17. 高校1年生②
明日香は、高校でできた新しい友達2人と一緒に放課後、学校の近くにあるショッピングモールへ遊びに来ていた。
女子高ということもあり、入学後早くも仲良しグループが作られていく中、この2人が明日香に声を掛けてきてくれたことで、ぼっちを回避することができた。
今日はモールの中にあるタピオカドリンクのお店に行こうとなり、3人でドリンクを買った後、フードコートでそれを飲みながらおしゃべりしていた。
「ねー明日香ってさ、彼氏とかいないの?」
そう聞くのは中井花だ。
「いないよ。そもそも誰とも付き合ったことないし」
「ウソ⁉ 中学の時もいなかったの⁉」
「うん」
花は3人の中でも特におしゃべりで、イケメンとコイバナが大好きな女の子だった。深尋とよく似たタイプだ。
「明日香は美人だから、逆にお近づきになれなかったんじゃない?」
もうひとりの友達、佐々木秋菜が明日香をまっすぐ見ながら言う。
確かに明日香は、中学の時はそれなりに人気があった。
しかし、隼斗が明日香に近づく男子を片っ端から阻止していたのだ。
なので、誠以外の男子はお近づきになりたくてもなれなかった、というのが真相だ。そのことを明日香は知らない。
「うーーん。特に誰にも何も言われたことないしな」
「明日香の中学の同級生、どうなってんの?」
それを聞いて花は、不思議でしょうがないという顔をした。
花と秋菜は同じ中学で、そこからの付き合いだ。明日香に声を掛けたのは、ひと際美人で存在感のある明日香と親しくなりたかった、という理由だった。
そうして3人でおしゃべりをしていると、突然花が黄色い声を上げる。
「ねぇねぇ! みてみて。あの背の高い2人組。超かっこよくない⁉」
フードコートの入り口付近を指さし、きゃあきゃあと騒ぐ。花に言われて明日香がその方向を見ると、よく知っている2人が立っていた。
(げ。隼斗と誠だ・・・・・・)
見つかりたくない明日香は顔を俯いて、目を合わせないようにする。
しかし、姉弟は姉弟でも双子だ。隼斗は得意の双子レーダーで、いとも簡単に明日香を見つけた。
「あれ? 明日香じゃん。あ、友達?」
明日香は心の中で終わった・・・と思った。
花は、え⁉ え⁉ と明日香と隼斗を交互に見る。
「へー。明日香のその制服姿、新鮮だな。似合ってるじゃん」
(いらん事いうな誠!)
そう思っても、誠に伝わるはずがない。
「ちょちょちょ、明日香、このイケメン様たちは・・・」
花はすでに鼻血が出る勢いだ。秋菜も興味津々で明日香の顔を見る。
そんな2人の様子を見て、無視するわけにもいかなくなった明日香は仕方なく、非常に簡潔に2人を紹介することにした。
「こっちは、双子の弟の隼斗。こっちは共通の幼馴染の崎元誠」
「「え⁉ 双子⁉」」
今度はその事実に驚かれる。
「明日香の弟です。よろしくね。えーと・・・」
「中井花です! 明日香と同じクラスです!」
「あ、佐々木明菜です。私も同じクラスです」
花は右手を大きく挙げて、前のめりになって自己紹介をする。
「あはは、2人ともよろしくー」
「よろしく」
明日香は、さあ挨拶も終わったし早くどこかに行ってくれと2人に目で合図する。しかし、長身のイケメンに夢中な花がそれをあっさりと打ち砕いた。
「良ければ、こちらにどうぞ!」
花が隣の席に座るように手を差し出すと、何も考えていない隼斗は、
「じゃあ、お邪魔しまーす」
と、当然のように明日香の隣に座る。
「なんでここ⁉」
「えーいいじゃん別にー」
「隼斗はシスコン・・・・・・」
「じゃねえっ」
「2人ともうるさい」
いつもの調子で3人でしゃべっていると、それを見ていた花が、
「明日香たち3人って、いつもそんなに仲いいの?」
と聞いてきた。
「あーうん。この3人っていうより、あと男の子が2人と女の子が1人の6人で、いつもつるんでいることが多いかな」
明日香は正直に話した。でも、GEMSTONEの練習生であることは話さない。
「えぇー・・・明日香、彼氏がいたことないって言ってたけど、その中で恋とか芽生えなかったの?」
「んーーーあんまり考えたことない。隼斗以外は普通に友達だから」
それを聞いて花と秋菜はなんとなく察した。あと2人の男の子はわからないが、とりあえずこの2人がそばにいることで、明日香には彼氏が出来なかったんだろうと。
しかも、さっきの様子を見る限り、隼斗はかなりのシスコンらしいし・・・。
「明日香、私たち今が旬の女子高校生だよ! 恋しよっ。隼斗くんも誠くんもそう思うよね⁉」
男子2人は急に話を振られて困った。
それでも隼斗は腕を組み、自分の考えを伝える。
「明日香と付き合うやつは、俺がちゃんと認めたやつじゃないと許さん。変なやつもダメだし、モテるやつもダメだ。そういうやつは必ず浮気するからな。俺の目は誤魔化されんぞ。明日香も、ホイホイと変な男についていくんじゃねえぞ」
な⁉ と、隼斗は明日香と誠に同意を求める。それを見て誠と花と秋菜は(やっぱりシスコンじゃん・・・・・・!!)と、呆れた顔をする。
その帰り道。花と秋菜と別れた3人は、電車に乗るため駅に向かって歩いていた。
「明日香、楽しそうな友達が出来て良かったじゃん」
「あの中井花だっけ? 深尋に似てるな」
「はは・・・そだね」
明日香は、明日から花と秋菜の相手が大変だなと思ってしまった。この2人を紹介しただけであの騒ぎっぷりだ。その上、僚や竣亮もとなったら本当に面倒くさいことこの上ない。
「そういえば今度のレッスン、元木さんが早めに来いって言ってたけど、何があるか聞いてる?」
隼斗が明日香と誠に聞く。
「いいや。何も聞いてない」
「私も」
「そっか。なら僚たちに聞いても同じか」
「なに? 何か気になることでもあるの?」
「んーー・・・」
隼斗は少し考えて口を開く。
「この間さ、先輩たちがしゃべっているのを聞いたんだ・・・・・・」
隼斗の話はこうだ。
隼斗たち6人はスカウトでの入所のため、他の練習生とは違う扱いを受けている。本来、練習生になるためにはオーディションで選ばれなければならない。
しかし6人はスカウトでの入所のため、オーディション組とは歌・ダンスのレッスン共に完全に分けられていた。隼斗が言う先輩とは、オーディション組で先に入所している人たちのことを指していた。
その先輩たちがたまたま話しているのを聞いたようだ。
その内容というのが、GEMSTONEが次に売り出すグループ、またはソロのアーティストを選考しているらしい、それがスカウト組の6人らしい、というものだった。
6人は練習生の間でも有名で、一目置かれている存在ではあった。小学生の頃は歌もダンスもぎこちなく、とても上手いとは言えなかったが、中学に上がるとメキメキと上達し、今は課題となるダンスの振り付けもすぐに覚えて踊れるし、歌もボイトレを頑張ったおかげで、音程も声量も申し分ないものになっていた。
そんな話を聞かされた明日香は、
「それってさ、デビューってこと?」
と隼斗に聞いたが、結局は隼斗もただの噂を聞いたに過ぎないので、わからないとしか言えなかった。




