第二十九話「個人の限界」
オクマーマは苦しみながら、マユミの元へ到着していた。
「どっ、どうしたのっ⁉ オクマちゃん!」
「公園で遊んでたら、木の枝が刺さっちゃいまちた……。ごめんなちゃい」
「んも~う! わんぱくもいいけど、気を付けなきゃダメよ~。オクマちゃん!」
(マユミおねーちゃんには、ストーカーに刺されたなんて言ったら……余計な心配させちゃいまちゅ。嘘ついて、ごめんなちゃい……)
早速マユミに縫ってもらい、すぐに無事回復するオクマーマであった。
(ストーカー事件を、なんとか防げて良かったっちゅ。でも、オクマーマは……死ぬほど痛かったっちゅ……)
相変わらず不死身ではあるものの、度々地獄の痛みを受けてしまうことに苦悩するオクマーマ。
それでも、正義のため思わず自分が犠牲になってしまう性なのだ。
どんなに苦しくても、不死身である自分だけにしかやれない使命がある――。
とはいえ、その魂は幼女キミナのものである。
いくらキミナと同じ度胸を持った性格の分身自我でも、普通の幼女が怖いと思うことは当然恐怖を感じてしまうのだ。
(このままでは、体がいくつあっても足りまちぇん。怖いっちゅ……)
そもそも本来なら、人々を守らなければならないはずの公僕に大きな問題があった。そしてそれを選らぶ人々の方も、無関心な人が多数というのが悲しい現実であったのだ。
(今回のようなことは、各地で日々起こってまちゅ。でも、警察も政治家も大半が本気で動いてくれまちぇん。困ったっちゅ……)
どんなに頑張っても、一個人では限界があると痛感したオクマーマであった。
再び、悩みながらトコトコと街を歩いていると――あの事件の時に後方から見ていた、カメラを持った男と遭遇。
「僕は、先のストーカー逮捕現場をたまたま通りかかった者です」
「あの場を、見たっちゅかっ⁉」
「そこで、君が現場から去っていくのを遠くから見かけて、是非取材を申し込みたいと思いまして……。どの大手メディアも小さな記事で『殺人未遂があった』とだけは報じていたのですが、なぜか君の存在について触れた記事は一つもなかったのです」
「取材っちゅか⁉ 記者ちゃんか、なにかっちゅか~?」
「あっ、失礼。僕は『本心通信』という、小さなネットメディアで編集長をしている『南部ノリオ』という者です。被害者女性に尋ねたところ、この辺を徘徊しているかもしれないと聞いて探していたんです。会えてよかった!」
「ノリオちゃんは、編集長ちゃんっちゅか。凄いっちゅ!」
「いや~。ウチは小さなネットメディアだから、見てくれる人も普通は数百人程度、スクープの時とかでもせいぜい数千から数万がいいところかな~。大手メディアなんか、最低でも何百万~何千万だからね。規模が桁違いですよ」
「そうっちゅか~。でも、それでもやってるのは偉いっちゅ」
「ところで、君の名は? なんて呼べばいいのかな?」
「オクマーマと言いまちゅ。よろしくっちゅ」
「オクマーマちゃんか~。じゃ、略してオクマちゃんって呼んでもいいかな?」
「最初からオクマちゃんと呼んでくれたのは、マユミおねーちゃんとノリオちゃんだけっちゅ」
「へぇ~! オクマちゃんは、マユミちゃんっていうお姉さんがいるんだ!」
「マユミおねーちゃんは、普通の人間っちゅ。オクマーマの、おねーちゃん代わりっちゅ」
「なるほど。そのマユミちゃんは、オクマちゃんの親しい知り合いということなんだね」
オクマーマは――記者にしては誠実で腰が低く、感じの良かったノリオ編集長と打ち解け合い――今回の事件のことを、詳しくノリオに話すのであった。




