第三十二話「移動する魂」
シッポを切ってみてほしいと嘆願し、マユミにペコリと頭を下げるオクマーマ。
「大丈夫っちゅから~、お願いしまちゅ」
「そ、そう? オクマちゃんが、そこまで言うなら……。もし痛ければ、すぐに言ってね!」
「ありがとうっちゅ」
マユミは心配しながらも、カッターを用意した。
「じゃ……。い、いくわよ、オクマちゃん」
「思い切って、大丈夫っちゅ」
マユミは恐々と、オクマーマのシッポをゆっくりと切り落としてみるのであった。
「あっ! やっぱり大丈夫っちゅ! シッポだけは、切っても全然痛くないっちゅ!」
「そっ、そう⁉ それなら良かったわ!」
「でも~。すぐに元へ戻したい時は、縫わないと時間がかかりまちゅ。迷惑かけて、ごめんなちゃい」
「それくらい、お安い御用よ! 今すぐ縫って、元に戻す?」
「ちょっ、ちょっと~、待ってくだちゃい」
ピンポン玉大の、切り取られたシッポを見つめるオクマーマ。
「実は、研究所で見た資料には~。念波ロボは、魂が本体のどの部位にも移動出来ると書いてありまちた。そして、もし体の一部が切断されたとしても、魂がそっちの部位へも幽体離脱するように乗り移れるらしいっちゅ。実験してみたいっちゅ」
「そ、そうなのっ⁉」
「念波ロボにとって、魂は脳と同じ役割っちゅ。普段は頭部に滞在していて、そこに意識がありまちゅ。まずは試しに、足に意識を移動させてみまちょう……」
すると――。
まるで自分の脳が右足の先へ移動したかのように、意識の滞在場所が移動したのだ。
「あっ! なんだか、右足に意識が移動したような感覚になったっちゅ! 魂が、体内で右足の先に移動出来たのかもしれまちぇん! なんだか、視界も足元の低い視点に変わったっちゅ。ニオイも、ここから感じまちゅ」
「ああっ、オクマちゃん! 今、声も口元からじゃなくて右足の先から出ているわよ!」
オクマーマの足には、表面上はもちろん目も鼻も口もない。にもかかわらず、視点も右足からの視点、匂いもそこから吸い込み、しゃべるとと右足先が振動するようになり、そこから声が出るようになったのだ。
「じゃあ、今度は~。本体から離れた、シッポの方へ乗り移ってみまちゅ。幽体離脱するようなイメージでぇ~、念じまちゅ」
右足先から出る声で、マユミにそう告げたオクマーマ。
そして、しばらくすると――。
「あっ! 目の前に、マユミおねーちゃんがいまちゅ!」
マユミが持っていたシッポの方へ魂を移動させることに成功し、そこから声を出すオクマーマ。
「ああっ⁉ 本当に、魂がシッポの方へ乗り移れたのね⁉」
「やったっちゅ~!」
モフモフした茶色い玉でしかないオクマーマのシッポが、声を出しながらピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。
その一方、シッポのない抜け殻になった本体の方は――無言でピクリとも動かず、静かにたたずんでいる姿が対照的である。
その動かない本体を、つい心配そうに見つめてしまうマユミ。
「魂が、別の部位に乗り移ってる時って……。本体の方が、なんか死んじゃったかのようにピクリとも動かないのね……」
「オクマーマは、念波エネルギーある限りオクマーマの姿をしてまちゅ。もしオクマーマが本当に死んじゃった時は、元のノッペラボウ人形に戻りまちゅ。だから動かなくても、死んではいない証拠っちゅ」
「そっ、そうだったわね! ホッ」
(あっ! そうっちゅ! おはぎパンチも、発射した手の方へ魂を乗り移させれば……。まだサイコキネシスでの空中制御は出来なくても、ある程度の制御は出来そうっちゅ。その間、本体が無防備になる弱点はあるっちゅが……。でも工夫次第で、他にも色々と応用出来るかもしれまちぇん)




