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第五十三話「涙の斉田博士」


          挿絵(By みてみん)



 ついに、斉田博士と面会出来たオクマーマ。

 斉田博士は『いかにも老科学者』といった風貌で、優しいおじいちゃんという感じの人物であった。


「本心通信の特別記者・オクマーマと言いまちゅ。おじいちゃんが、副所長ちゃんっちゅね⁉」

「おお~っ、かわいいクマちゃんの記者じゃの! 驚きじゃわい。……ん? こっ、これはっ……まさかっ⁉」


 斉田博士の脇には、テツが作った特殊レーダーが置かれていた。これは研究所が解散した際、斉田博士に研究用としてテツが貸したままになっていた物である。そのレーダーが反応し、オクマーマが念波ロボであることを指し示していたのだ!


「オ、オクマーマちゃんっ……。きっ、君はっ! まさか、誰かの魂が宿った念波ロボではっ⁉」

「そうっちゅ。オクマーマは、所長ちゃんが研究所に残した人形に魂が宿って誕生した『正真正銘の念波ロボット』っちゅ」

「あっ、あの小さい方のノッペラボウ素体人形にじゃなっ⁉ しかし確か、あそこには魂が近寄れない結界が張ってあったはずじゃ! よっぽど能動的な意思を持った魂でない限り『あの素体人形へ自発的に宿るどころか、近づくことすら出来ない状態』と所長はおっしゃっておったのじゃが……」

「オクマーマの魂は、所長ちゃんの娘・大和キミナちゃんの魂っちゅ。だから、パパの所長ちゃんが作った人形に導かれるようにして宿ったらしいっちゅ」

「…………‼ オ、オクマーマちゃんはっ、所長の娘さんの魂が宿った念波ロボじゃとっ⁉」


 斉田博士は、あまりの驚きに腰を抜かしそうになってしまう。

 そしてオクマーマは、これまでの簡単ないきさつを斉田博士に説明するのであった――。




「そ、そうじゃったのか……。ワシは研究所が解散した時、このレーダーを所長に借りてから『いつか自分がまた必要になったら貰いに行くから、それまでは斉田博士が研究に使うために所持していてください』と頼まれて保持しておったんじゃ。そうしたら所長が事故に遭ってしまい、そのまま……おおおおおお……」


 悲しむ斉田博士。


「副所長ちゃんは、キミナちゃんのママの顔を知ってまちゅか?」

「ああ、アイコさんのことじゃな? ワシは、電話口でなら一度挨拶をしたことはあるんじゃが……。直接は、一度も会っておらんのじゃ。なにせ、研究所の解散後に結婚した奥さんじゃったからの。その頃に所長と電話で話した時は『残った借金は苦しいが、良い嫁と娘に恵まれた』と喜んでいらっしゃったじゃよ」

「そうっちゅか。副所長ちゃんも、キミナちゃんのママの顔は知らないんでちゅね……。キミナちゃんのママは、キミナちゃんが死んじゃった直後に行方不明になっちゃったそうっちゅ」

「なっ、なんとっ! 所長だけでなく……娘さんのキミナちゃんまで幼くして亡くなり、奥さんまで行方不明じゃと⁉ ウウウッ……所長の一家は、なんという壮絶で過酷な道を歩んでしまったのじゃろうかっ」


 頭を抱えてしまう斉田博士。


「しかも……。同志だった若手の元所員たちは全員謎の変死を遂げ、一番年寄りのワシだけが皮肉にも生き残ってしまうとは……。かっ、神様! 酷すぎるじゃよっ! 殺すなら、なぜワシを殺してくれなかったんじゃ!」


 大和一家に起こった悲劇。そしてまだ将来ある若い元所員たちも、みんな非業の死を遂げてしまった。そんな悲惨な運命に、涙する斉田博士であった――。


「じゃっ、じゃが! こうして、オクマーマちゃんが誕生したのは……親子の奇跡じゃ!」

「オクマーマは~。研究所にあった所長ちゃんの資料を見て、自分が念波ロボであるのを知りまちた。その後所長ちゃんの家に行って、キミナちゃんの魂が宿っていることも知ったっちゅ。オクマーマのこの姿は、キミナちゃんが持っていたぬいぐるみ・オクマーマの強い記憶が反映された姿っちゅ」

「そうじゃったか。しかし知識はすぐに刻み込まれる仕様でも、記憶のない念波ロボとして誕生したオクマーマちゃんには、本来ならば前提として成長をサポートする保護者がいなければならなかったのじゃ……。今まで親もなく、よくここまでくじけずに正しい道を貫いて……立派になってくれましたじゃ! ウウッ……」

「オクマーマの中に、正義を貫いて欲しいという大和一家の願いが何度も響きまちた。最初は孤独だったっちゅが、やさしいマユミおねーちゃんや、正義感のある小さなメディア編集長のノリオちゃんたちと知り合って、今までなんとか頑張ってこられまちた」

「ウウウッ……。さすがっ、大和所長の娘さんの魂が宿ったオクマーマちゃんじゃ! 本来ワシも、もし念波ロボが無事誕生したらおじいさん代わりになる予定じゃったんじゃ。オクマーマちゃんには、今からでもワシのことをおじいちゃんと思って欲しいじゃ。副所長だったのは昔の話じゃから、下の名で『シンパチおじいちゃん』とでも呼んで欲しいじゃよ」

「わかったっちゅ~。シンパチおじいちゃんも、オクマーマのことは孫だと思ってくだちゃい」


 斉田博士は、感動のあまりオクマーマを両手で目の前に持ち上げて思うのであった。


(大和所長……。所長一家は、悲劇的な道を辿ってしまいましたじゃが……こうして娘さんの魂が、所長が研究を重ねて来た念波ロボとして運命的に誕生することになるとは! 所長の正義を貫く意思を継いで、このように今では記者としても立派にやっていますじゃ! ワシは……ワシはっ、感動しておりますじゃよっ!)


 斉田博士に持ち上げられ、ピコピコと両手をあげて喜ぶオクマーマ。しかし、ここに急いで来た理由をハッと思い出すのであった。


「あっ! そっ、そうっちゅ! それより、急がなければならない本題がありまちゅ!」

「お! そ、そうじゃの。オクマーマちゃんが、ここまでして急いでワシの元に来た理由とは⁉」

「実は今、人類の大危機なんでちゅ!」




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