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【完結】buddy ~絆の物語~  作者: AYANO
大人編
100/112

98. 緊急事態発生 後編

市木と別れた誠は元木の元へ行き、入院までの経緯を説明する。

「......そうか。それでお前は追い出されたと」

「はい。ただ点滴をしてベッドに寝ているだけだから、リハーサルに行って来いって言われました......」

その話を聞いて、笑える状況じゃないのに、元木は思わず笑ってしまう。

「ふふっ、母は強しだな。美里さんもだし、芽衣さんもすごいよ。誠、美里さんのためにも、お前はお前が出来ることをやらないとな」

「........はい」

「それじゃあ、戻るか。たぶんあいつらも気が気でないと思うし、早く行って安心させよう」

それから2人は再びタクシーで会場へと戻った。


楽屋へ戻り、再び練習着に着替えた誠がステージに現れると、それまでステージ上で話していたことを中断して、5人が誠の元へ駆け寄っていく。

「美里は⁉大丈夫だった⁉」

明日香がそう言うと、誠は元木に話したことと同じことを説明する。

「そんな........」

「誠、赤ちゃんは大丈夫なんだよね⁉」

明日香と深尋が涙目で誠に問いかける。

「いまはとにかく、1日でも長くお腹の中に留まらせるための点滴を受けている状態だ。美里も、赤ちゃんも頑張っている。お前たちにも、心配かけてすまなかった」

頭を下げる誠が痛々しくて、5人とも声が出せなかった。

それでも、リーダーの僚がみんなを励ますように一番に声を出す。


「誠、謝る必要はないって言っただろ?心配かもしれないが、ステージに立つなら、目の前のお客さんやパフォーマンスに集中しよう。みんなもだ。それ以外の場所だったら、美里さんと赤ちゃんのことをどれだけ心配しても構わないよ。その覚悟はしているだろ?」

「ああ。美里にも言われたからな。成功させろって」

そう言った誠に、もう動揺している素振りはみられない。

誠も、夫として、父親として、覚悟を持ってライブに向き合おうと決めた。

それが家族のためだから。


それから改めて6人でのリハーサルが始まった。

誠が抜けていた分だけ時間が掛かってしまったが、これまで2か月ライブをしてきたので、内容は充実したものになっていた。


そして東京公演を迎えた。2日間合わせて約10万人の観客の熱狂は凄まじく、誠の結婚や、僚と明日香の熱愛発覚などを多少懸念していたが、そんなことを全く感じさせないほど盛り上がった。

この調子で、来年の10周年記念ツアーも成功させようと、新たな目標も生まれた。


2日目の公演が終わった後。

楽屋で首にタオルを掛け、水を飲んで休憩していると、ドアをノックする音が聞こえた。

「みんな、お疲れ。市木くんたちが来たよ」

元木が、市木、木南、芽衣、葉月を楽屋まで連れてきた。

「よお、みんなお疲れ~。今日もすっごい良かったよ~」

「みんな、おつかれさま」

「ホント、かっこよかったー」

「はぁ.....buddyはいつまでも尊いわ......」

4人が4人ともそれぞれ感想を言っている。


「ありがとう、みんな」

僚が4人にお礼を言うと、誠が市木と芽衣に寄って行った。

「市木、長瀬、今回は本当にありがとうな。お前たちがいなかったら、俺、安心してライブなんかできなかったと思う」

誠のその言葉を聞いて、市木がフルフルと首を横に振る。

「まこっちゃん、俺たちは医療従事者として当たり前のことをしているだけだ。患者さんのために、出来る治療をするのは当たり前。まこっちゃんを支えてくれたのは、美里ちゃんと、赤ちゃんと、後ろにいる葉山たちだろ?俺と芽衣ちゃんはその次くらいかな。それに東京が終わりじゃないんだろ?だったら、もう一度気を引き締め直して、最後までやり遂げろ。な?」

市木の言葉を聞いて誠は一言、

「ああ、ありがとう。市木」

とだけ答えた。


東京公演終了の翌日。

明日香と深尋は、2人で美里のお見舞いに行くことにした。

本当はすぐにでも駆けつけたかったのだが、そういうわけにもいかず、この日まで待っていた。

お花を持っていこうと思ったのだが、誠の話によると、ベッドから動けず、暇すぎてそっちの方が辛いと聞いたので、ファッション雑誌やパズルゲームで懸賞に応募する雑誌などを購入し持っていくことにした。


病院についた2人は「しまった!」と思う。

お見舞いに行くことばかりを考えていて、肝心の病室を聞くのを忘れていた。

何階なのかもわからない。

「明日香、どうする?」

「あっ、受付があるから、そこで聞いてみよ」

明日香と深尋は、受付らしきカウンターへ行き、そこの事務員さんに尋ねる。

「あのっ、すいません。お見舞いに来たんですが、病室がわからなくて.....」

「はい。患者さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「立花.....じゃなくて、崎元美里です」

明日香がそう言うのを聞き、事務員がカタカタとパソコンのキーボードを叩く。


「あれ?明日香ちゃん、深尋ちゃんも」

受付カウンターに張り付いている2人の背後から、声を掛けられ振り向くと、そこには白衣の下に紺色の上下のスクラブを着た、いかにも医者という格好の市木と木南が立っていた。

「あっ、市木くん。木南くんも」

「わぁぁぁ、光太郎くん......」

深尋は白衣姿の木南を見るのが初めてで、思わず見惚れてしまっていた。

「2人とも美里ちゃんのお見舞い?」

「うん、そう。でも、病室がわからなくて......」

「あの.....すいません.....?」

明日香は受付にいた事務員さんのことをすっかり忘れていて、慌ててそちらに向き直す。すると、その事務員さんに市木が、

「あっ、ごめんね。この人達友達だから、俺が連れていくよ。調べてくれてありがとう。じゃあ、2人とも行こうか」

市木にそう言われたので、2人とも市木と木南についていくことにした。


エレベーターに向かいながら長い廊下を歩いていると、すれ違っていく人たちになぜか見られている気がする。

「市木くん、わたしたちバレてるのかな?」

明日香が前を歩く市木にそう言うと、市木は振り返りながら、

「まあ、わかる人にはわかるんじゃないかな?そのメガネだけではね.....」

「そうだね。2人ともあまり隠せてないよ」

木南にまでそう言われて、明日香は失敗したと思ってしまった。深尋は.....ずっと木南の白衣姿に見惚れていて、こっちの話は全く聞いていない。


エレベーターに乗って4人だけになると、やっと落ち着いた。

「光太郎くんっ、かっこいいねっ」

受付からここまで我慢していたんだろう。深尋はエレベーターに乗った瞬間、木南に抱きつきそうな勢いで興奮している。

「ははっ、ありがとう。深尋ちゃんも可愛いよ」

そんなやり取りを見せつけられた明日香と市木は、白い目で2人を見る。


「おい、木南。一応ここ職場だからな」

「わかってるよ。でもしょうがないじゃない。いるはずのない婚約者に出会ったんだから、こんな顔にもなるよ」

「お前、開き直りか?まったく......」

そんなことを言っていると、途中でエレベーターが止まったので、4人は他に人が乗ってくると思いしゃべるのをやめた。

扉が開いて入ってきたのは、看護師2人だった。

看護師が市木と木南の顔を見ると、親しげに挨拶をしてくる。


「あっ、市木先生、木南先生、お疲れさまでーす」

「お疲れさま~」

「お疲れさまです」

2人とあいさつした看護師たちは、そばにいる明日香と深尋に気づく。

どうも、市木と木南が案内したエレベーターは、職員専用のエレベーターだったらしく、看護師たちは明日香と深尋が乗っているのを見て不思議そうな顔をしていた。


そして、その看護師のうちの1人が深尋の顔を見て「あっ!」と言う。

「この子、前に会った、木南先生の彼女ですよね?」

「ええ⁉木南先生、ここに彼女連れてきたんですか⁉」

エレベーター内は大混乱だ。

「ちょ、ちょ、静かに!彼女たちはお見舞いに来て、その案内をしているだけだよ」

市木が説明するが、今度は別のことに気づく。

「っていうか、もしかしてbuddyの藤堂明日香と、新井深尋....ですよね?わたし、隼斗のファンで、CDもDVDも写真集も全部持っていて、なんなら一昨日ライブも行きました!」

もう彼女は確信しているようだ。ファンだと言っている彼女に、嘘はつけない。

「あ、あの.....病院ですし、静かにしてもらえませんか?」

明日香は看護師にひとことそう言って、正直に打ち明ける。

「そうです。わたしはbuddyの藤堂明日香で、こっちは新井深尋です。いつも応援してくださって、ありがとうございます」

そう言って、ペコっと頭を下げると、その看護師が突然泣き出してしまった。


そこでエレベーターが開き、とりあえず全員降りることにした。

「ううっ......優しくしてくれて、ありがとうございますぅ......」

泣きながらお礼を言われて、明日香も深尋も困惑する。

すると、深尋が木南の彼女だと気づいたもう1人の看護師が、はっ!という顔をする。

「え?ちょっと待って、ということは、木南先生の彼女って、本当に.....」

「ストップ。全部言わなくてもいいよ。そういうこと。だから、あまり騒いでほしくないんだ」

「君らも、守秘義務があるのわかるよね?ちゃんと守ってくれる?」

木南と市木にそう言われて、看護師2人ともコクッコクッと首を縦に振って返事をする。

まあ実際、どこまで守られるかわからないが、とりあえず刺せる釘は刺しておこうと思った。


それからやっと、病室へたどり着く。

ノックをして扉を開けると、誠が座っていて、ベッドには美里が寝ていた。

「あ....誠、来てたんだ」

「おう、明日香、深尋、来てくれたのか。ありがとな」

ベッドに近づくと、やっと美里の顔が見えた。

「ありがとう、2人とも。心配かけてごめんね」

「美里......大変だったね」

「美里ちゃん.......」

明日香も深尋も、見慣れない美里の姿に、胸が痛くなる。

「それじゃあ、俺たちは行くな。2人ともごゆっくり」

「じゃあね。帰りも気を付けてね」

そう言い残すと、市木と木南は出て行ってしまった。


それから明日香と深尋は、病院に入ってから病室に来るまでにあった出来事を、誠と美里に話す。

「じゃあ、その看護師さんたちに、深尋ちゃんが木南くんの彼女だってバレちゃったんだ」

「......うん。そう」

「あいつも浮かれてたんだろ」

「それはあるかもね」

「まあでも、木南くん看護師さんたちの間で人気みたいだし、良かったんじゃないかな?」

以前、市木が言ったことと同じことを、美里が言う。

「やっぱりそうなの?」

深尋が不安げに美里に聞いてみる。


「うん、たぶんね。人が少ない時間になると、看護師さんたちの話声が聞こえてきて、木南くんの話をよくしているから。あと、市木くんもね」

まあ、看護師の中には医者を狙っている人もいるらしいし、あの2人のルックスであれば、引く手数多なのは間違いない。

「心配するな深尋。木南はお前のことしか眼中にないよ。あいつは昔から重い奴だから」

誠は何かを知っているのか、深尋にそう言って聞かせる。

しかし、肝心の深尋は(重い.....?光太郎くん太ってないのに、実際はそんなに重いのかな?)などと、「重い」の解釈を間違っていた。


30分程話しているとノックの音が聞こえ、男性医師とその後ろから市木が入ってきた。

「崎元さん、今日の検査結果が出たので説明したいのですが.....」

男性医師がそう言うので、明日香と深尋は退室しようと動く。

「誠、今日はもう帰るね」

「美里ちゃんも、また来るね」

「ああ、ありがとうな」

「2人とも無理しないでいいからね」

誠と美里に挨拶して病室を出る前に、市木と目が合った明日香は、

「じゃあ、市木くん、頑張ってね」

と、こそっと言う。それに対して市木は、指導医の前だからか、軽く手を挙げるだけで返事をしてきた。


扉を閉めると「明日香、深尋ちゃん」と声を掛けられ、その方向を見ると、エレベーターホールの物陰から手招きされているのが見えた。

2人がそこに近づくと、そこに居たのは芽衣だった。

「なんだ、芽衣。びっくりさせないでよ」

「わたし、見ちゃいけないものを見たと思ったよー」

「ごめん、ごめん。それより、さっき市木くんから聞いたんだけど.....」

芽衣は市木からさっきの話を聞いたようで、2人が出てくるのを待ち構えていたようだ。


「深尋ちゃんは、大丈夫?」

「わたしは大丈夫だけど、光太郎くんが心配で......」

「ああ、それはたぶん大丈夫だよ。逆に本人は、これで清々したと思っているだろうから」

同じ病院に勤めている芽衣は、美里よりももっといろんなことを聞いているのかもしれない。

その芽衣がそう言うんだから、そこは木南を信じようと深尋は思った。

「でも、芽衣ちゃんも気を付けてね。一緒にエレベーターに乗った看護師さん、隼斗のファンだって言ってたよ」

「もうっ、深尋っ!そんなこと言わないのっ」

明日香は深尋を窘めるが、芽衣は気にしていないようだ。

「ふふっ、深尋ちゃん、大丈夫。だって隼斗くんの一番近くにいる女は、わたしだもん。そんなの相手にしないよ。あ、明日香と深尋ちゃん以外ね」


自信たっぷりに言う芽衣を見て、近々隼斗がプロポーズをすることを知っている2人は、心の中で「隼斗、大丈夫そうだよ」と思った。


その頃、木南からのバトンを持ったままの隼斗は、注文していた指輪を受け取りに来ていた。

僚や木南みたいに、甘い言葉を囁くタイプではない隼斗は、いまだにプロポーズの言葉をどうするか悩んでいた。

「恥ずかしいけど、やっぱ相談するか......」

そんなことをブツブツと呟きながら、隼斗は自宅へと帰っていった。


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