最終話「親子グマの夢」
それからオクマーマとオオクマーマは、普通の人間には出来ない『念波ロボだからこそ出来る能力』をフルに発揮し、共に善行の道を歩んでいくのであった。
そんな、ある日の夕暮れ。
空をゆっくり飛びながら、帰路途中にあった親子グマ――。
「オクマーマ。俺たちは、念波の可能性を引き出すトレーニングをもっとやっていかないとな。俺は、その点ではまだオクマーマより遅れているからなぁ~。頑張らないと!」
「念波を、もっと自由に使えるようになれば~。おはぎパンチも、自由自在に誘導出来るようになりまちゅ。魂を一時的に離脱させて、度々乗り移るのは大変っちゅ。だから、早くマスターしたいっちゅ。おはぎパンチに威力は無くても、手が遠くに届くだけでも便利っちゅ」
「ああ、そういえば。オクマーマは俺が誕生する前に、シッポを切り離して決死の潜入捜査をしたことがあったんだったな。大変な目にあって、つらかったろう」
「あの時は……本当に痛かったっちゅ。思い出すと……怖いっちゅ」
「ごめん、ごめん。でもそのおかげで、警察ではまず無理だった麻薬取引を防いだんじゃないか。オクマーマは、本当に立派だぞ! まあ念波訓練は、焦ってもすぐ上達するわけじゃないからな。地道であっても、一歩一歩やるしかないさ」
「そうっちゅ! 物体誘導もいいっちゅが、オクマーマは『元自我の記憶に残っている物の姿に、念波で自由に変身』が出来るよう夢見てまちゅ!」
「究極に上達すれば、それも理論的に不可能ではないらしいな。もし、それが出来れば……。オクマーマは、オクマーマの自我のままで姿だけ大和キミナの姿にも変身も出来たりするわけだな! それだけでなく、家族の姿や記憶に残っている人々の姿、あるいは記憶に残っている動植物、あるいは無機物……どんな物体の姿にも、ほとんど変身出来るぞ!」
「それが出来れば、アイコママの姿もわかるっちゅ! それに、少なくともママを探す手がかりも入手しやすくなりまちゅ」
「やっぱりオクマーマは、ママを一番探したいんだな。もし変身可能になれば、ママはすぐに判明するぞ! それにしても、元自我の記憶にある物ならどれにでも変身出来るなら本当に便利すぎる。目立たない物に偽装も出来るし、微生物のような極小のものになって隠れることも出来そうだ。なんでもアリだな!」
「パパも~、特訓して変身出来るようになってくだちゃい。そうすれば~、パパの魂が大和テツ本人の魂かも完全にわかるっちゅ。それに、記憶に残ってるママの姿にも変身出来まちゅ」
「生前の記憶にあるものなら男女関係なく、人間以外の物でも全部変身出来るわけだからな。便利ではあるが、それはそれで変な気分だろうな。ハハハッ」
「でも、パパは~。これからもっと忙しくなるかもしれないっちゅ。それに、ザラス団も滅びたわけじゃありまちぇん。それ以外にも、世界の悪は完全にはなくなりまちぇん。世のために、パパは休む暇もないっちゅ。たっぷり念波訓練する時間も、今後もっと減っちゃうかもしれまちぇん……」
「それでも、なんとかやっていこうオクマーマ。それが、俺たち念波ロボが生まれた使命でもあるのだから……。鉱石からの念波がある限り、俺たちは何度死のうが嫌でも蘇ってしまう唯一の存在だ。俺たちだけにしか出来ないことが無限にある!」
「そうでちた~。オクマーマも日々のパトロールや記者活動と並行して、念波トレーニングも地味に続けていきまちゅ!」
「俺の場合は、とりあえず元の自我に残っている記憶が少しでも得られていけば……大和テツの魂であるのなら、念波に関する知識だってだんだん得られるはず。そうなれば念波研究に関しても、大和テツ並にだんだんハイレベルでやれるようになるかもしれない」
「そうなれば、パパは止まっていた念波研究も進められるようにまりまちゅ。新しい念波機器を作ったり、念波ロボのパワーアップや改良も出来るようになるかもしれまちぇん」
「俺のパワーが衰える頃には、オクマーマをパワーの出せる念波ロボに強化出来るようになればいいんだがなぁ」
「世の中の悪は、ザラス団のように無差別テロを起こすような極悪の存在だけじゃないっちゅ。身近な部分でも、非道徳で非人道的なことやイジメとかも未だ多いっちゅ。道義心がなく、自分さえ良ければいいという人も増えてまちゅ。オクマーマは、小さなことでも改善を目指したいっちゅ」
「そうだ。人間が人間である以上、悪の心は必ずどこかに存在してしまい決してゼロにはならない。だが少しでも悪の比率を抑え、全体的に良い傾向を目指すことなら出来る。例えば人間一人の体でも、悪い細胞の比率が増えるとマトモな細胞が残っていてもその人自体が丸ごと死んでしまう。でも悪い細胞がゼロにはならずとも、それを免疫で抑えられる少数以内で常に留めていられれば健康でいられる。国単位や世界単位で見ても、それは同じだろう」
「悪い細胞というのは、自分としてはそれが体のためと思って動いてる場合もあるみたいっちゅね。怖いっちゅ」
「正義というのは人それぞれで違うから、その衝突もある難しいものだ。でも、罪もない人を問答無用で無差別に殺すのが『ザラス団にとっての正義』というなら、俺たちはそれと戦うしかないのだ。一緒にやっていこうな、オクマーマ!」
親子グマがゆっくり飛びながら話していると、ちょうど誰もいない公園の上空にさしかかっていた。
「あっ、公園に綺麗な花が咲いてまちゅ。ちょっと、寄っていいっちゅか~」
「ああ、いいよ~」
誰もいない公園に着地する親子グマ。
「パパ~! この花、綺麗っちゅ!」
「おっ! これは、見事だな!」
オクマーマが花を色々と見ていると、花壇の横に丸まって寝ているネコを発見するのであった。
「パパ~! ネコちゃんが、ここでオネンネしてまちゅ。かわいいっちゅ」
ネコに近づこうとするオクマーマ。
しかしここで、いつかの会話が魂の中に響く――。
「ママ~。せっかくネコちゃんがオネンネしてたのに、キミちゃんが近づいたせいで起こしちゃいまちた……。かわいそうなことしちゃったっちゅ、ネコちゃんごめんなちゃい」
「ウフフッ、落ち込まなくてもいいのよキミちゃん! キミちゃんは、わざとネコちゃんを起こそうとしたわけじゃないんだから。それにネコちゃんはね、また別のところでオネンネするから大丈夫よ~」
「そうっちゅか! よかったっちゅ」
「でも、その優しい気持ちはずっと持っていてね。キミちゃん!」
――この響いた会話によって、ネコに近づくのを思い留まるオクマーマ。短足をゆっくり後ずさりさせ、そのままオオクマーマの元へと戻ってゆくのであった。
「どうした、オクマーマ。ネコがいたって?」
「いいんでちゅ、パパ。ふふう~。……それじゃあ、シンパチおじいちゃんの研究室へ帰りまちょ~」
「そうか? じゃ、帰るか!」
(オネンネしてるネコちゃんを、起こしたら悪いっちゅ。ね、優しいママ……)
オクマーマは、まだ見ぬ母・アイコへの思いを馳せながら――オオクマーマと共に、夕焼け空へと飛び立つのであった。
今後も、親子グマには様々な苦難が待ち受けているであろう。しかし、オクマーマはもう孤独ではない。魂の父オオクマーマ、そしてマユミ、ノリオ、斉田博士……心の拠り所となる、あたたかい仲間たちもいる。
オクマーマはこれからも、大和キミナとして現世でやれなかった分を――念波ロボとしての命ある限り、最後まで目指してゆくことであろう。
これからも頼むぞ、親子グマ!
ありがとう、最弱不死身ロボ・オクマーマ!
字数は最初から計画してはいませんでしたが、ちょうど10万字超えでおさまるような所で打ち切りと致しました。
原典の無印版はオオクマーマと出会う所がまだ物語の中盤辺りで、後半はロボットアニメらしく巨大ロボットバトル編となって親子グマが協力して戦っていく話になっていました。しかしこの『R』は主人公オクマーマ(もしくは大和キミナ)を取り巻く面々とのドラマ中心ということで、どちらかというとオオクマーマやフィジカルバトルがメインとなる後半はほぼ丸ごとカットとなりました。
でも父娘の家族愛という一つのストーリーという事では、これで丁度キリが良かったかなと思っています。この連載の終了時点では感想やレビューもゼロですし、評価点も書き始めた最初期数話の所だけですぐ1件あった以外はゼロでしたので、反響も需要もない物をこれ以上伸ばしても……と思い、予定より少し早く打ち切りました。
私は自分でも下手素人だと思いますし、文章力は1点とか酷評されたとしても全然納得なのですが、せめて内容については誰か一人くらい奇特な方がいて99人1点評価でも1人だけ5点がいるみたいに理解してくれないかな~と思ったのですが、反響そのものがほぼ皆無なので良いのか悪いのかすら分からず終わってしまいました。
それでも極僅かに目を通している方がいらっしゃったのがログで分かったので、なんとか放棄せず終わらせる事が出来ました。最後まで読んでいただけまして、誠にありがとうございました。




