第四十二話「キミナの運命」
アイコが工作員から毒ニンジンを受け取ってしまったのを見て、ガックリとうなだれるテツ。
(アイコ……キミナ……。でもっ、最後まで、なんとか、なにかイレギュラーなことが起こって、あのニンジンを食べずに終わってくれればっ! そっ、そういえば、キミナは離乳食でもニンジンは嫌いだったはず……キミナがニンジンを拒否して、二人とも運良く助かってくれっ! 頼むっ!)
もはやどうにも出来ないテツは、ただただそう願うのであった――。
それから帰宅したアイコは、貧乏だけに貴重なニンジンを早速調理してしまう。
(キミちゃんはニンジンが嫌いだから……。でも、こういうサラダにしたらニンジンの臭みも減るから、ひょっとして食べられないかな~)
工夫しながらニンジンを調理するアイコは、次の日がキミナの誕生日であることも思い出していた。
(ああ、そういえば明日はキミちゃんの誕生日だったわね。そっか~、せめて誕生日くらいは、ニンジンを食べさせようっていうのはやめて……。貧乏でも、出来るだけキミちゃんの好きなものだけを食べさせてあげたいわね)
そう思ったアイコは、調理したニンジンサラダを置いたまま再び街へ買い物に行くのであった。
そこに、入れ違うように帰宅したキミナ。
「まず、おててを洗いまちゅ。そして、うがいもしまちゅ」
キチンと手洗いうがいをしたキミナは、ふと横にニンジンサラダが置いてあるのを見かけてしまうのであった。
「あっ! ニンジンっちゅ! キミちゃんは~、苦手っちゅ……」
ニンジンサラダはそのままに、フスマをあけて小部屋に入ろうとしたキミナだが……。
(でも、ママが今回作ってくれたのは見た目も綺麗で良いっちゅ。そういえば、明日はキミちゃんの誕生日っちゅ。キミちゃんは~、ママに成長したところを見せなきゃいけないっちゅ!)
そう思ったキミナは、苦手なニンジンサラダをおもいきって口にしてしまったのである!
(あっ! 意外と食べられまちゅ! でも、やっぱりちょっと苦手っちゅ。それでも、これならなんとか食べられまちゅ! キミちゃんは、ニンジンを食べられるようになったのを、ママに見せまちゅっ!)
キミナはそう思って、必死にニンジンサラダを全部平らげてしまったのであった。
――そう。突然奇病にかかって死んだと思われていたキミナは、実はザラス団によって間接的に毒殺されていたのである!
しかしこのキミナの健気な行動によって、幼きキミナが毒を一手に引き受け――母のアイコだけは、今回の毒殺計画から偶然助かることになってしまったのだ。




