第五話「雨中に眠るオクマーマ」
自分の生まれた使命を感じ、勇んで街に繰り出したオクマーマであったが――『善人ばかりではない世の現実』を誕生初日から次々と見せつけられ、早くも深く悩んでしまうのであった。
そして日が暮れると同時に雨が降り出し、オクマーマの体に雨がそのまま染み込んでゆく――。
体全体に水分をたっぷり含んでしまっても、相変わらず疲労は感じない。
しかし落ち込んでいる気持ちと相まって、その足取りは重くなっていた。
(体が、少し重くなっちゃいまちた……)
短足を一歩踏み出す度に、足からジュワッと水があふれ出す。
その付近には街灯も少なく、暗くなった歩道の横を車だけがビュンビュンと行き交っているような場所であった。雨が降っていることもあり、暗い割に音だけはうるさい状態である――。
そんな中。
突然オクマーマの目の前に、猛スピードで走ってくる自転車の音が!
「…………⁉」
周囲の音がうるさかったこともあり、自転車の姿がオクマーマの視界に入った時――その前輪は、すでにオクマーマの目の前であった。
「アアーッ!」
なすすべもなく悲鳴をあげ、その暴走自転車におもいっきり轢き逃げされてしまったオクマーマ――。
「うわっ⁉ おい! 今、石かなんか踏んだぞ⁉」
「ああ、なんか踏んだな! でも石にしては少し柔らかかったし、もしネコかなんかだったらヤバくね?」
「もしネコだったら、前にいきなり出て来たネコの方がわりーんだよ! まあ、ゴムの廃タイヤかなんかを踏んだんじゃねーの? へへッ!」
片手で傘を持ち無灯火で二人乗り、その上かなりの速度で蛇行しながら走ってきた二人組。
それなりに体積のあるオクマーマを踏みつけて少しバランスを崩したが、高速だったせいで逆に転倒せず体勢を立て直してしまう。
二人は反省するそぶりもなく、笑い声と共に走り去っていった。
突然の轢き逃げで、想定外の重傷を負ってしまったオクマーマ。
「痛いっちゅ……ウウッ……」
うめくように苦しみながら、必死に体を起こすと――車通りの少ない横の細道へと、逃げるように歩み出すが……。
(ダメージが大きすぎて、動けまちぇん……)
オクマーマはついに、その細道にあったゴミ収集場付近でうずくまってしまう。
(こんなに痛いのに……なぜか、眠くなってきたっちゅ……。ここで、このままオネンネしまちゅ……)
暗い雨の中――無表情のままで目を閉じるわけでもなく、そのまま眠ってしまうオクマーマであった。