カフェラテご注文のお客様
「あの、注文したものと違うんですが…」
「え?カフェラテをご注文されませんでしたか?」
「いえ、ブレンドを二杯です。」
ま、また間違えた…
お客様に返されたカフェラテを木製の盆に載せたまま呆然とする。注文内容を間違えるのはこれで今月八回目。これは叱られてしまう。
いや、今日私は確かに『カフェラテ1つ』という注文を聞いたはずなのだ。つまり、このカフェラテを待っているお客様が店内にいるはず。そのお客様に無事届けることが出来ればミッションクリアだ。
店内を見回す。和やかな雰囲気のカフェに設置されているテーブルはすべて埋まっており、町で評判のこの店は今日も繁盛している。
「誰だ…」
カフェラテ1、と言ったお客様はどんな見た目だったか。えっと…たしか綺麗な金髪に白い肌の女性だったはず。…条件に当てはまる方が8人ほどいらっしゃいますね!特定できん!
ここで『カフェラテ一杯ご注文のお客様いらっしゃいますかー!』なんて言ったら店長にバレてしまう。そうしたらまたこっぴどく叱られる。あの人の説教、長いんだよな。嫌だ。
ぐっと唇を噛み締めて突っ立っていたら、盆の上のカフェラテがだんだん熱を失ってきていることに気付く。しまった、カフェラテが冷めてきている。
今重要なのはお客様にご注文の品を届けることであり、叱られることを嫌がって何もせず立っていることじゃない。
「っお客様の中に!カフェラテご注文のお客様はいらっしゃいませんかー!」
結局、カフェラテを注文したお客様は見つかったけど冷めきっていたので入れ直して提供することになった。注文したお客様は金髪ショートの中年男性だった。店長には閉店後に一時間ほど説教された。
「そもそも、金髪の人が多すぎるんだよ。というか髪の毛がカラフルすぎ。赤い髪とか青い髪とか色素どうなってんの?」
宿屋の一室、ベットに寝ころびながら隣のベットで剣の手入れをする女騎士様に愚痴る。
「いや、お前の国もそんなもんだっただろ?むしろお前の髪の方が珍しいんだよ。」
うーん、そういうことじゃないんだけど…なんて思いながら自分の髪を掴んで目の前まで少し引っ張る。
見事な銀髪だ。灰色より光輝き、白というほど薄くはない髪は以前より少し傷んできている気がする。
自分の髪だけれど今でも見慣れないし、正直少し気味が悪いぐらいだ。私にとっては『これぞ東洋人!』といわんばかりの真っ黒な髪が普通で、アニメで見たことがある、もしくはコスプレイヤー様が付けるウィッグでたまに見るぐらいの銀髪が自分の頭から実際に生えているのはちょっと不気味なのだ。
「この世界で黒髪みたことないんだけど」
「なんか言ったか?」
「なーんにも!」
羽根枕を両手で鷲掴みにして足をばたつかせる。そういえば、この世界で泳いだことないなぁ、と思いながら。
「なんで仕事が出来ないんだろ…個人的には超がんばってるのに。やっぱり私も冒険者として生きていこうかなー」
「お前壊滅的に才能ないだろ。すぐ死ぬぞ。」
「そこはほら、助けてくれるでしょ?」
「お前というやつは…」
異世界転生なんて貴重な体験を図らずもしているわけだから、それこそ前世じゃなかったような冒険者という職業で気ままに生きたかったというのに、転生特有のチートなんてなかったようで。たまたま私を拾ってくれたこの女騎士の友人さんのカフェで店員として雇ってもらっている。
「異世界チート、したかったなぁ…」
転生したおかげで美少女になれたけど、神様は私にもっと特典を付けてくれてもよかったんじゃないかと思う。
「明日も朝早いんだろう。そろそろ寝ろ。」
「はい…」
布団に潜り込み、頭を枕に乗せる。明日朝起きたら、チート能力に目覚めていますように、と願いながら。