした。そして竣亮が負った心の傷は簡単には消せないけど、少しずつ癒されるように見守っていこうと思った。


 それから竣亮は、中学部の卒業まで部活に行くことなく、高校へ進学した。


 高校で部活をするには新たに入部届の提出が必要だが、竣亮は吹奏楽部もそうだが、部活動自体をするつもりはない。週に1度のGEMSTONEでのレッスンを精一杯頑張ろうと決めた。


 難波とは、高校で選んだコースが違うため、ほとんど顔を合わせることはなくなった。

 しかし、東海林は難波から話を聞いたのか、竣亮との間にあった出来事を知っていて、それも竣亮は嫌だった。

 だから、東海林にしつこく誘われても冷たく断ることができたのだ。


 今日は金曜日。日曜にはみんなに会える。今の竣亮はそれだけが楽しみだった。

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