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虫取り網に捕まってしまう前に

煙の香水

作者: 詩音

アパートの一室、恐らく入った瞬間に8割の人間が不快感を示すような風景。乱列しているペットボトルゴミに投げ散らかされたビニール袋とコンビニ弁当の容器や煙草の吸殻。灰皿はもう何ヶ月替えていないのだろうか。そんなことを考えていると腕を掴まれ引っ張られる。その力はとても凶暴でオーラを纏った肉食動物のようだった。しかしそれと同時に優しくもあった。鋭利な爪を持っていながらも最愛の相手を優しくエスコートしているように。押し倒されベッドに寝っ転がり交え始めた。そういえばここに来た理由は何だったのだろう。拒否しようと思えば出来たはずだし無理して来る必要もなかった。しかしこの男には恐怖やついて行ってはいけないオーラがあるのにも関わらず周りの女を落としてしまう唯一無二の魅力があった。自分もまたそれに惹かれた1人。男は想像通り凶暴だった。自分の快楽だけを求め続ける。私は存在するのか?自分の意思と身体が別の場所にあるんじゃないかとすら思えてくる。それは自分の体の扱いがダッチワイフとなんら変わりのないもので優しさ等微塵も感じられない。

きしむベッドの横でゆりかごが小さく揺れる。揺れ続ける。

このゆりかごの揺れの大きさは私の悦楽と比例していた。驚く程に。ただ激しかったから、そんな単純な事ではなく自分の感覚がゆりかごに憑依しているかのように思わせる。ゆりかごに憑依した自分はきしむベッドの上で乱暴に扱われそれでもなお彼を肯定し続ける自分を俯瞰に眺める。行為を終えると彼は足早に煙草を吸い始めた。目の前で寝っ転がっている女はまだ余韻に浸っているようだ。男と女の差はここだよな、と男は考える

自分の最大のエクスタシーを味わった後の余韻は男には長くても4〜5秒程しかない。それに対し目の前で余韻を楽しんでいる何かは目を瞑り何かを感じている。それはエクスタシーでなく心の中にある意識的なものに謝っているかのよう。

彼女はそのまま暫くすると起床し帰っていった。 男は窓から歩いている彼女を見つめる。二度と会うことも話すこともないのに。

ワンナイトラブ。書いてみたかった。

経験はないが想像は出来る。

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