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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
105/112

103.結婚........そのあと

「明日香ーっ、(ケイ)の身体拭いたぞー」

「はーい!」

明日香が僚に呼ばれて風呂場に向かうと、扉を開けた瞬間、1歳半の息子が勢いよく飛び出してきた。


「ひゃああああっ!」

「あっ!こらっ、待ちなさい!蛍っ」


最近歩くことにも、走ることにも慣れてきて、お風呂上りにすっぽんぽんで運動会をするのが日課となっている息子の蛍を、明日香が着替えを持って追いかける。

僚と明日香の息子は、深尋と木南の息子、隼斗と芽衣の娘と同い年だ。

結婚後、3組の夫婦は子宝に恵まれ、そしていまは葉月が臨月を迎え、誠と美里の第2子も現在妊娠7か月となっていた。


変わったのはそれだけではなかった。

誠たちが家を建てた新興住宅地に、みんな家を建てたのだ。しかも、同じ区画なので、全員ご近所さんとなっていた。


これには市木も大層イジけた。

「みんなヒドイ!俺を仲間外れにするなんてっ!」


仲間外れが大嫌いな市木は、同じ新興住宅地内に建てられた、新築のマンションへと引っ越してきた。市木なりの意地なんだろう。

所帯を持って高層マンションに住むより、マイホームを建てた方が将来的にもいいだろうと判断して建てたのだが、全員で足並みをそろえるのが、buddyらしいと言えば、buddyらしかった。


そして、明日香と深尋が妊娠、出産、育児で仕事を離れている間は、男性メンバー4人で新たに『Knightsナイツ』という名でユニットを組み、派生グループとして活動していたのだが、この人気も高く、buddyとして一時的に活動が出来なくても、その人気は衰えることなく仕事が出来ていた。


「もうっ、つかまえたっ」

お風呂で僚と遊びまくってテンションが高いのか、蛍はずっときゃっきゃっと暴れて、服を着せるのも一苦労だ。


「明日、母さんたち何時に来るんだっけ?」

ご飯を食べながら、僚が明日香に聞いてくる。明日香は、ダイニングテーブルに取り付けたベビーチェアに蛍を座らせて、ご飯を食べさせていた。

「9時半に来るって言ってたけど、たぶん待ちきれなくて、9時には来そうだよね」

「はははっ!2人とも孫が可愛くて、可愛くて仕方ないんだろ」

「これからは頻繁に会えるのにね」

「そうだな.....だけど、明日香もあんまり無理するなよ?」

僚はテーブルの上で明日香の手をぎゅっと握る。その手を明日香も握り返す。


明日香と深尋は、明日から本格的に仕事復帰をする。

そのため明日一日、僚の母と明日香の母が、孫の世話をしにやってくる予定になっていた。

これからこういうことが増えてくるので保育園も考えたが、孫大好きなおばあちゃんたちが「わたしたちが面倒を見る!」というので、お世話になることにした。

隼斗の娘もいるから、丁度いいと言えば丁度いいのだが、甘やかし過ぎないか心配なのも事実だった。


「大丈夫だよ。無理はしないし、それに、わたし早く戻りたかったの。深尋もそれは一緒だったから」

「うん、わかった......」

「まんまーーーーっ!」

2人で話していると、明日香の手が止まっていたせいか、蛍がご飯をくれ!と催促するように、腕をぶんぶん振り回している。

「ごめん、ごめん、蛍!」

「食いしん坊だなぁ、お前は」

僚は、ご飯を一生懸命もぐもぐしている蛍のほっぺたを、親指と人差し指でつまむ。かわいい子供にも恵まれて、2人はとても幸せだった。


そのあとは僚が蛍の遊び相手になり、その間に明日香は自分もゆっくり食事をし、後片付けを済ませる。

「はぁ.....やっと寝たよ」

「ふふっ、お疲れさま」

1歳半の子供の体力は無限大で、遊んでも、遊んでも、自分の体力が尽きるまで遊び尽くす。そして急に電池が切れたように眠り、蛍の場合は眠りにつくと朝まで起きることはなかった。


蛍を寝かしつけた僚が、やれやれという顔でリビングに戻ってくる。

このあとの時間が、1日の中で唯一の夫婦水入らずの時間となっていた。

どかっとソファに座る僚に、明日香がワイングラスに白ワインを注ぐ。以前は赤ワインをよく飲んでいたが、今は白ワインにハマっていた。

「明日は朝から仕事だから、少しだけね」

そう言って僚にグラスを渡し、2人で乾杯する。

ワインを一口飲み、明日香はグラスをテーブルに置くと、僚の肩にもたれかかった。


「どうした?」

明日香が甘えてきたので一瞬ドキッとしたが、一応冷静に甘えてきた理由を聞いてみる。

「んーーー......明日から仕事復帰するのが、楽しみでもあるし、不安でもあるの。蛍を産む前と同じように出来るかなって......」

それを聞いて、僚もワイングラスをテーブルに置き、明日香の頬に手を添える。


「明日香は相変わらず、自分に自信が持てないんだな。大丈夫だよ。みんな、早く6人のbuddyが見たいって言ってくれてるんだ。俺たちはその声に答えなきゃダメだろ?」

「うん.......」

「それに......」

僚は明日香の腰に腕を回し、膝の下にも腕を入れ、ひょいっと自分の膝の上に明日香をのせる。明日香はひゃっと変な声をあげ、僚の首に腕を回すようにしてつかまった。

「俺が早く、明日香と一緒に仕事がしたいんだ」

「........わかった。変なこと言ってごめんね」

そう言って、触れるだけの軽いキスをして、僚の首に抱きついた。


「でもさ.....明日香と仕事をしたい気持ちもあるんだけど、誰にも見せたくないって気持ちもあるんだよ」

「え......?」

やっぱり、仕事復帰に反対なのかと不安に思い、明日香が僚の顔を見ると、その目は少し潤んでいるように見えた。


「だってさ明日香、最近ますます色気が増していて、俺の妻なのに、他の男にそんな姿を見せたくないって思ってもしょうがないだろ?」

「色気......?わたし、そんなの出てな......」

「出てるのっ!いつもっ!なあ、明日香。俺が普段、どれだけ我慢してると思ってるの?これだけ我慢してたら、他の女に欲情してもおかしくないのに、俺はやっぱり明日香にしか欲情しないんだよ。俺をこんな気持ちにさせるのは、何年経っても明日香だけなんだ」

「そんなこと........」


すると僚はそのまま明日香をソファーに押し倒し、深く深くキスをする。白ワインの味が2人の口の中で混ざり合い、その匂いが鼻に抜けて、クラクラする。それが余計に体を熱くさせた。


「.....んっ.....僚っ.......」

「はぁっ.....明日香.....抱いていい?」


そう聞きながら首筋にキスをし、僚の手はすでに明日香の服の中に入っている。産後とは思えないほど引き締まった腰をなでると、明日香の口から甘い声が出てくる。

「僚っ......ベッドで......」

明日香にそう言われると僚はすぐに立ち上がり、がばっと明日香を横抱きにして、リビングから寝室へと移動する。

明日から仕事復帰だというのに、2人は夜更けまでベッドを揺らし続けていた。


翌朝、9時過ぎ。僚の母の笙子と、明日香の母の希和がやってきた。

希和の腕には、隼斗と芽衣の娘の夕希(ユキ)も抱っこされていた。

「蛍くーん♡おはよー」

2人のおばあちゃんは、蛍にデレデレだ。しかも今日は夕希も一緒にお留守番なので、夕希を見つけた蛍は大はしゃぎだ。蛍と夕希はいとこ同士になる。


僚と明日香は若干睡眠不足だが、それを悟られないように2人を出迎えた。

「お母さん.....やっぱり早かったね.....」

「当たり前じゃない!孫と一日中遊べるんだもの、楽しみで仕方ないわよっ。ねぇ?笙子さん」

「そうよー明日香ちゃん。わたしたちのことは気にしないでいいから、お仕事頑張って!」

「笙子さんも......今日一日、蛍のことよろしくお願いします」

そう話しながら、おばあちゃん2人をリビングに通すと、インターフォンが鳴り、僚が玄関を開けて入ってきたのは隼斗だった。


「おいっ!母さんっ!夕希を誘拐しやがってっ!」

「まぁっ人聞きの悪いこと!」

「俺が目を離した隙に、勝手に夕希を連れていくなよっ!」

隼斗がそういうのを聞いて、明日香も呆れる。


「お母さん.....それは隼斗が怒るのも無理ないよ.....」

「だって、夕希ちゃんに聞いたら、一緒に行くって言うから.....」

何のことかわかっていない夕希は、蛍と一緒におもちゃで遊んでいた。

今日は芽衣も仕事で朝から出ているため、この家で2人を預かることになっていた。

「ほんっとに......とりあえず夕希の着替えと、おむつと、その他もろもろ持ってきたから。芽衣が準備したから大丈夫だとは思うけど.....」

「はいはい。わかったわよー。夕希ちゃん、怖いパパでちゅねー?」

「こんっの.......!」

我が子を勝手に連れだした母親に怒りながらも、僚に諭されて、隼斗も自分の準備をするため一旦自宅へ帰っていった。


「あっ、そうそう明日香、僚くん」

そろそろ事務所の車でマネージャーが迎えに来るという時に、2人は希和に呼ばれた。

「なに?」

「もうそろそろ、瑛里さんと風太郎(フウタロウ)くんが来ると.....」

ピンポーン。再びインターフォンが鳴った。

僚と明日香が玄関を開けるとそこには、深尋の母の瑛里と、息子の風太郎を抱いた深尋が立っていた。

「明日香、僚、おはよー」

「明日香ちゃん、僚くん、おはよう」

「あ....おはようございます....」

2人はこの一瞬で、この状況を察した。

今日は我が家で3人のおばあちゃんが、3人の子供のお世話をするんだな、と。

「ごめんね明日香、急に......」

「いいよ、気にしないで。風くん1人でお留守番より、蛍と夕希と一緒の方が楽しいでしょ?」

「うん.....ありがと」


それからほどなくして、中川マネージャーが迎えに来た。

6人の家は、葉山家、木南家、藤堂家と並んでおり、その背中を合わせるように崎元家、国分家と並んでいる。

僚と明日香の家から一番遠い竣亮の家まででも、徒歩30秒も掛からないほどの近さだ。

それゆえマネージャーたちも、送迎が楽になったと大喜びだった。

マネージャーの車は、木南家の前に車を止めて、待ち合わせ時間にはみんなその車に乗ってくる。


蛍、夕希、風太郎が遊びに夢中になっている間に、僚、明日香、深尋は家を出てきた。車のドアを開けて後部座席を覗くと、すでに隼斗、竣亮、誠が乗っていた。

「おはよー。ごめんお待たせ」

「おはよう。時間前だし、大丈夫だよ」

「明日香、夕希は泣いてなかったか?」

「ぜーんぜん。蛍と風くんと一緒に遊んでいるよ」

「なに⁉さすが、俺の娘だな。もう2人も虜にしちゃったか.....」

「いや、1歳半で虜も何もないだろ.....」

「隼斗、親バカ全開だねー」

「シスコンの次は親バカか.......」

「誠、親バカだけは、お前にそのままそっくり返すぜ」

「おう、貰っとくよ。ありがとな」

「竣亮のとこも産まれたら、ますますにぎやかになるねー」

「うん。僕も葉月さんも、先輩が周りにいるから、安心してるよ」

「おう、竣亮。大船に乗ったつもりでドンと任せとけっ!」

「その割には今日、希和さんに夕希ちゃん誘拐されて焦ってたな」

「そんな事件があったのー?」

「そう。隼斗が焦ってうちに来てさ。まぁ、お母さんが悪いんだけどね」


車内の話は尽きない。話の内容は自分たちの子供中心の話だが、6人の関係性は昔と変わらず同じだった。

運転しながら話を聞いていた中川は、高校1年の時に出会った少年と少女が、結婚し家庭を持っていることに対し、1人で感慨に浸っていた。


午前中はGEMSTONEで打ち合わせのため、明日香と深尋は久しぶりに事務所を訪れた。

「おおっ!明日香、深尋、久しぶりだな」

事務所で出迎えてくれた元木は、もう47歳になったが、相変わらず若々しくて独身だった。女の人の影は見え隠れするが、本人に結婚願望が無いため、全くそういう話がない。

それから、いつものように5階の会議室で打ち合わせが始まった。


「実はな、あまり大きなオファーじゃないんだが、お前たちが受けたいと言えば受けようと思っているものがあるんだが......」

元木がそう話を切り出すと、6人に1枚ずつ、その内容が書かれている用紙を渡された。


『風見市立紡木小学校 創立50周年記念式典』

そう書かれたオファーの内容は、来る9月25日に6人の母校である、紡木小学校の創立50周年記念式典に、卒業生代表としてサプライズで出てほしいというものだった。

まあ、buddyにオファーするくらいなので、出てほしい=何か歌ってという事なんだろう。


「9月25日って、あと1か月もないですね」

「そうだな....でも、こう言ったら悪いけど、明日香と深尋の復帰ライブと思えば、ちょうどいいかなと思ったんだよね。最初から大きすぎると、体の負担になるといけないし.....」

それは確かに一理あるな.....と、全員同じ考えになる。


「わたしはやってもいいよー。母校だし、断る理由はないかな」

「うん.....そうだね。みんなに出会ったのも紡木小だし、わたしもいいよ」

明日香と深尋が賛成するので、男性陣も異論なく賛成することにした。


すると、隼斗が急に言い出してきた。

「なあ、俺らって5年生の時に全員同じクラスだったろ?それが4月の時点で10歳だとしたら、今年は全員が30歳になる年だから、出会って20年経つんだな!なんか俺ら、今さらだけどすごいな」

ずっと一緒にいることはわかっているが、改めて数字を言われると、本当にすごいと思う。

20年の重みを、6人は改めて感じていた。


こうして、明日香と深尋の復帰ミニライブは、母校で行われることが決まった。6人は卒業以来18年ぶりに訪れる母校を、何気に楽しみにしていた。


午後は、これから出す新曲のジャケット撮影のため、撮影スタジオへ移動した。

メイクルームでメイクをしてもらっていると「あぁ....この感じ、久しぶりだな」と、その感覚を思い出そうとしていた。すると、メイクさんが明日香の肌を触りながら驚いていた。


「明日香さんのお肌、以前にも増してキレイねぇ.....なんだか色気もあるし.....愛されてますねぇ」

鏡越しにメイクさんが揶揄うように言ってくる。その言葉で明日香は、昨夜の夫婦の営みのことを思い出し、顔だけでなく耳まで真っ赤になってしまった。


「やだ、真っ赤っかになっちゃった!」

「うぅ......ごめんなさい......」

「明日香ってば、何を思い出したのー?」

「うるさいよっ!深尋っ」

「ホント、何年経ってもラブラブだよねー。最初の頃は、あんなに盛大にすれ違っていたクセにさー」

「え⁉すれ違い⁉なんですかそれっ、聞きたいですー」

これには、明日香を担当しているメイクさんだけでなく、深尋のメイクさんも、僚と明日香の数年間に及ぶすれ違いを聞きたいらしく、興味津々だ。


すると、良いとも言ってないのに、深尋は勝手にペラペラと話し始める。それを2人のメイクさんも、手を動かしながら「うんうん」と言ったり、「えぇ.....」と悲しい顔をしたりして話を聞いていた。


「それじゃあ明日香さんは、僚さんを忘れようと1年間も留学に?」

「はい.......」

「でも、帰ってきた直後に告白されて.....だなんて.....よかったですねぇ....」

なぜかメイクさんが涙声になっている。

「本当に.......これからも応援します」

明日香の恋愛事情を話している間にメイクが終了し、次は男性陣を呼ぶことになった。そして明日香は深尋の目を盗み、メイクさんたちに一言伝える。


「今日はわたしでしたけど、今度は深尋の話を聞かせますね」

そう言うと、メイクさんたちは「是非!お願いします」と笑っていた。

明日香も、深尋にやられっぱなしになるわけにはいかないのだ。


そして無事、通算21枚目となるシングルCDのジャケット撮影を終え、明日香と深尋の仕事復帰初日が終わった。

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