第六話「少女との出会い」
眠ってしまったオクマーマが、静かにたたずむゴミ捨て場――。
そこに、傘をさした一人の少女がやって来た。
「明日は回収日だから、箱を出しておかなくちゃ。私が当番だったの忘れるところだったぁ~、危ない危ないっ」
そこで、ふとオクマーマの姿が目に入った少女。
「あれ? ぬいぐるみは違う日のはず……誰か間違えちゃったのかな?」
大きな破れ傷があり、体全体に水分をたっぷり含んだままのオクマーマに近寄る少女。無表情のオクマーマが、まるで泣いているように見えてしまうのであった。
(なんだか、かわいそう……)
捨てられたぬいぐるみだとは思ったものの――あまりにもボロボロ状態のオクマーマを見るに見かねて、かかえ上げてしまう少女。
彼女は細道の対面に建っている孤児施設の中へ、オクマーマを持ったまま帰っていくのであった。
「さぁ、オクマちゃん。とりあえず、綺麗にしてあげますからね~」
無表情でぐっすり眠ったままのオクマーマを、施設で綺麗に手洗いする少女。そして体をゆっくり押して水分を絞り出し、風通しの良い場所に寝かせるのであった。
そして次の日――。
少女はオクマーマの体を抱き上げ、モフモフと指で押してみた。
「よしっ、完全に乾いたわね! 綺麗になったわ」
「うう……」
「あれっ? このオクマちゃん、今なにかしゃべったような……⁉」
「ああ~っ⁉ 体が綺麗になってまちゅっ! ……あっ! もしかして、おねーちゃんが助けてくれたんでちゅかっ⁉ ありがとうっちゅ~」
「うわっ、しゃべった⁉ まさか……このオクマちゃん、ぬいぐるみじゃないの⁉」
「そうっちゅ~。オクマーマは、ぬいぐるみじゃないっちゅ」
「わ~、ビックリしたぁ! そうなんだ、オクマーマちゃんていうんだぁ。だったら、オクマちゃんって呼んでもちょうどいいわね⁉ 私は、この施設にいる『雪風マユミ』っていうの。よろしくね、オクマちゃん!」
「マユミおねーちゃんっちゅか。よろしくっちゅ~」
それからオクマーマは――なぜ、あのような状態になっていたのかという――これまでの経緯を、すべてマユミに話すのであった。
事情を知ったマユミは、思わずオクマーマをギュッと抱きしめてしまう。
「そっ、そんなっ……。酷い、酷すぎるわっ! つらかったでしょう⁉ 痛かったでしょう⁉ オクマちゃん! でも、オクマちゃんは勇気があるわっ!」
(マユミおねーちゃん、あったかいっちゅ……。オクマーマは……心がこんなにホッとしたのは、初めてっちゅ……)
誕生してから自分のストレートな善意行動がまったく上手くいかないどころか、逆に酷い目ばかりでずっと落ち込んでいたオクマーマ。ここでマユミと出会い、初めて心が安らいだのである。
そして今度は、オクマーマの方がマユミの身の上話を聞くのであった。
「マユミおねーちゃんは、パパやママはいないんでちゅか?」
「うん……。二人とも、私が赤ちゃんの時に死んじゃったんだって。写真も残ってないの」
「そうだったんでちゅか……。聞いてごめんなちゃい」
「ううん、いいのよオクマちゃん。そういえば、オクマちゃんはパパやママはいるの?」
「オクマーマも……いるのか、いないのか、サッパリわからないっちゅ。それどころか、自分もどういう存在なのかわかりまちぇん。ロボットなのか、バイオ生物なのか、クローンなのか、一体どうやって生まれたのかも、全部わからないっちゅ……」
「そ、そうだったの……」
「最初に気がついた時は、廃されたロボット研究所のような所にいまちた。でも、体の中はぬいぐるみの綿みたいなのが詰まってるだけっちゅ。でもなぜか、こうやって自由に動けまちゅ。痛みもちゃんと感じまちゅ。知識もあって、言葉もしゃべれまちゅ」
「私もさっきまでは、オクマちゃんがぬいぐるみにしか見えなかったわ。でもオクマちゃんは、こうやって私と同じように生きているのは確かよ!」