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7 試験

 蓮の家でのお泊りは、千春や辰雄に加えて、蓮の父、母、妹×2、が来たため、てんやわんやのお祭り騒ぎだった。しかし、両家とも結婚には前向きであったことは、蓮と咲にとって悪くないこと。千春が言うには、咲の父も渋々ながら、結婚に賛成しているという。


 吉田家の大騒ぎのせいで、蓮が咲と勉強を始められたのは、皆が寝静まったころだった。


「すみません。うちの家族がやかましくて」


「いえ、むしろ賑やかで楽しかったですよ。うちは家族全員揃うなんてめったにありませんし、あまり言葉を交わしませんから…」


 咲が苦笑いで誤魔化しながらそう言う。蓮は咲の曇った顔に気づき、話題を変える。


「そういえば! 前々から言おうと思って、なかなか言えなかったのですが、僕たちいつの間に結婚することになっているんですか!?」


 蓮は真剣な眼差しで咲を見つめると、咲は目をそらした。


「いやだ、蓮さん。酔っていたから忘れてしまったのかもしれませんが、クリスマスデートの最後にプロポーズをしてくださったじゃないですかー」


 目が泳いでいる咲は、後れ毛をくるくる指でいじりながら言う。


「僕まだお酒飲める年じゃありませんし、出会ってからまだクリスマスを迎えてませんよねぇ!?」


 蓮が突っ込む。


「もしかして…蓮さん、私と結婚するのは嫌なんですか?」


 咲が目をパチパチさせ、上目遣いで蓮を見つめる。最近は蓮も耐性がついてきたが、改めて感じる咲の美貌に緊張する。ぱっちり二重に、きれいな鼻筋。下唇を噛んでおねだりする彼女は、まるで餌をもらう前に甘える猫のよう。


「嫌じゃないです。咲さんは美人で気立ても良く、とても理想的な女性です。しかし、僕が咲さんに見合うパートナーなのか不安なんです…。 僕より顔のいい人だっていただろうし、僕よりお金持ちの人もいるだろうし、僕より度胸のある人もいるだろうし、僕より気配りできる人もいるなんて、たくさんいると思います。だから、どうして僕を選んでくれたのかなって」


 蓮は最近もやもやしていた胸の内をさらけ出した。咲と過ごす時間はとても心地よいし、咲と出会ってからよく人と喋るようになった。顔も柔和になったと周りにも言われ、蓮は咲にとても感謝している。しかし、今まで恋人はおろか友達すらまとも居なかった蓮は、自分に不釣り合いなほどよくできた彼女を受け止める器がないのだ。


 自分からアプローチするならまだしも、咲の方から告白してくれるなんて都合が良すぎる。イケメンでもなければ気配りもできない自分が彼女と釣り合うわけがない。蓮の中で、彼女との交際は辻褄が合わないのだ。


「好きに理由が必要なんですか?」


「え」


 急な質問に、蓮はたじろく。


「好きかどうかは直感だと思います。もちろん、好きになる要素として、容貌や財力、性格など、たくさんあると思います。私が蓮さんを好きなった理由も、おばあちゃんを助けてくれた優しさかもしれません。でも、人を好きになるとき、そんなこと意識しますか? 私は、好きになった理由やきっかけなんて、理性で後付けしたものだと思います」


 咲は少し不機嫌そうに、淡々と述べる。


「もう私ばかりが好きで嫌になりそうです。蓮さんも私のことが同じぐらい好きだったら良いのに」


 咲はデクレッシェンドのごとく声が小さくなる。咲の心を表しているかのようにポニーテールがだらんと下がる。


「僕も、咲さん好きですよ。最初は綺麗すぎて別世界の人と接しているみたいでしたから、好きなのかよくわかりませんでした。でも、何回もお話するうちに、咲さんを愛おしく感じるようになりました」


 それを聞いて咲の瞳がパチッと開く。


「どうして私のことを愛おしく感じるようになったのですか?」


「…わかんないです」


「ふふっ、じゃあ私にも、どうして好きになったのか聞かないでくださいよ」


 咲が小悪魔のような笑顔で、蓮のほっぺたを鉛筆でつつく。


「確かに。好きの理由を聞くなんて野暮でしたね」


 蓮が苦笑いする。


「そうですよ。あと、自分のことをあまり卑下しないでください。聞いていて気分が良くありません。いずれ夫婦になるのですから、また何かあれば、二人で相談しましょう」


 咲は慈愛に満ちた顔で言う。


「ごめんなさい、気を付けます。 あ、そうそう結婚! けっきょく、結婚する流れになっていますけど、プロポーズとかした方がいいですか?」


「それは一人で決めてくださいっ!!」



 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○




 季節は変わり、日が暮れるのがすっかり早くなった頃。冬休みの蓮は咲の家で、付きっきりで勉強を教えていた。


「もし蓮さんと同じ学校に合格できなかったら、どうしましょう」


 咲は眉尻を下げて不安そうな顔をする。


「大丈夫ですよ、模試は咲さんA判定ですし。なんなら念のために僕も、咲さんの滑り止めの大学受けておきましょうか」


「そこまでしなくて大丈夫ですよ。でも、蓮さんと同級生ってちょっとおもしろそう。ふふ」


 そんなたわいもない未来の話しをしていると、背の小さな青年が部屋に入ってきた。


「やあ、義弟くん。今日は父親が出張だから、いつものお目役を私が引き受けたよ!」


 何も考えていなさそうな笑顔で青年は言った。


「うちの兄です。大学生で一人暮らしをしているので、蓮さんにご紹介するのを忘れていました。テキトーなことばかり言っているので、ほどほどに聞き流してください」


 咲は隠しているものを見られたかのような顔だ。


「妹ちゃんは手厳しいなぁ。さあ、義弟くん! そろそろお布団を敷いて、今夜は男どうし語り明かそうじゃないかっ」


「ははは…わかりました。ちなみに、僕の名前は吉田蓮です。よろしくお願いします」


 義兄の奇妙なテンションに、蓮は一抹の不安を感じる。


「あ!もしかして、義弟くんという呼び方が嫌だったかい? それなら次から、お婿(むこ)くんと呼ぼう! さあ行くよ」



 蓮は義兄の隣の布団に入る。


「それでは修学旅行さながらに、恋バナといこうじゃないか!」


 蓮は義父のトラウマを思い出す。


「そうですねー」


 蓮は、咲に言われたように適当に受け流す。


「お婿くんは、好きな子いるかい?」


「もちろん咲さんですよ!」


「そうかい。そうだよねぇ。妹ちゃんは少し怒りっぽいところや、悪女の一面もあるけど、気立てが良くてかわいいからねぇ。お婿くんの気持ちもよぉーく分かるよ」


「さようでございます」


 また、蓮は適当に受け流す。


「ちなみに僕も好きな子がいるんだ! それはなんと許嫁(いいなずけ)ちゃんさ!」


「へぇ、許嫁さんってドラマの世界みたいですね」


「そうだろう。ロマンチックなんだよ。ドラマなら、本当は好きな人がいるのに、無理やり許嫁と結婚させられることが多いよねぇ。しかし!僕たち許嫁どうしはとっても仲良しなのさ! お互い小さい頃からよく遊んだし、今でも毎週デートに行くんだ!」


「へー、そーですかー」


 蓮は再び受け流す。何だか嫌な予感がするので、もう寝ることにした。


「それでね、許嫁ちゃんはとても素敵な子なんだ。お淑やかで気が回る子なんだよ。この間はね…ってお婿くん、起きてるかい? いま話の山場だよ! せめて許嫁ちゃんの名前だけでも聞くんだ!」


「起きてますってー。目が疲れているので閉じながら聞いておきます」


「それなら安心したよ。それでね、このあいだ夢の国にデートに行った話なんだけど、僕が食べ物で服を汚してしまったんだ。するとね…ってお婿くん、本当に起きてるかい? どうして返事しないのさ。 お婿くん!眠ると凍え死んでしまうよ! 頑張って生き残っておうちに帰るんだ!」


 そうして、一方的な恋バナは夜明けまで続いた。




「おはよう、お婿くん。 僕は君を妹の夫として認めるよ! ぜひ今後とも仲良くしてやってくれ!」


 ほぼ寝ていないのに、どうしてあんな元気なのか、不思議に思う蓮だった。



 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○




「いよいよ合格発表ですね、蓮さん」


 もう悔いはないといった顔の咲。咲は無事に一次試験、二次試験を受け終わり、今日はいよいよ結果が分かる。二人ともパソコンを前に、今か今かと待ちわびる。


「お、ど、ど、どうしよう。もし落ちちゃったら家庭教師は僕だし、落ちたら僕のせい。僕のせいでしかないよねぇ!?」


 ぶるぶる震えて青ざめた顔の蓮。自分の試験でないのに、かつてないほど緊張している。


「なんで私より緊張しているんですか。おそらく受かっていますよ。自己採点したら余裕で合格点上回っていましたし。シャキッとしてください。旦那さんになるんでしょ!」


 その言葉にギクッとする蓮。


「そうだよ。僕は咲さんの旦那さん。たかが試験にうろたえませんよ。ガタガタガタガタ」


 そうして二人でじっとパソコンを眺める。


「あ、ありました! 合格しましたよ! 蓮さん」


「おめでとー!咲さん! 咲さんの努力の成果ですよー!」


 二人とも抱き合って喜びを分かち合う。どさくさに紛れて、何気に初めてのハグである。

 二人で合格の達成感を噛みしめ、一通り喜び終わったころ、蓮は真剣な顔で口を開いた。


「咲さん、大事なお話があります」


「はい。どうぞ」


 やけに、すんなり対応する咲に、蓮は少し驚く。





「僕と結婚してくださいっ!」


 目をギュッとつむって結婚指輪を差し出す蓮。


「はい。喜んで!」


 咲は満面の笑みで言う。そして、咲に指輪をはめ、蓮はピョンピョン跳ねて喜ぶ。


「とっても緊張しましたよー。プロポーズ大成功です! 咲さんもっと驚くと思っていたのに、結構落ち着いて返事しててビックリでした」


 何がともあれ、上手くいって蓮は大満足の様子だ。


「うふふ、とても嬉しかったですよ。でも、不自然に膨らんだポケットから、もしかしたら結婚指輪かな?とは思っていました」


 イジワルな顔で咲が笑う。


「なんてこった!!」


 絶妙に詰めの甘い蓮だった。

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