第九話「善行は命がけ」
しかし、歩き出したオクマーマを再び取り囲む黒い影が!
「あっ! さっきの不良っちゅ!」
「オイ! このクマ公~、よくも騙しやがったな!」
「なっ、なんと言われても、イジメはダメっちゅ!」
「オイみんな、やっちまえっ!」
多数の不良たちに、一方的に暴行を受けてしまうオクマーマ!
「痛いっちゅーーーっ!」
オクマーマも必死に抵抗しようとするが――いかんせん体も小さく、力も幼女キミナと同程度しか出ない非力であり――殴られ、蹴られ、踏みつけられ、散々にいたぶられてしまうのであった。
さらには手足や首まで多人数に引っ張られ、ついにビリビリと音をたてて半分引きちぎられてしまう!
「アアーーーッ!」
中途半端に引きちぎられ、手足や首がブラブラ状態になってしまったオクマーマ。そのあまりの痛みに、地面をジタバタとのたうちまわってしまう――。
それでも、なお攻撃をやめない極悪不良たち。
「なんだこのクマ公……これで一体、どうやって動いてんだ⁉ 中には綿みたいなのしか詰まってねーぞ、気持ちわりーな!」
「そうだ! 試しに、火で燃やしてみようぜ!」
ライターで、オクマーマに着火してしまう不良学生たち!
「熱いっちゅーーーーーーーっ!」
悲痛な叫びと共に、全身が炎上してしまうオクマーマ。
のたうちまわって苦しむが、そのうち――ついに、ピクリとも動かなくなってしまった。
体は激しく炎上したまま、だんだん無残な黒こげになってゆく……。
そして――。
「おっ、おいっ、なんだよこれ! 全部燃え尽きちて灰になっちまったぞっ⁉ 死んだのか⁉」
「こいつ、もしなんかの生命体だったら……。ひょっとして俺ら、場合によったら殺害容疑にされちまうんじゃねーかっ?」
「やっ、やべえ! 逃げろっ!」
オクマーマが燃え尽きた灰を目の前に、一転して情けなく退散していく不良学生たち――。
オクマーマは、本当に死んでしまったのであろうか?
しかし不思議なことに、風が吹いても灰は舞い散ることなく固まっている。
実は――宿っている魂が、無意識のうちに本体である灰を包み込んでいたのだ。
ほどなくして、その場を飛び去る灰と魂。
そして、あの静かな研究所の敷地内へと着地したのである。
それからジワジワと、オクマーマの姿へと修復されてゆく灰――。
「あっ、ここは研究所っちゅ!」
灰の状態からですら、オクマーマは僅か数日で完全復活したのであった。
「そういえば、オクマーマは……。不良たちにやられて……死ぬほど痛くて、熱かったっちゅ……。死んだかと思いまちた。いや、死んだはずっちゅ……。でも、今はなぜか完全に治ってまちゅ。まさか、オクマーマは不死身なんでちょうか⁉」
自分が不死身らしいと認識したオクマーマだが、同時に困惑もしてしまう。
「でも……。あんな死の痛みは、もう二度と嫌っちゅ……」
今後また死んでも、不死身ゆえに何度も復活し続けてしまう――その度に地獄の苦しみを無限に味わってしまうのでは、いくら使命を果たせても生き地獄である。
「それでも……オクマーマの使命は、やっぱり善行っちゅ」
オクマーマは、行動の度に悲惨な目にあってしまった問題を再び考えた。
「命がけの行動をしても、死ぬほどのダメージを受けにくくする方法を考えまちょう。やっぱり……力がないと、理不尽でも悪人に一方的にやられちゃいまちゅ。そうっちゅ! とにかく力をつけて、悪い心と戦うっちゅ!」
いくら綺麗事を言っても、人間が人間である以上――悪がゼロになるということは、残念ながらあり得ない。いくら話してもわからない悪が、必ず一定数は存在してしまう。
だから警察や防衛軍がどの国にも存在し、力の抑止によって辛うじてバランスが保たれているのが『人間の現実』である。
もし横入り男や不良を止めようとしたのがオクマーマではなく、格闘家みたいな人だったとしたら――彼らは力が絶対かなわない相手を見て、嫌でも自分から悪行を自重していたかもしれないのである。
そして自分が力を使わなくとも、力を持っていること自体が大きな抑止となる。
それでもなお、相手が暴力を使おうとしたのなら――その時は彼ら以上の力で、強制的に止めることさえ可能になるのだ。
「正しい心と、正しい力の両方を持って、初めて車の両輪になるっちゅ! オクマーマが力をつけるには、どうしたらいいんでちょうか……」




