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エピソードゼロ

 ようやく今日のイベントが終わった。スマホの画面に釘付けになって1時間、個人3位を確保できたのは無課金としてはゲームを解釈し尽くした結果で、それなりに満足できた。チームもランキング4位をとることができ、無課金、初心者歓迎のギルドとしては大健闘といっていいはずだ。

「ギルマスお疲れ様でした。」

「ギルマスの指示のお陰で勝てました!」

「ダガゲルゲさん抜きでここまでいけるなんて!」

そう、今回は我がギルドのエース、ダガゲルゲさんがいなかった。というか、ここ一週間inしてない。かなりこのゲームに課金しているはずだし、ギルドの運営上も不安が大きい。個人3位だって、今まで溜め込んでいたアイテムを全部放出した結果だ。最も、景品で次も戦えそうだけど。


 感謝の言葉が個人チャットや、ギルドチャットに連投され、できる範囲で返信しているときだった。

メッセージが一件あるのに気がついた。

「運営上手で感心しました。リアルでもギルマスやりませんか?」

奇妙だから、無視しよう。即決。うちのギルドメンバーでもないし、仲良しのギルメンでも、ライバルのギルメンでもない。とにかく、ギルメンやフレンド達に返信する。このコミュニケーションが大事。そうでなくては、ギルマスとしての求心力が低下してしまう。



 さらに個チャがくる。ようやく返信が一段落したので、何となく見てみる。

「無視しないでください。貴方にとっても良い話だと思うのですが。」


 きも。


 ブロックだ。折角楽しくゲームをしているのに、時々こういうことがあるから嫌だ。もう寝よう。ギルドチャットに、落ちると言い残し、スマホを充電器に差し込んだ。充電は100%にすると、電池の劣化が早くなるから良くないんだけど、20%を切っているからしょうがない。明日の朝には100%だ。電気を消して、布団をかぶって寝る。イベントも終わったし、明日から二週間、次のイベントまでゲームは通常運転だな。



「いきなりブロックは酷いと思わないかなぁ。」

音も無いのに声がする。さっきから何時間経った?少しだけ開けていた窓が開く音がする。普段なら、地震が起きても目を開けないのに、そっと目を開ける。小さな人間が部屋に入ってくる。恐怖心MAXだが、悲鳴はでなかった。夢、か。それなら理解できる。でも、夢ならリアルすぎだ。


 暗くてよく分からないが、電気はつけない、嫌、つけたくない。何が起こっているかわからないが、家族の誰かが起きるのはまずい気がする。

「夢じゃないよな。」

呟く。うん、起きている。ちゃんと自分の声を認識できた。手を握ると、感覚も伝わる。ならば、あの空中に浮いている人のようなものは何だ。

「現実ですよ、髙﨑玲二君。」

まただ。声、ではない。骨伝導イヤホンを聞いているような、そんな感じだ。直接響いてくる。宇宙人か、妖怪か、こんなことができる人間なら、超能力者か。ニュータイプなら、アニメの世界だ。


 じっと人形(ひとがた)を見つめる。表情がうかがい知れないし、反応もない。思いきって話してみる。

「宇宙人?」

「正解、流石頭の回転が速い。」

なんだこれは。やはり脳に響く。意味がわからない。

「脳に直接話しています。貴方達がテレパシーと呼んでいる能力です。」

一つ疑問が解けたが、大きな問題は全くわからない。これからどうなるのか教えてplease。とりあえず、自分の手には負えないなにかが始まることだけはわかった。


「個チャしてきた人、いや、宇宙人か。」

敬語を使うか迷ったが、止めた。精神的に不利にはなりたくない。

「ご名答。説明を色々省けそうで、感謝いたします。」

胡散臭い。いや、逃げ出したい。でも、どうやって?自分の部屋から逃げてもどうにもならんよな。考えはまとまらない。

「正義軍対悪魔軍、あえてゲームで悪魔軍を選び、不十分な陣容のメンバーで勝つ、素晴らしい能力ですね。」

今日のソシャゲの事まで、よく調べているなぁ。

「ソシャゲからスカウト?」

「その通りです。あなたの能力は素晴らしいです。それを現実世界でも発揮してほしいのです。」

「ありがとう。でもスカウトは断ります。申し訳ないですが。」

慎重に言葉を選びながら、拒絶する。

「条件くらいは聞いてくれませんか?」

相変わらず表情はわからない。ただ、ちょっと不機嫌そうだ。雰囲気を悪くしてはいけない。

「わかった。話を聞いてから返事をするよ。」

どのみちyesしかなさそうだと思いながら、相手の提案に乗ることにする。



「ところで、貴方は現状に不満はないかね。今の日本に。」

なんだいきなり。

「今の生活に不満はないよ。生きていられるだけで、幸せでしょ」

とりあえず、否定から入る。交渉の初歩だ。

「チャットで政治や社会に文句を言っていたはずでは?ちゃんと見てましたよ。」

はいはい、そうですか、見てましたか。

「それは日本国民の70%くらいは思っていることでしょ。政府の支持率と無党派層の割合考えればね。」

「その日本を変える力を差し上げたいのですよ。」

「僕を使わなくても、日本を変えることくらい容易いのでは?」

切り返す。そうだろ?宇宙人なんだから。宇宙人総理とかになれば良いんだ。

「私は影から支えたいので。」

ニヤリと笑ったように見えた。

「それなら、政治家とか使えば?その方が早いよ。タレントもオススメするよ。知名度がこの国では力を発揮するから。」

自分に火の粉が降りかからないように、誘導する。でも、それを感じさせないように合理的に。

「それでは面白くありません。私はもっとセンセーショナルなショーのお手伝いがしたいのです。」

「センセーショナルなショー?」

なんだそりゃ。意味がわからない。

「そうですね、バイオレンスなバトルです。アニメや、漫画、テレビのような世界を作りたくて、貴方に声をかけたのです。」


 はあ?


 今までと違う、ぶっ飛んだ発言に、思考が止まってしまった。たっぷり1分考えて、一つの結論にたどり着く。

「僕に超能力かなにかを与えるから、それを使って世の中を帰ろってこと?宇宙人なのに、なんでそんなことを知ってるの?」

厨二病って、宇宙にも蔓延してるのか?最強のウイルスだ。真空でも生きるし、飛沫感染でもなく、雰囲気で感染できる。ヤバ。学会で発表しよう。

「私が地球に来るまで、地球の情報を様々な映像機器から吸収した結果です。いけませんか。」

wow。ガチの厨二病だった。ということは、余計たちが悪い。正攻法の説得は消えた。しかも、不機嫌そうに見える。顔色わからないのに。

「わかった。何日か時間をくれないかな。」





 返事がない。

 空気が変わるのがわかった。

「ああ、もう、面倒くさいなぁ。」

身体が動かない。呼吸もできない。

「こうしたくなかったんだけど、言うこと聞いてくれないと死ぬよ。」

「………」

おかしい。喋れない。喉の奥を塞き止められたようだ。かすかにヒュウ、ヒュウと音がして、ごくわずかに空気を吸っている感じがする。意識はまだある。目の前の奴を睨み付ける。立ち上がる。相変わらず表情がわからないが、やはりバカにしたように笑っている。畜生。


何分、何秒経った?苦しい。何秒持つ?せめて睨み付ける。苦しい。くるしい。くるしい。くるしい。くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい、く、る、し、い、くるう、くる、しい。視界が徐々に暗くなる。奴の姿も見えなくなる。目を開けているはずなのに。あぁ、死ぬんだ。実感がないけど。畜生、悔しい。込み上げてくるのは、単純な憎悪。頭が沸騰するような、何も考えられなくなる。あ、















 意識は急に戻った。呼吸が戻っている。さっきのは?視界も徐々に戻る。そして、目の前に、残念ながら人形(ひとがた)がいる。先程以上に、睨み付ける。怒りはやまないが、沸騰するほどではない。殺されなかったからだろうか。

「殺してしまう前に、協力を誓ってくれませんかね。」

選択の余地はなかった。分かったよ。やらなきゃ殺られるのね。



 宇宙人は、ヲンと名乗った。宇宙を旅する途中で、地球からの電波を得て、日本の特撮を知ってハマったらしい。そして、日本に辿り着き、特撮が現実には無いことに愕然としたそうだ。

「しかし、無ければ造れば良いと、そう気が付いたのです。」

ヲンはそう言った。ありがた迷惑だが。



「ということで、悪の首領のスカウトです。」

曰く、本当の悪人なら、正義のヒーローと戦わずに、己の欲望のために動くだろう。それだとヲンのご期待に沿えない結果になる。ヲンはヒーローと怪人の戦いがみたいのだ。そうか、それでソシャゲで興味がありそうなヤツを探したのか。でも、僕は悪側で戦ったのは、悪に憧れがあるわけではない。

「正義が嫌いで悪な訳じゃない。単に、無課金でも戦いやすいシステムが悪側だったんだ。」

ヲンにexcuseする。悪の首領なんて、やる気でないぞ。

「そうなんですか?でも、前回のスカウトは上手くいきましたよ。」

ヲンがうっかり口を滑らせた。



「すでに、スカウトをしたことがあって、そのときは上手くいったんだ?」

無表情の宇宙人の癖に動揺がはっきりわかる。嫌なところをつくことができたようだ。ふと、思い出した。towitterのトレンドだ。yahhooニュースにも一瞬なった。何日か前、公園でいやにリアルな特撮ヒーローショーだか、コスプレがあって、ネットニュースになったやつだ。ということは、すでに悪の首領が一人いるってことか。

「うーん、ばれてしまいましたか。貴方の前任者は、残念ながら第一話が最終回になってしまったのです。かなり前のめりで取り組んでくれたのですが。」

いると思ったら、いなかった。共闘できると思ったのに。

「さぞかし話は合ったのだろうね。」

恐らく前任者は厨二だったのだろう。こんな変な話をノリノリで引き受けるなんで、どうかしてる。

「ええ、それはそれは。逆に私にアイデアまで下さるくらいでした。設定は大切ですので。」

頭の中に、名前が一つ浮かんだ。

「ダガゲルゲ、それでinしなくなったか。」

「流石、流石、それだけ理解力の高い貴方なら、今度は上手くいきそうです。彼はいわゆる兵士で、私が必要としていたのは将軍なのです。」

表情は相変わらず分からないのに、満面の笑みを浮かべたようにみえる。でも、ダガゲルゲは課金で強くなっただけ。でもまあ、あれだけ課金するほどゲームに入れ込んでいたんだから、空想の世界が実現して、さぞかしテンション高かっただろう。

「で、調子に乗って、ヒーローに退治されたと。」

「その点貴方なら大丈夫ですよね、ちゃんとエンディングまで頑張っていただきたいのです。」



 幸い、ダガゲルゲは無事だそうだ。

「あの小物が気になるのですか?幸い大した情報も与えていません、正義の味方に懺悔して、命ばかりは助かったようですよ。」

可哀想に、使われるだけ使われて、ポイか。

「その言い方だと、内容を深く把握した後なら、正義のヒーローに捕まった時に君に殺されてしまいそうだね。」

話はゆるゆると核心に入っていく。ここからが、勝負所だ。

「それは貴方次第では?」


「もしかして、ヒーローを造ったのもお前なのか?」

一人芝居に協力するなんていう茶番は勘弁だな。しかし、幸いにもそうでは無いらしい。

「いえ、私と一緒に地球に来た宇宙人です。」

「特撮にはまった宇宙人同士で、正義が勝つか悪が勝つかで揉めて、実証実験ってところか?」

「やはり話が早い。今度は勝てそうだ。だってそうでしょう?普通に考えたら、悪が勝つと思いませんか?」

「君の望みは、最終回で悪の首領が死んで、平和な世の中が訪れることなのでは?」

特撮は当たり前だか、正義が勝たねばならない。

「いえ、悪の首領が勝つのも面白いと思ってますよ。というか、悪の勝つエンディングが見てみたいのです。」

どうやら、死なずにすむかもしれない。



「いいよ、君の話に付き合ってあげても、ただし、ちゃんと僕の命を保証してもらおうか。」

嫌々な感じで、こちらの最低条件を切り出す。乗ってくれ。まあ、乗ってくれなきゃ死亡フラグ確定でゲームだ。やる気でねぇ。

 暫しの間があった。宇宙人なりに考えたんだろう。

「宜しい、貴方の命は保証しましょう。そして、この物語の完結時には、勝利、敗北に関わらず、貴方を解放してあげます。」

空手形、口約束、でも、これに賭けてみるしかない。とにかく、宇宙人に対して最大限の譲歩は手に入れた以上、条件をあれこれいうのは得策じゃない。

「紙面にしておきたい所だけど、信じるよ。代わりに全力でこの物語を盛り上げてあげよう。ただし、結末は君の思い通りにはいかないかもしれないけど。」


 この日を最後に、正確にいえば「リアルで大変なことが起こったから引退します。」と言い残し、ソシャゲを止めた。これからは、おそらく、命を懸けたゲームが始まるのだ。 

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