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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
番外編
108/112

潔癖の理由

僚が女性に対して潔癖になった理由を掘り下げてみました

「葉山くん、これ」

そう言って渡されたのは、四角い箱と手紙だった。


今日はバレンタインデー。

小学校5年生にもなると、それはもうみんな浮足立っているようで、男子も女子もずっとそわそわしている。


「どうも」


それだけ言うと、僚はパッと受け取りさっさと教室に戻る。

渡した女の子は何か物言いたげにしていたが、僚には見えていない。

なぜなら、今日は休み時間になるたびに、呼び出されたり、廊下で引き止められたりして、僚はうんざりしていたからだ。


(ろくにしゃべったこともないのに、なんでこんな物を渡してくるんだ?)

僚はこんなことをしてくる女子の気持ちが、全く理解できなかった。


そして放課後。隼斗と一緒に帰ろうと学校の下駄箱に行くと、また1人女子に声を掛けられた。


「葉山くん。これ受け取って」


僚は持っている手提げバッグの中が、チョコの箱で埋め尽くされていた。

(またか......もう勘弁してほしい......)

そんな思いが顔に出ていたのだろうか、いつも通り一言だけ言って受け取ろうとするが、その包みをなかなか離してくれない。

そばで見ている隼斗も、いぶかしげにこちらを見ている。


すると、その女の子が包みを持ったまま、僚に話しかけてきた。

「葉山くんは、藤堂明日香と新井深尋、どっちが好きなの?」

明日香と深尋の名前を聞いて、隼斗も少し反応する。


「はあ?なんでそんなこと言わないといけないの?」

「だって葉山くん、あの2人とは仲がいいでしょ」


そう言われた瞬間、僚はさあっと自分の中に、冷たいものが流れてくる感覚がした。その次には、今日一日のイライラをぶつけるようなことを口走っていた。


「明日香と深尋と仲がいいのは俺だけじゃないだろ。隼斗も、誠も、竣亮も仲良くしている。俺だけに言うのはおかしいと思わないのか。そんなことを言うなら、これは受け取れない」

僚は握っていた箱をそのまま突き返し、校舎を出て行った。


「僚、よかったのか?あの子泣いてたぞ」

隼斗が心配して声を掛けてくる。

「いいんだよ。それより早く公園に行こう」

「おう......」


冬の河川敷は寒すぎるので、最近はもっぱら近所の公園で遊んでいた。

公園に着くと、すでに竣亮と誠、明日香と深尋がいた。


「あっ、きたきた。遅かったねー」

深尋がブンブン手を振っている。


「僚くん、今日スゴイたくさんもらってたね、チョコ」

竣亮がニコニコして僚に聞いてくる。


「うん。でも結局、弟たちにあげてるから」

「そうなの.....?」


僚は男3人兄弟の長男で、3つ下の弟と、5つ下の弟がいる。

すると、その話を聞いていた明日香が、申し訳なさそうに僚に包みを出してきた。


「これ、わたしと深尋からなんだけど.....」

「いや、明日香と深尋からのものは、ちゃんと自分で食べるよ。ありがとう」

僚はそれを今日初めて、嬉しいと思って受け取る。


今日、チョコを渡してきた女子たちは、一方的に気持ちを押し付けてきたり、こちらの状況も考えずに、渡すだけ渡して逃げて行ったりと、チョコを渡すことだけを考えていて、結局、俺のことなんて考えていないんだと思い知らされた。


でも、明日香と深尋はそんなことをしない。

相手が誰であろうと、その人のことを考えているし、独りよがりになることもない。だから友達として付き合っているんだ。

僚はそう思った。


それ以降、中学、高校とたくさんの女の子が言い寄ってきたが、僚はそういう子が近づいてきた瞬間「気持ちが悪い」と思うようになってしまった。


別に、女の子が嫌いなわけではない。恋愛対象も女の子だし、当然、男として性に対する興味もある。


でも、一方的な好意を向けられると、とたんに「嫌悪感」が芽生える。そして何よりもイヤなのが、女の子たちが体につけている香水やデオドラント系の匂いだ。それで近づいてこられると、嫌悪感と寒気が襲ってくる。


それに対して明日香と深尋からは、そういう嫌な匂いを感じることはなかった。汗をかいたレッスン終わりでも、全くそういうことがなかったので、2人に対して嫌悪感を抱いたことは1度もない。


中学から仲良くなった同級生の市木が、こんなことを言ってた。


「葉山はさ、自分が本当に好きになった子としか、恋愛できない呪いでもかけられたんじゃないの?俺からすれば、可哀想だなって思うよ」


そう言われても、僚は全然悔しいとも思わなかった。

逆に、それのどこが悪いんだ、とさえ思っている。

恋愛は本当に好きな人とする呪い。それはそれで幸せじゃないかと、僚は思っていた。


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