表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
101/112

99. 男たちの作戦③

7月24日夜。

僚と明日香の家に、隼斗が来ていた。

「なんで、深尋と木南が来たんだ?」

隼斗は、僚と明日香に相談があると言って2人の家に来たのに、なぜかこの色ボケカップル(←失礼)が後から乱入してきた。

「なんでって、隼斗が悩んでるって言ってたから.....ねぇ?深尋ちゃん」

「そうだよー隼斗。芽衣ちゃんにプロポーズするの、明日でしょー?」

「だぁーーーーっ!それを言うなぁーーーーっ!」

「やかましいっ」

大声を出す隼斗に、僚がビシッと言う。


「なによ隼斗、頑張るって言ったでしょ?怖気づいたの?」

明日香に煽るように言われた隼斗は、何も言えなくなり「ゔっ....」となる。

「だってよぉ......プロポーズって、どんな風に、どんな言葉を言えばいいんだ⁉僚も木南も、自分で考えたのか⁉考えれば考えるほど、わからん.....」

素直にいまの気持ちを吐露した隼斗に、深尋が容赦ない言葉をお見舞いする。


「隼斗って.....恋愛に関してはホント、ポンコツだね」

ドスッ。隼斗の小さな心臓に、矢が刺された。

「そうだな.....女心がわからないのは、昔からだしな」

グサッ。今度は脳天に命中した。

「モテるくせに、そんなんだから長続きしないのよ」

ズバッ。全身を切られた。隼斗のHPはゼロになった。

「お前たち.....ひどい.....」

隼斗はもう涙目だ。


言われなくてもそんなことわかってる。自分が、恋愛下手だってことくらい。

明日香や深尋が、失恋したり片思いで悩んでいる時は、人のことだからアドバイスが出来た。でも、いざ自分のこととなると、どうしていいかわからなくなる。女に対して潔癖だった僚でさえ、明日香に対しての愛情表現はストレートで、スマートなものだ。

誠も竣亮も、それと同じものがある。

でも俺は、芽衣に愛を囁くとかほとんどしたことないし、一緒に暮らし始めてからは、外でデートなんかしたことがない。

それなのにプロポーズだなんて、やっぱり俺にはハードルが高すぎたんだ....


そんなことを思っていると、木南からアドバイスをもらった。

「隼斗はさ、特別なことをしようと考えすぎじゃないかな。確かに、プロポーズっていう行為は特別なものだけど、どうしてプロポーズしたいのかって考えると、芽衣ちゃんとこの先もずっと一緒にいたいからでしょ?だったら、それを自然に、素直に伝えるだけでもいいんじゃないかな。隼斗の伝え方と、芽衣ちゃんに対する気持ちの問題だよ」

木南にそう言われた隼斗は、今日やっと救われた気がした。


「ふおおお......ありがとう木南.....いや、木南先生!そっか、俺は変なところにこだわりすぎてたんだな。それがわかっただけで、気持ちが楽になったよ」

「それはよかった。それにさ、もうすぐ恋愛マスターが来るから、教えを伝授してもらったらいいんじゃないかな?」

(......ん?恋愛マスター?)

木南の言葉に全員で首を傾げていると、ピンポーンとインターフォンが鳴った。


明日香がモニターを見ると、そこに立っていたのは、恋愛マスターこと市木颯太だった。

「やぁやぁみんな、お待たせ~」

「誰も待ってねーよ」

「番犬くんってば、素直じゃないんだから」

「彼女もいない奴のアドバイスなんか聞けるかっ」

「ひどっ!番犬くん知らないの?俺いま、第7次モテ期到来中なんだよ?」

「どーでもいいっ!」

隼斗と市木の口喧嘩が始まると、他の4人はワイン片手に違う話をし始める。こういうところは、何年たっても変わらない。


「市木くん、いまモテ期なのー?」

2人の口喧嘩に飽きた深尋が、市木に聞いてみる。

「そうだよ~。木南が脱落したから、俺の独壇場なんだよ~」

「そうなの?光太郎くん」

「僕はよくわからないけど.....言われてみればここ2~3日、静かに仕事が出来ているよ」

その話を聞いて、隼斗も思い出したと言って、話に加わる。

「芽衣が言ってたけど、病院内で木南の彼女が、buddyの新井深尋だって出回ってるらしいぞ。お前たち何したんだ?」

そんなこと心当たりは1つしかない。明日香が、美里のお見舞いに行った時のことを話す。


「市木くんが釘を刺してくれたんだけどね.....」

「まあ、人の口に戸は立てられないからね~。数日持てばいいかと思ったけど、数日も持たなかったね」

はははっと市木は笑っている。

「まあ、僕の周りもずっとうるさかったし、ちょうど良かったよ」

芽衣の言う通り、本当に木南は清々したというような口ぶりだ。

「でもさ、番犬くん。明日そんなんで、ホントに大丈夫?」

今日ここに来た本来の目的を思い出した隼斗は、また急に落ち込む。


「みんな.....もし断られたら、慰めてくれよな」

「なんだよ隼斗、自信ないのか?」

僚に図星を言われてしまった隼斗は、一生懸命反論する。

「俺はっ.....お前たちみたいに、人前で.....イチャイチャしないし、簡単に...好きっ....とかも言わないから、恥ずかしいし....そういうの....慣れてないんだよ.....」

耳まで真っ赤にして、腕で口元を隠しながら、隼斗はみんなの前で自分の気持ちをさらけ出す。

それを見て市木がまたふざける。

「やだ、番犬くん。かわいいっ」

「黙れ市木」

「隼斗、たぶん今のその顔でプロポーズしたら、OK貰えると思うよ」

「小学校3年以来だなぁ、隼斗のこと可愛いって思ったの」

「そんな顔出来たんだな、隼斗」

「なんか、隼斗じゃないみたーい」


結局この日、プロポーズのことをなんにも解決できないまま、隼斗は25日を迎えてしまった。


25日、当日。

buddyの6人は、雑誌の取材、新曲の打ち合わせなど、朝から仕事をこなしていた。来週からは仙台へ移動し、ライブのリハーサルが始まる。

そして、隼斗以外にもドキドキしている人がもう一人いた。


「いいか、隼斗。今日の結果をちゃんと教えてくれよ?」

「わかってるよ元木さん。なんで俺より緊張してんだ?」

「だって、緊張せずにいられないじゃないかっ!人生の大きな節目だぞ」

「まったく、心臓が持たんっていうから、日にちを教えたのに、教えたら教えたで、こうなるのか.....元木さんって、案外めんどくさい男なんだな」

一回り以上も年下の男に、めんどくさい認定を貰ってしまった元木だが、自分でもそう思うので、反論はしない。


そして午後15時には今日のスケジュールを全て消化したので、家が近い竣亮と帰ることにした。

「隼斗くん、今日頑張ってね」

「お、おう.....竣亮に繋げるためにも、頑張らないとな....」

そう言う隼斗に対し、竣亮は「そうじゃない」と言う。

「僕のためにとかじゃなくて、長瀬さんのために、いまの隼斗くんの気持ちを伝えたらいいんだよ。長瀬さんならきっと、隼斗くんのことをわかってくれるから......」

竣亮にそう言われて、隼斗も幾分、気持ちが落ち着いてきた。

「ありがとな、竣亮」

その隼斗を見て、竣亮も静かに笑顔を返してくれた。


隼斗は家に帰ると、シャワーを浴びて身綺麗にし、白の半袖Tシャツ、黒のチノパンに、5分袖のブルーのカーディガンを羽織り、黒のキャップをかぶって、芽衣の勤務時間が終わるのに合わせ、病院へ向かった。

ちなみに芽衣は、今日、隼斗が病院に来ることを知らない。

そもそも、隼斗がこうして芽衣を迎えに病院に来たことなど、いままで1度もない。

だから芽衣は、まさか隼斗がいるなどとは思ってもいなかった。


午後17時半を過ぎた頃、隼斗は病院の正門前に立って、芽衣が出てくるのを待っていた。

病院の中からは、仕事を終えた多くの職員が次々と病院から出て、帰宅していくが、芽衣の姿は一向に出てこない。

(残業か......?)

そう思った時、病院の中から芽衣が出てきたのが見えた。

(うわーーーっ来た......びっくりするかな?あいつ.......)

芽衣が正門に徐々に近づいて来るのを見て、もう少ししたら声を掛けようと思ったその時、

「長瀬さん!お疲れっ」

と、自分たちと同じくらいの男が、芽衣に話しかけてきた。

それを見て芽衣も、

「ああ、山下くん、お疲れ」

と言って、2人で並んで歩いてくる。

知らない人が見れば、カップルにしか見えないほどだ。


隼斗はいままで、芽衣が自分の知らない男と、親しげに話しているところを見たことがなかったので、何気にショックを受けた。

(何だ、あいつ......なんであんなに馴れ馴れしくしているんだ⁉)

隼斗に見られていることにも気づかず、芽衣は山下と楽しそうにおしゃべりしている。

そして、門まであと3メートルというところで芽衣は、黒いキャップをかぶった、背の高い男がこちらを向いて立っていることに気づく。

キャップのせいで顔はよく見えなかったが、芽衣はその立ち姿でそれがすぐに誰かがわかった。


「隼斗くん......?」

芽衣に名前を呼ばれた隼斗は、芽衣のそばに近づいて、

「芽衣、行くぞ」

その一言だけ言って、芽衣の左手を掴み、山下という男から芽衣を引き離すように連れていく。


「隼斗くんっ......ねぇっ!待って、隼斗くんっ!」

隼斗は芽衣の手を掴んだまま、病院の隣にある大きな公園の中へと入っていく。ジョギングしている人や、学校帰りの高校生などとすれ違いながら、公園の中にある小さな池までやってきた。

そばには大きな樫の木が存在感を見せつけるように立っており、青々とした葉をこれでもかと茂らせていた。

「隼斗くんっ!痛いっ!」

芽衣のその言葉でハッとなった隼斗は、慌ててその手を離す。

「............ごめん」

男といる芽衣を見て、感情的になって強引に引っ張ってしまったことを、隼斗は後悔した。

あれだけみんなに言われたのに、言いたいセリフが全く出てこない。

最初からやり直したい気分になった。


何も言わない隼斗に対して、芽衣は思い切って聞いてみる。

「隼斗くん、なんで怒ってるの?わたし、何かした?」

「...............」

隼斗が何も言わなければ、芽衣にも全くわからない。

朝、顔を合わせた時は、いつもとなにも変わらない様子だったのに、なぜこんなにも不機嫌なのか。こんなこと今までなかったのに......

芽衣は思わず、はぁ.....とため息が出る。


「........なにも言わないなら、わたし行くね」

芽衣はそう言って、来た道を戻ろうとすると、後ろからまた腕を掴まれる。

「待って、芽衣。話が.......」

「話ってなに⁉突然病院に来たと思ったら怒ってるし、なんで怒ってるのかも言ってくれないし、話なら家でもできるじゃないっ‼」

芽衣を怒らせてしまった隼斗は、このあと何を言えばいいのかわからなくなり、頭の中でぐるぐると考えを巡らせる。

すると、芽衣の口から思いもよらないことを言われる。


「.......わかった、隼斗くん。別れ話でもしに来たんでしょ?家じゃ話しにくいと思って、ここまで来たんでしょ?」

「ち、違う......!」

「じゃあ、なんで怒ってるの⁉言ってくれなきゃわかんないよ.....もう、好きじゃないなら、はっきり言ってよ......」

芽衣はとうとう泣き出してしまった。両手で顔を覆い、ぐすっ、ぐすっと嗚咽する。

こんなはずじゃなかったのに......隼斗は何度もそう思った。それでも、この状況を打破するには、自分が勇気を出さなければならなかった。


隼斗は泣いている芽衣を、そっと抱きしめた。

時刻は真夏の夕方18時。まだまだ外は明るいが、そばにある樫の木がうまく2人を隠してくれている。

「ごめん......芽衣.......」

「.......謝らないで。こんな....風に.......優しく....しないで.......」

自分がフラれると思っている芽衣は、隼斗の腕の中から抜け出そうと、両手で隼斗の身体を突っぱねようとする。

しかし、普段から鍛えている隼斗はびくともしない。突っぱねるどころか、ますます芽衣を強く抱きしめる。


「芽衣......違うんだ。俺......嫉妬したんだ......だから、ついあんな風にして......情けない男で.....ごめん......」

隼斗は、恥ずかしいのと情けないのを覚悟して、正直に打ち明ける。

「嫉妬.......?そんなの、いつしたの.......?」

全然心当たりのない芽衣は、隼斗がいつ嫉妬したのかわからなかった。

「さっき、病院から出てきたとき、男に声をかけられてただろ.......」

「..........ああ、山下くん?」

芽衣が男の名前を呼んだことに、隼斗は体がピクッと反応する。

「彼は、ただの同期だよ?それ以外にはなにも......」

「それでもっ!........それでもイヤだったんだ.......俺の全く知らない男と話しているのが.......」

隼斗は、自分で言ってて本当に情けなくなってきた。

「葉山くんや、崎元くん、国分くん、市木くんに木南くんも、よくしゃべるよ?それはいいの?」

「.......あいつらは、俺とも友達だし、信用してる。市木はアレだけど......」

「じゃあ、わたしのことを嫌いになったわけじゃないんだね?」

「.........うん」

「じゃあ、どう思ってるの?」

芽衣は今日の隼斗の態度に対して、ちょっと意地悪しようと思い、わざと聞いてみた。隼斗がそんなことを言うはずがないと思っていたからだ。

だけど、今日の隼斗は違う。だって、覚悟を決めてきていたから。



「俺は........芽衣が......好きだ。だから.........結婚.....してほしい.....」


「........え?」

最後の言葉がよく理解できず、芽衣は思わず隼斗の顔を見上げる。

するとその顔は、見たことないくらいに赤くなっており、恥ずかしさのためか若干涙目になっていた。

「隼斗くん......いま、なんて......」

「だからっ、俺と結婚してほしいって言ったんだっ!」

そう言うと、今度は隼斗が両手で顔を覆い、芽衣に見られないように隠した。

「誰と.....誰が......?」

「俺と芽衣だよっ」

「なんで......?」

「好きだからって、言っただろっ!何度も言わせるなっ」


ムードも何もない、ただの公園の、きれいでもない池の前でのプロポーズ。

それでも芽衣は、隼斗の必死で真っ赤になっている顔見たら、そんなことどうでもいいと思った。

自分が愛した人の口から出た言葉なら、そんなこと小さいことに過ぎない。


「隼斗くん、わたしと結婚したいの?」

芽衣にそう言われて、隼斗は「コイツ.....!」と思ったが、芽衣の顔を見ると、そんなこと言えなくなる。

仕方ないので、首を縦に振って返事をする。

すると芽衣は、隼斗の大きな背中に腕を回し、思いっきり背伸びして、隼斗の耳元で囁く。

「いいよ。結婚しよ.....」

その返事をもらった瞬間、隼斗は全身鳥肌が立つような感覚に襲われ、気が付けばまた芽衣を思いっきり抱きしめた。


それからタクシーで家に帰り、部屋に入った瞬間、隼斗は芽衣の服を脱がせた。唇だけではなく、体中にキスをしながら芽衣をベッドに押し倒す。

その後は、隼斗も芽衣もお互い夢中で求め合い、何度も何度も深いところで繋がり、一緒に果てていった。


目を覚ますと、隼斗に背を向けて芽衣は寝息を立てていた。

隼斗は自分が脱ぎ捨てたカーディガンを拾いポケットから、スマホを取ろうとすると、スマホ以外にも別の重さを感じた。

それをポケットから出して、初めて、隼斗はその存在に気づいた。

「ヤバイ......忘れてた.......」

どうしようと考えていると、芽衣の左手が目に入る。

隼斗はその忘れ物を、芽衣の左の薬指にそっとはめた。


時刻はもう22時をまわっていた。

ご飯も食べず、家に入ってすぐ行為に及んだせいで、少しお腹が空いていた。しかも立て続けに3回もしたので、余計に空腹感と疲労感を感じた。

でもいまは、芽衣のそばにいたい気持ちが強く、隼斗はまた、そのまま芽衣を後ろから抱きしめるようにして横になる。


そして芽衣を抱きしめながら、竣亮にメールを打った。

「OK貰ったぞ。竣亮もがんばれ」


元木さんには.......明日でいっか。

こうして隼斗の不器用でめちゃくちゃなプロポーズは、何とか成功した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ