第四十話「毒殺プロフェッショナル」
そして、テツが数年拷問を受け続けたある日――。
「大和博士。これほど拷問しても、まだ協力する気になりませんかねえ。ある意味、たいしたものです。これ以上拷問したら、あなたが死んでしまいかねないレベルにまできています。それでもまだ協力しないのですか?」
「み、見損なうな……。俺は、どんなことがあろうと……。悪には屈さず、善行を貫くというのを……信念にしているんだ……」
「でも我々は、あなたをなんとか殺さない程度にギリギリ調整しながら、ずっと拷問を続けるだけですよ。それでもいいのですか?」
「ど、どんな拷問されようとも、絶対にお前たちのテロには協力しないぞ……。無駄なことを考えるくらいなら、とっとと俺を殺せ! こうなってしまった以上、もう覚悟は出来ている!」
テツは――妻のアイコや、まだ物心ついていなかった頃のキミナにも散々語り掛けていた、自分の『悪に屈さないという信念』を、あくまでも貫き通すのであった。
(アイコ……キミナ……。ザラス団に対して、口では気丈に振る舞ってるが……俺の体は正直もう厳しい、どうやらこの辺までのようだ……。せめて、キミナと会話出来るようになるまでは生きていたかった……無念だ! 先に逝く父を、許してくれ……)
「こうなったら仕方ない。あなた自身への拷問以上にあなたにとって辛いことも、これからは並行してやらせていただきましょう。もしそれでも気が変わらないのであれば、あなたはたいしたものですよ。フフフ……」
「俺自身への拷問以上に、俺にとってキツいことだと? ま、まさかっ……⁉」
「そうです。まずは、あなたと親しい人物から先に死んでいただきます。正義漢のあなたは、自分が殺される以上に耐えられないのではないでしょうかね。クックック」
「やっ、やめろっ! それだけは、やめてくれーっ! 頼むっ!」
悲痛な叫びをあげるテツ。もちろん凶悪なザラス団がやめることがないのは百も承知だが、叫ばずにはおられなかったのだ。
「テロ組織の我々が、やめるわけないでしょう。まずは手始めに、あなたの家族から死んでいただきましょうかねぇ~。どうです? これでもまだ協力する気になりませんか?」
「…………‼」
テツは、さすがに心が揺らいでしまう。
しかし、もしザラスに協力してしまったら――家族が殺されるだけでなく、何億もの罪もない人々が、無差別に殺されることになってしまうのだ――。
(アイコ……キミナ! お、俺を許してくれっ……! 俺がもしザラスに協力して、念波をテロ兵器に利用されてしまったら、どちらにしろ人類が全滅させられてしまう! お、俺の家族になってしまったばかりに……ス、スマンッ!)
そしてテツは、自分に対する悔しさも噛みしめてしまう。
(このような、非道の悪にやられる前に……『正義の念波兵器』を、まだ研究所が存在しているうちに開発を間に合わせられなかった、俺の力のなさがうらめしいっ!)
心の中でそう思いつつも、ザラス団員に対して気丈に言い放つテツ。
「お、俺を甘く見るな! 例え家族が殺されようと、俺は悪のテロには絶対屈しない! それにな。もし協力したらしたで、お前たちはどっちにしろ俺を用済みになった後で殺すに決まっている! 悪というのは、そういうものだ。だから、例えどんな拷問されようが、家族が殺されようが、お前たちに協力するだけもっと悲惨になる。俺は、絶対に協力しないぞ! ハッ……ハッハッハ……」
ザラス団員には強気に笑い叫びながらも、心の中ではキミナとアイコを思い涙するテツであった。
「まったく、強情な正義漢ですねえあなたは。じゃあ、仕方ないですね。我がザラス団は、ここまで組織のことをまったくバラされずにやっている、完璧な秘密テロ組織です。どうしてかわかりますか? 表面上派手にバレるテロもやろうと思えば出来ますが、それより『誰にもバレないような暗殺テロ手法』の方が得意で優れているからです」
「なにっ⁉」
「特に毒薬については……世界の最先端科学をも上回る、独自の高度技術を持っておりましてね……。このザラス団特製の、新毒薬を見てください。これは体内に入った時点ではまったく効果がないのですが、一週間から二週間のタイムラグ後に急発病して死に至らしめるという時限式毒薬です」
「ま、まさかっ……。お前たちは、これをっ⁉」
「この毒薬の要素は、発病する前までに体に浸透して完全に消えてしまいます。毒薬で死んだという痕跡も一切残らないという、我々だけが製造出来る優れものです。これからあなたの妻子に、この毒をプレゼントして参りましょう。クックック」
「やっ、やめろーーーーーーっ!」




