第二十五話「心を届けたオクマーマ」
うつむきながら、ポツリと言葉を発するマユミ。
「私のこれは『なんの見るべき価値もない、オール1の作品』だって……」
「ええ~っ⁉ それは、酷すぎまちゅ! オクマーマは、これがそんな酷い出来だとは、到底思えまちぇん!」
マユミの話を聞いて、驚いてしまうオクマーマ。
「数学とかなら、一定の答えが決まってるかもしれまちぇん。でも、芸術に絶対はないはずっちゅ。プロなら必ず正しいとも限りまちぇん。音楽でも演劇でも、プロがいいと思ったものが全然ダメで、良くないと思ったものがヒットしたりすることも多いっちゅよ!」
自分が思ったことを、素直に語るオクマーマであった。
「オクマーマには、この粘土人形にマユミおねーちゃんの心が見えまちゅ。マユミおねーちゃんは専門家じゃないんでちゅから、良くない部分があっても当然っちゅ。でも、良い部分もありまちゅ。オクマーマには、少なくともこれがオール1なんて絶対ありえないっちゅ!」
オクマーマの言葉に、落ち込んでいた心がだんだんと癒されていくマユミ。
「ありがとう。私はプロを目指しているわけでもないし、アマの少年少女コンテストに出しただけなのに……。ここまでの露骨な酷評されるなんて、思ってもいなかったから……」
「プロを目指している人とかになら『あえて厳しく評価して鍛える』というスパルタ方法も、一つの手かもしれまちぇん。でも素人の子供大会で、そんなふうに言い放つその審査員は~。必死に作った出品者に対する、リスペクトを感じまちぇん。悪い部分を叩くより、まず長所を見出してこそ『本当のプロ審査員』じゃないでちょうか~。オクマーマは、そう思いまちゅ」
「実はさっきまで、これ叩きつけて潰しちゃおうかな? と思ってたの……。『こんなことになるなら、一生懸命作って出品なんかするんじゃなかった!』って。でも、オクマちゃんにそこまで言ってもらえて……少しは、これを作って無駄じゃなかったと思えてきたわ」
「生きている間は散々バカにされて、死んじゃった何十年何百年後になってから『実は凄かった』と評価されたような才能家もたくさんいまちゅ。芸術は、特にそんなもんじゃないでちょうか。マユミおねーちゃんは、出品しようと必死に作ったことだけでも尊いんでちゅ! 元気を出してくだちゃい」
「オクマちゃん……」
「あっ、そうっちゅ! オクマーマは、マユミおねーちゃんにプレゼントを持ってきまちた~。でも……。持ってくる途中で、潰されちゃいまちた……」
「私に⁉ いいのよオクマちゃん、私はオクマちゃん自身が一番大事なんだから……」
「でも~。残った部分で、これを作りまちた。下手で、ごめんなちゃい」
オクマーマは包み紙を開いて、必死に作った無骨な押し花をマユミに渡すのであった。
「ううん、下手じゃないわよオクマちゃん! とっても綺麗! 私も、この押し花にはオクマちゃんの心が見えるわ! ありがとう!」
思わず、オクマーマを抱きしめてしまうマユミ。
オクマーマの方も、キミナがアイコに受けた愛情と似たようなデジャヴを、なんとなく感じるのであった。
今回、一度は心が大きく傷ついてしまった二人。
しかし、例え他人の評価や見た目の無骨さはどうであろうと『心を込めて一生懸命作ったこと自体、すでにそれだけでも価値があるのだ』と感じ、お互いの心が救われたのである。




