第四十三話「最後の誕生日」
キミナが、ニンジンをすべて平らげてしまったその頃――。
買い物に出たアイコは、奮発して良い品を買ったせいで――普段ならまず達しない購入金額を超え、福引券を一枚だけ貰うのであった。
そしてその福引券を引いたところ、少額のお食事券が当選したのである。
「奥さ~ん。嬉しそうですけど、この額だとお子様ランチ分くらいにしかなりませんねぇ」
福引所のおじさんがそんなことを言っても、アイコはとても喜ぶのであった。
(これは、キミちゃんに誕生日だけでも良い物をたべさせてあげたい! という気持ちが神様に通じたのかしらっ⁉ 良かったわ!)
それから帰宅したアイコは、作ってあったニンジンサラダが全部食べられていたのをまず目にする。
(あら? これは……)
「ママ~! おかえりなちゃい」
胸にオクマーマを抱いたキミナが、小部屋から飛び出して来た。
「ただいま~、キミちゃん! こ、これ……。もしかして、キミちゃんが全部っ⁉」
「そうっちゅ! キミちゃんが、苦手なニンジンを全部食べたっちゅ。ママの料理の腕がいいから~、なんとか食べられたっちゅ! キミちゃんも一つ大きくなるんでちゅから~、苦手な物も食べられるようにしようと思いまちた~」
「キ、キミちゃんっ!」
オクマーマごと包み込むように、一歩一歩成長しているキミナを抱きしめるアイコであった。
「そうそう、それでねキミちゃん。明日の誕生日は、お外に食べに行きましょう!」
「ええっ⁉ ママは~、お金が大変っちゅ。キミちゃんは、大丈夫っちゅ」
「いやね、実はさっき、福引でお食事券が当たっちゃったのよ! 多分神様が、キミちゃんの頑張りを見ていてくれて、ご褒美にくれたのかもしれないわ!」
「そ、そうっちゅかっ⁉ それなら、楽しみっちゅ~」
そして翌日、キミナの誕生日――。
そこには、初めて小奇麗なレストランの席に座る母子の姿があった。
「お子様ランチ一つ、お願いします」
「以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました」
アイコも、キミナも、とても嬉しそうな顔をしている。
ほどなくして、キミナの目の前にお子様ランチが運ばれてきた。つまようじで作られた国旗も立てられており、キミナにとっては初めて食べるような一品ばかりが盛られている。
「ママ~! 凄いっちゅ! 美味しそうっちゅ!」
「よかったわね~、キミちゃん! さあ、お召し上がりなさい」
「ママは~、なんにも食べなくていいんちゅか?」
「ママはいいのよ。ママは、キミちゃんが美味しそうに食べるのを見るだけでも嬉しいんだから~。さあ、早くしないと冷めちゃうわよ」
「いただきまちゅ」
初めて食べるお子様ランチに、大喜びのキミナ。
「美味しいっちゅ! でも、ママの料理もこれとは違う感じで大好きっちゅ」
「ウフフッ。ありがとう、キミちゃん!」
この数日後に、キミナが突然発病することも知らない母子――。
最初で最後の豪華な食事を楽しむかのように、幸福なひとときを過ごすのであった。




