第六十二話「さらば! 正義の志士」
マグマの高熱で、オクマーマがついに発火しそうになったその時――サイボーグテツに異変が!
「ウッ⁉ こっ、こんなところで、また体がっ! やっ、やめろーっ!」
ここで再び本来の善良テツが、サイボーグテツの悪人格を必死に抑えて表に出現したのである!
「おっ、お前だけは! 最後まで、希望を捨てるなっ!」
善良テツの人格はそう叫びながら、発火寸前だったオクマーマの体を火口外へ大きく投げ上げるのであった。
「ああっ、所長ちゃんっ!」
空中へ高々と投げられたオクマーマからは、本来のやさしい微笑みで火口のマグマの中へ落下していくテツが――どんどん小さくなっていくのが見えるのであった。
「パパーーーッ!」
「これでいい……。悪に改造された俺を、倒してくれてありがとう……」
正義の志士であった、本来の大和テツ。
最後にやれるだけのことをやり切ると、そのまま悪人格に飲み込まれるのであった。
「ど、どうして俺の中に……あんなもう一つの人格があったんだっ! おっ、俺はっ、俺はザラス団の指揮官・天才科学者サイボーグテツだあっ! 俺はっ、世の中の自己中で欲まみれな愚民どもをっ、愚民どもをっ……うっ、うわああああああーーーーーーっ!」
サイボーグテツの体は、マグマの中へと静かに消えていくのであった――。
そして高く投げ出されたオクマーマは、火口の外に飛び出して倒れ落ちていた。
「ウウウッ……。所長ちゃんは……パパは……悪人に改造されていても、善良な心が最後は打ち勝ったっちゅ……。パパ……」
必死に起き上がるオクマーマだが、体はボロボロで煙も立ち込めたままである。念波の供給源である鉱石はすでになく、もう一切の回復が出来ない。そして体内に残った念波エネルギーも、あと数時間で尽きてしまうのだ。
「せっかく助けてもらった、残り数時間の命っちゅ。この体からリンク切れした魂が解放されて、オクマーマの自我が完全消滅しちゃう前に……。マユミおねーちゃんに会いたいっちゅ……」
オクマーマは、その辺に落ちていた木の棒を杖にして立ち上がった。そして『せめてマユミに一目だけでも会ってから死にたい』という思いだけで、ヨロヨロと必死に歩み始めるのであった。
「マユミおねーちゃんは……。今日、植物散策に行ってるはずっちゅ。あそこなら、ここから歩いても夕方までにはギリギリ間に合う距離っちゅ。日が暮れる前までに着けば、まだそこにいるかもしれまちぇん……」
ボロボロのオクマーマは杖をつきつき、そこにまだマユミがいて会えることだけを信じて――最後の力を振り絞り、必死に歩いて行くのであった。
それから数時間後。
歩み続けたボロボロのオクマーマは、なんとか日暮れ前に現地へ到達していた。
すると、まだ帰宅せず大木の前で植物採取をしていたマユミの姿が!
(あっ! マ、マユミおねーちゃん!)
しかし満身創痍で、念波エネルギーも残り僅かなオクマーマ。
大声で叫ぶことも出来ず、もはやマトモに動けない状態となってしまうのであった。
(もう日暮れが近いし、そろそろ帰らないとマズイかな~。 ……ん? こんな誰もいない場所なのに、なんだか焚火のような匂いが……)
なんとなく焦げたような匂いを後方に感じ、ふと振り返ったマユミの目には――木の枝を杖にして、震えながら必死に立っているオクマーマの姿が!
「あああっ⁉ オ、オクマちゃんっ! どうしてここにっ⁉ そ、それにっ、酷いケガ!」
ヨロヨロのオクマーマの元へ、すぐさま駆け寄るマユミ。
「マ、マユミおねーちゃん……」
オクマーマはマユミがそばへ駆け寄ると同時に、その場にバタリと倒れるのであった……。




