第四話「めぐるめく社会の負」
(最初に目覚めた研究所から、もうかなり遠くまで歩きまちた……。でもオクマーマは、ここまで全然疲労がないっちゅ。お腹も空きまちぇん。まだ、ずっと歩けそうな感じっちゅ。どうしてでちょうか……)
そして、いつの間にか手先の傷も閉じ、痛みも消えていたのだ。
オクマーマは、不思議に思いながら歩き続けていると――今度はいきなり目の前に、ポイ捨てされた空き缶が転がってきてしまう。
「アーッ!」
缶につまづき、顔面から歩道に突っ込んでしまうオクマーマ。走っている車のタイヤに缶が当たり、足元にいきなり転がってきてしまったのだ。
(顔が、擦れちゃいまちた……。ヒリヒリしまちゅ……)
痛みをこらえつつ、顔をさすりながら起き上がるオクマーマ。
「どうやら……ポイ捨ての缶みたいっちゅ。拾いまちゅ」
空き缶を拾って再び歩き出すと、ちょうど大きな網製のゴミ箱を発見。
「ここに入れまちょう。……いーちょっ、いーちょっ(よいしょっ、よいしょっ)」
大きなゴミ箱へよじ登り、キチンと缶を捨てるオクマーマ。
そしてゴミ箱から降り、その場を離れようとした時――。
そこを通りかかり、信号待ちをしていたトラックの運転手が――手を伸ばせば、すぐゴミ箱がある場所にもかかわらず――その場で缶をポイ捨てしてしまったのだ。
「あっ! ポイ捨てはダメっちゅ!」
トラックの大きなタイヤ横に駆け寄って、下から懸命に呼びかけるオクマーマだが……。
「ん、誰だ? うるせえどっかのガキか? さあ、とっとと行くか! お前も、その辺に投げちまえ」
運転手の声と共に、助手席側からも笑い声と共に缶が投げ出されてしまう。
そしてまもなく信号が青になり、トラックはオクマーマを無視して爆音と共に走り去っていった。
「ああ~っ……」
落胆したオクマーマが、その時ふと周囲を見渡すと――すでに多数のゴミが他にも散乱しているではないか。
(どうして、こんなにポイ捨てする人がいるんでちょうか……。街が汚れまちゅ。それに、さっきのオクマーマのように……小さい子が転んだら、危ないっちゅ)
必死にゴミを拾いつつ、考えを巡らせるオクマーマ。
(街が汚れたり、危険な点だけが問題じゃありまちぇん。心も不快になっちゃいまちゅ。個々には小さいことでも、どこかに影響して社会全体の負になりまちゅ。それが回り回って、捨てた人にも必ず負が帰ってくるんじゃないでちょうか……)