接吻
「ねぇ、そう言えば僕から接吻してばかりじゃない?」
嫁いだ先の旦那様は、台の上に肘を着いて、不貞腐れたように言った。立膝を着いて、酷くアンニュイな目は、もっと自分を求めて欲しいと語っていた。
私はすぅっと目を細めると、僅かに首を傾げた。そうだったか。と思う。思い返せばそうかもしれない。愛情深い方だから、言葉よりも行動で示してくれる。言葉など必要ないと言わんばかりに。
私はその考えを隠し、庭先にある枝垂れ桜を指さした。
「庭に出て一緒に見たいのだけど」
「聞いてなかったの?」
不機嫌な顔がより深くなる。口数は多い方じゃない。語るよりも雰囲気で相手を潰しにかかる。子供らしいところがある。私よりもずっと大人なのに。
私は強請るように、台に散った袖を引っ張ると、また庭先を指さした。貴方に負けず劣らず、私も結構強情なのよ?
先に折れたのは桜華の方だった。着流しに絡んだ指を剥がすと立ち上がり、庭先に出る。背中からでも分かる。不貞腐れている。着いてこないなら置いてく。とでも言いたげだ。
立ち上がると、慌てて後を追う。早くしないと定位置に戻ってしまう。
「桜華」
「何?」
「背が高いの。とっても」
後ろから首に巻き付くようにして抱き締めた。背の高い彼にしがみつくのは、やっとの事。一歩間違えたら首が締まってしまうかも知れない。それでも離してあげない。
彼の大きな溜息が聞こえて来た。私の顔を見て憎まれ口を叩こうとした時だった。
「屈んで」
「僕に跪けと?」
「背が高すぎて、接吻一つ出来ないの」
髪を撫でて、猫背になった彼の首に腕を巻き付ける。表情に嬉しさはない。あるのは呆れ。私に対してじゃない。自分に対しての。「君には本当に敵わないよ」と目で語っている。
そんな彼の甘さに感謝して、そっと唇を重ねた。やわこい感触を味わっていると、そろりと首を撫でられた。慈しむような手つき。不機嫌さは春風に流したようだ。
「聞いてたんだ」
「勿論」
振り回される、桜華が、見たかった!!(後悔はない)
こーんな事をしょっちゅう繰り返してます。
塩舐めたいね!! かっ!!