第二十四話「花は生きていた」
無残に踏みつけられ、包み紙もボロボロになってしまった花束。
(体は大丈夫だったっちゅが、花束が……。オクマーマは、悲しいっちゅ……)
初めて自力で買った花がこんなふうになってしまい、うつむいてしまうオクマーマであった。
そんな時、キミナの記憶がまたもフラッシュバックする――。
実はキミナも、多少シチュエーションこそ違うものの――アイコに渡そうと花を摘んで帰る途中、イジメっ子に遭遇し『お前は貧乏だから、こんなその辺に咲いている雑草花しか持てない』とバカにされたあげく、これみよがしに踏み潰されてしまったことがあったのだ。
潰れた花を持って泣きながら帰宅したキミナだが、アイコはキミナの気持ちを嬉しく思っていた。
「キミちゃん! 物なら、壊れてもまた調達したり作ったり出来るわ。私は、キミちゃんが一番大事なんだから! キミちゃんの体さえ無事なら安心よ、花を持ってきてくれてありがとう」
「ママ~!」
「それに……茎は潰れたけど、花は形を留めているから大丈夫! ママと一緒に、押し花を作りましょう」
そのようにして、母子で一緒に押し花を作ったことがあったのだ。キミナは心が救われて、最終的には『アイコとの楽しい思い出』として上書きされた記憶が残っていたのである――。
(……これは、なにか……押し花を作っているようなイメージが浮かびまちゅ……。そうっちゅ! オクマーマも、形を留めて残った花の部分だけでも、押し花にするっちゅ!)
オクマーマは公園で石を拾い、包装紙の残りも利用して押し花を作り始めるのであった。
「い~ちょっ、い~ちょっ……」
必死に、手作りの押し花を完成させたオクマーマ。
多少不恰好だが、紙に包んで早速マユミの元へ向かう。
するとそこには、珍しく泣いているマユミの姿があった。
体育座りで頭を沈め、うずくまったままである。
「マユミおねーちゃん、どうしたっちゅか~っ⁉」
オクマーマが駆け寄ると、顔をハッとあげるマユミ。
「あっ、オクマちゃん!」
「まずは、涙を拭くっちゅ」
おはぎのような手で、マユミの目をやさしくプニプニと押すオクマーマ。
マユミの涙が、オクマーマの手に吸収されていく――。
「あ、ありがとう……オクマちゃん……。私ね……あれを作ったの……」
マユミが指差した先には、粘土で作られた人形が置かれていた。
「あれは、マユミおねーちゃんが作ったっちゅか? 良く出来てまちゅ」
それは一般の素人少女が作った物としては、十分良く出来ていると言える作品であった。
「そ、そうっ⁉ オクマちゃんは、そう思ってくれるのっ⁉」
オクマーマを両手で抱え上げ、急に目が見開くマユミ。
「マユミおねーちゃんは、粘土人形を作るのも上手っちゅ」
「オクマちゃんは、そう思ってくれるのね⁉ ありがとう! で、でも……」
「どうしたっちゅか~?」
「今回ね、この施設で粘土人形のコンテストがあったの。それで、私も時間かけて必死にあれを作って……。自分では、十分満足してたのに……」
「ダメだったんちゅか?」
「審査員の人は、わざわざ外部から招いたすごい専門家らしい人だったんだけど……」
「なんと言われたっちゅかっ?」




