第五十二話「ノリオの心」
どうしても至急斉田博士に会いたいオクマーマは、ノリオに相談してみるのであった。
「ノリオちゃん! オクマーマは、今すぐに研究所の元副所長ちゃんと話をしないとマズいっちゅっ!」
いつも以上に切迫したオクマーマの口調に、少し驚いてしまうノリオ。
「そっ、そうかいオクマちゃん。でもなあ……。ちょっと前、ほとんど報道されてなかったけど『場所は全国各地でバラバラながら、数日間連続で原因不明の突然死事件が起こっていた』というのを僕は気になっていてね。被害者の共通点がないかと調べたらやっとわかったんだけど、なんと全員が念波ロボット研究所の元所員らしいんだ」
「ええっ!」
「僕にはそこまでしかわからないけど……おそらく、そうすることによって利を得る者による他殺としか思えない。それでなきゃ、偶然にしては明らかにターゲットが不自然すぎるからね。それで元副所長だった斉田博士だけが唯一のご存命になってしまったが、最近急に斉田博士が国から極秘の国家プロジェクトと称するものに参加させられたのも……多分、斉田博士も狙われてるのを知った国が強引に匿ったんじゃないかと僕は見ている。まあ証拠は一切ないし、僕の推察に過ぎないんだけどね。でも、明らかにニオう案件だよこれは!」
(確かに、証拠は一切ないのかもしれないっちゅが……。その連続死事件は、まずザラス団の仕業っちゅ! バラバラになった研究所の元メンバーを、今になって全員わざわざ探し出して手にかける勢力なんて、それ以外ありえまちぇん。ザラス団は、卑劣っちゅっ!)
「だから僕は、もう斉田博士への取材アポは入れたんだ。でも、やっぱりというか。ウチは弱小メディアだからって、かなり後回しにされちゃってね。順番待ちでもいいからと予約は一応入れたけど、会えても半年くらい後だって言われたんだ」
「そ、そうっちゅか……。困ったっちゅ……」
ガックリと、小さな肩を落としてしまうオクマーマ。そのまま後ろを振り返り、外に向かってトコトコと歩き出すのであった。
「お、おい~。どこに行くつもりだい、オクマちゃん」
「オクマーマは、どうしても今すぐに副所長ちゃんに会わなければダメっちゅ……。強引にでも、会いに行きまちゅ!」
「で、でも。そんな事件もあったことだし、国による保護だとしたら斉田博士は超厳重に警護されているはず。居場所も、カモフラージュの場所を含めて頻繁に変えられているかもしれないし。オクマちゃんの特技を使って潜入捜査するにしても、かなり時間がかかると思うよ……」
(こうなったら、もう非常手段っちゅ。法律を破ってでも、人々の命を救うためっちゅ! 強行的に副所長ちゃんの居場所を探して、強引に乗り込むしかないっちゅ!)
ガッカリとしながらも、なにかを決意したかのような力強さも混ざったような――哀愁漂うオクマーマの後ろ姿を見送ったノリオであった。
(オクマちゃん……。僕は今まで、色んなことに体を張ってでも正義を貫いてきた、嘘偽りのない君の姿を散々見てきたつもりだ。だから君のことは、心から信じている。君は今、どうしても早急に斉田博士に会わなければならないという、大きな理由があるのだろう……。よし!)
オクマーマが再び、斉田博士が匿われていると思われる場へ到着すると――日々の念じる訓練で最近出来るようになった、新しい武装を使うのであった。
「オクマーマ・ドリル!」
するとオクマーマの頭に、鬼の角のようにドリルが発生するのであった。
「所長ちゃんの家で、超合金カタイナーの武装を全部見たっちゅ。それで、これもキミナちゃんの記憶にあるかと念じていたら、出来るようになったっちゅ。しかもこれは、土くらいならなんとか掘れる硬さの合金ドリルっちゅ。使えまちゅ」
オクマーマは頭を下げて、ドリルの先端を地面につける。
(本当は、地中から不法侵入するのも法律違反っちゅ。でも今は、非常事態で仕方ないっちゅ……許してくだちゃい)
そうして、オクマーマが地面に潜ろうとした時――ガードマンがオクマーマの元に駆け寄るのであった。
(あっ、マズいっちゅっ! 捕まっちゃいまちゅ!)
一瞬逃げようと思ったオクマーマであったが、ガードマンの口から出た言葉は意外な言葉であった。
「お~い! 君は、本心通信のオクマーマ君だよね? 優先的に斉田博士と会える面会許可が出ていたよ!」
「えっ⁉ オクマーマにっちゅかっ⁉」
思わずドリルを引っ込めて元の頭に戻しながら、顔を上げるオクマーマ。
「ああ、そうだよ。編集長の南部ノリオって人が、本心通信が潰れてもいいから全財産を担保にしてくれって。それで色んなところに手回しして、面会の順番を一番に譲ってもらったらしいんだ」
「ノリオちゃんがっちゅかっ⁉」
「君のところの編集長は、凄い人だね。小さなメディアでも、たいしたもんだよ。さあ、こっちへ……。スパイの目にもバレないよう凄い複雑なルートを辿るから、少し時間かかりますがね。斉田博士のところには、確実にお連れしますから」
(ノリオちゃん……ありがとうっちゅ!)
こうしてオクマーマは――自分を心から信頼してくれていた、ノリオの大胆な行動によって――斉田博士との面会の道が開けたのであった。




