第八話「理不尽な学園生活」
マユミへの感謝と同時に、そもそも『なぜこんな傷だらけになるハメになってしまったのか』という原因について、深く考え始めるオクマーマ。
「口で言って聞いてくれる相手なら、話せばすぐ解決しまちゅ。でも良くないことをしていた人の多くは、口だけではほとんど通じまちぇん……」
オクマーマが悩みながら歩いていると――ある一人の学生が、多数の不良に絡まれていた。
「おいアツシ! テメーなんかムカつくんだよな~! 顔も態度も、とにかく気に食わねーんだよ!」
「ぼ、僕は……。別に、なにもしてないじゃないですか」
「テメーの顔が、元からムカつくんだよ!」
「なんだよそのクソみたいなホクロは? そうだ! これからアツシのこと、クソボクロマンって呼ばねえ?」
「へへッ、いいなそれ! おいクソボクロマン、これから毎日俺らの荷物を運んどけや!」
「…………」
アツシは下に伸ばした両手の拳を握り、無言で涙目になりながら震えている。
「なんだよ、クソボクロマン! 偉そうに、不満なのかテメー⁉」
「おいお前ら、とりあえずこの生意気なクソボクロマンを抑えとけや」
ボスが他の不良に命じると、数名がアツシの腕や体を掴んで動けないようにしてしまう。するとボスは、なぶるようなビンタから軽く繰り出し始める――。
「おい、なんか言ってみろよ? クソボクロマンよ~。オウ?」
アツシは動くに動けず、一方的にいたぶられ続け歯を食いしばっている。
(あっ⁉ イジメっちゅ! しかも、一人を大勢でリンチっちゅ! 汚いっちゅ!)
後先考えず、不良の中へ飛び入るオクマーマ。
「やっ、やめなちゃいっ!」
「あんっ⁉ な、なんだっ? この変なクマ公は⁉」
オクマーマの乱入に一瞬驚いた不良学生たちは、思わず取り押さえていたアツシの体から手を離してしまう。
アツシはその場に崩れ落ちたが、不良たちはすぐにオクマーマの方へ矛先を向けて来るのであった。
「おい、クマ公! なんだか知らんが、俺らに刃向かうとはいい度胸してるじゃねーかテメー!」
その時、遠くから大柄な人が歩いてくる影が目に入ったオクマーマ。
「あっ! 先生が来たっちゅっ!」
「なにっ⁉ やっ、やべえっ。とりあえず、一旦逃げろっ!」
その歩いて来た人が教師かどうかは、オクマーマには当然わからない。だが駄目で元々の古典的手法で思わず叫んでみると、不良学生たちは意外とヘタレで一瞬パニック状態に。
そしてイジメられていたアツシ少年を残し、蜘蛛の子を散らすように退散してしまうのであった。
「あ、ありがとう……。勇気あるんだね、君……。名前は?」
「オクマーマっちゅ。今の不良たちは、一人に対してあんな多人数で卑怯すぎまちゅっ!」
「僕はアツシ。今回君のおかげで助かったけど、今度は君が危ないよ。あいつらは本当に極悪なんだ……」
「オクマーマは大丈夫っちゅっ! それより、アツシちゃんはなんで抵抗しないんでちゅか?」
「そ、それは……」
「あの人数に勝つのは無理としてもっちゅ、一人くらい道連れに出来るかもしれないっちゅ」
「ぼ、僕だってっ! もし一対一でなら、力では負けない自信はあるんだよっ! でも……」
一瞬強い口調になったアツシだが、またすぐうつむいてしまう。
「仮に自分に非がないことでも、とにかく揉めごとを起こすなって親にキツく言われてるんだ……」
「それはダメっちゅ! そういうのは、事なかれ主義っちゅ!」
「で、でも……」
「明らかにあっちが悪いなら、なんとか方法を考えて戦うべきっちゅっ。無抵抗で言いなりになると、悪人はもっと増長しまちゅっ!」
「ごめん。僕もそう思うけど、親にはどうしても逆らえなくて。だから今まで、どんなことをされてもずっと我慢しているんだ。でも、やっぱりつらいけどね……」
アツシ少年は、理不尽であることを知りながら――親にも反抗せず、そのような状況にずっと置かれているというのだ。
「どうしても戦わないなら、せめて逃げるのが可能なら逃げるべきっちゅ。そんな不良のいる学校にこだわる必要はないっちゅ! 別の所に転校した方が、まだマシっちゅ」
「それも……親に頼んだことはあるんだ。それに、担任の先生にもね。でも親も先生も軽く考えちゃってるみたいで、バカなこと言うなって取り合ってくれないんだ。でも僕は、このまま我慢するつもりだよ。いずれ名門校に進学すれば、ああいう人は減るから……」
(どうして、こんな理不尽な状況にずっと耐えなければならないんっちゅかっ⁉ おかしいっちゅ!)
心の中で、そう思ってしまうオクマーマであった。
「でも、今回はありがとう……オクマーマ君。君はもう、この場からすぐ離れた方がいいよ。またあいつらが来ないうちに。それじゃ……」
お礼しつつ、トボトボと歩いて行くアツシ少年。
(アツシちゃんは、あのままじゃ今後もずっと同じっちゅ。そうして将来エリートなったとしても、悪いことに毅然と立ち向かえない『事なかれ主義のダメなエリート』になっちゃうかもしれまちぇん……心配っちゅ)
呆然と立ち尽くしながら、その彼のショボくれた後姿を見守るしか出来なかったオクマーマ。
そしてアツシ少年の後姿が消え去ると、オクマーマもこの場からトコトコと歩いて行くのであった。
今回はアツシ少年を一時的に救ったものの、根本的解決は出来ていないことに肩を落としながら……。