13. 夏の恋の事件簿 前編
それから更に1ヶ月程が経ち、6人は中学生最後の夏休みを迎えた。
夏休みの前半にそれぞれの部活動の夏の大会などがあり、それが終われば高校受験に向けて本腰を入れていくことになる。
僚と竣亮は付属の高校へ進学となるため受験などはないが、他の4人は立派な受験生だ。なのでこの夏休みが終わると、勉強漬けの日々が始まってしまう。
GEMSTONEのレッスンも受験に合わせて行っていく予定で、特に年明けから受験が終わるまでは休止となる予定だ。
そういう話をしていると、遊べるうちに遊んでおきたいと考えてしまうもので、夏休み中に6人で海に行こうと計画を立てていた。
ある日の午後。明日香と隼斗は中学生になってから毎年、塾の夏期講習に通っている。
この日も夏期講習があり、その帰りに2人でアイスをかじりながら家への最短ルートになる公園の中を歩いていた。
「あちぃなー」
「夏だしね」
「部屋のクーラーをガンガンに効かせて昼寝したい・・・」
「またお母さんに怒られるよ」
「明日香が言わなきゃバレねーよ」
「私はお母さんに聞かれたら言うよ」
「は? 何言ってんだよ。共犯にするつもりだけど?」
「私を巻き込むなら高いよ」
明日香は背の高くなった隼斗を見上げ、ニヤッとする。
「お前さー、俺の部屋に来ては一緒に涼んでいることバラすぞ」
「それは隼斗が点けたクーラーだしー」
「くぅ〜〜〜・・・可愛くない奴めっ」
隼斗は明日香の後ろから自分の腕を明日香の首に巻き付け、首を締める真似をする。
隼斗が、美人だけど憎たらしい明日香とじゃれ合うのはいつものことだった。
「ヤメて隼斗っ、暑苦しいっ」
「ほら見ろお前も暑いんだろ! だったら大人しく俺の共犯に・・・」
共犯になれと言いかけたとき、2人の後ろから、
「あのっすいません!」
と声をかけられた。2人で振り向くと、そこには明日香よりも背の低い、華奢な女の子が立っていた。
(ん? この子どっかで見覚えが・・・)
明日香がなんとか思い出そうとしているなか、隼斗は明日香の肩に腕を回したまま小声で耳打ちをしながら聞いてくる。
「明日香、知り合い?」
「全然・・・でも、どっかで見覚えがあるような・・・」
「もしかして・・・俺のファンだったりして」
「はぁ? それならもうちょっと可愛い顔するでしょ。見てよあの子、明らかにこっちを睨んでるじゃない」
隼斗と明日香がボソボソと話しているのを見ていた女の子は、なぜかブルブルと腕を震わせ、次の瞬間、突拍子もない事を言いだした。
「あのっあなた、葉山くんの彼女なんですよね!? なんで他の男の子と一緒にいるんですか!? しかもそんなにくっついて、肩に腕まで回されて・・・! 葉山くんを裏切るなんてサイテーです! 私、このことを葉山くんに言いますから!」
女の子はキッと明日香を睨みつけ、一方的に捲し立てるように言ってきた。
「・・・・・・え?」
明日香はもちろん、隼斗もわけが分からない。混乱する2人に更に言葉を続ける。
「私、葉山くんのことを諦めようと思いましたが、あなたみたいな浮気者が葉山くんの彼女なら、諦めるのを撤回します! あなたが葉山くんを諦めてください! あなたは葉山くんにふさわしくありません!」
女の子は言いたいことだけ言うと、プリプリと怒りながらどこかへ行ってしまった。
残された2人は、その華奢な体からは想像もつかなかった気迫に押され、何も言い返すことができなかった。
「明日香・・・いつから僚とつき・・・」
「付き合ってない!」
「・・・だよなぁ〜。しかし凄かったな今の子。あっちはお前のこと知っているみたいだったけど?」
そこまで言われてやっと思い出した。
「あ、あの子、あの時の・・・」
「あの時?」
1ヶ月ほど前、駅で僚を待ち伏せしていた女の子。あの時、顔はよく見えなかったが、背格好や僚へのあの執着心からしてほぼ間違いないであろう。
「何だか知らんけどさ、僚に言っといたほうが良くない?」
「・・・やっぱり、そう思う?」
「だって、お前もわかるだろ。あの子、僚が最も嫌いなタイプだし、諦めない宣言したんだから、絶対なにかしでかすぞ」
「はぁ・・・」
隼斗の話を聞かされた明日香は、勘弁してほしいと思った。
しかし、僚との付き合いが長い2人だからこそ、あの子をこのまま僚の元へ行かせるわけにはいかなかったし、なにより友達が嫌な思いをするのはさすがに放っておけない。
隼斗と明日香は自宅へと向けていた足を方向転換し、僚の家に行くことにした。




