第七話「マユミおねーちゃんの緊急手術」
オクマーマに驚くばかりであったマユミだが、思わずハッとする。
「ああっ、ごめんねオクマちゃん。私も、色々変なこと聞いちゃって……」
「いいんでちゅ。オクマーマも、知りたいっちゅ」
「そ、そうねっ! どんな存在だったとしても、オクマちゃんはオクマちゃんよっ。お互い親がいないのも同じだし、これからもよろしくね!」
「マユミおねーちゃんは、オクマーマのことを妹だと思ってくだちゃい。オクマーマは、マユミおねーちゃんのことをおねーちゃんだと思うっちゅ」
「うふふっ、オクマちゃんもやっぱり女の子だったのね! だから、左の耳にかわいく青いリボンが付けてあったんだ。あっそうだ、オクマちゃん! 体は洗ったけど、ここの部分は破れちゃったままよね……大丈夫⁉」
外皮が破れ、綿のような中身がはみ出しているところをなでるマユミ。
「そこは、まだ少し痛いっちゅ……。でも、時間が経てば自然に治るっぽいっちゅ」
「で、でも……。この破れ方だと、オクマちゃんつらそうだわ。どうしようかな……。そうだわ! ちょっと痛いかもしれないけど、私が手術してあげる!」
早速、裁縫道具を用意してオクマーマを寝かせるマユミ。
「オクマちゃん。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
「オクマーマは、大丈夫っちゅ。お願いしまちゅ」
まずマユミは、オクマーマに注射をするかのように一度針をスッと刺して静止してみる。
「どう、オクマちゃん。痛くない⁉」
「ちょっと、チクッとしまちたぁ~。でも、大丈夫っちゅ」
「そう⁉ オクマちゃんは、表情が変わらず固定されてるから……もし痛かったら、声ですぐに教えてね」
オクマーマが出来るだけ痛くないよう、ゆっくりと丁寧に破れを縫っていくマユミ。
オクマーマは、針が刺される度に少しチクッとはしていたが――さほど痛みもなく、声を出すこともなかった。むしろマユミの優しさが心地よく、心が安らぐだけであったのだ。
「よしっ! 完了よ、オクマちゃん!」
「マユミおねーちゃん、ありがとうっちゅ」
オクマーマが喜んでいると、施設の建物内にチャイムの音が鳴り始めた。
「あっ! 私、そろそろお勉強の時間だから教室に行かないと……。オクマちゃんは、ここでゆっくりしてていいからね~」
マユミに優しく声をかけられるオクマーマであったが、その時またも『例の言葉』が体の中に響いたのである。
≪なにがあっても悪には屈さず、最後まで善行を貫き通して欲しい……≫
マユミとの出会いで心の安らぎを得たオクマーマだが、その言葉でふと自分の使命を思い出していた。
「マユミおねーちゃん! オクマーマは、どうしてもやることがあるっちゅ。だから、これからもそれをやりにいきまちゅ。体の方はもう大丈夫っちゅ、ありがとうっちゅ」
「そ、そう? でも、あまり無理しないでねオクマちゃん。これからも、いつでもいいから私に会いに来てね!」
こうしてオクマーマは、マユミの施設を出て再び街中に繰り出していくのであった。
それからしばらくオクマーマが街を歩いていると、いつの間にか縫われた箇所の痛みがもう薄れていたのである――。
「あっ⁉ マユミおねーちゃんに縫ってもらった部分は、もう治ってまちゅ!」
あれほどの大きな破れキズがすでに完治しており、なぜか普通の糸まで吸収分解されて完全な元通りになっていたのだ。
(どうやら、縫ってもらった方が早く治るみたいっちゅ……。でも、どうしてそうなるのかという原理はわかりまちぇん。マユミおねーちゃん、ありがとうっちゅ!)