第二十二話「母子の絆」
大和家に本当に金目の物がなく、イラついてしまった借金取りは――アイコの味噌汁が入った鍋の取っ手を、つい素手で触ってしまう!
「アチチッ!」
思わず鍋を弾いて、土間に落としてしまった借金取り――。
無残にぶちまけられてしまった味噌汁を目の前に、思わず膝をついてしまうアイコ。
「ああっ……」
流石に粗暴な借金取りも、これは自分に非があったと思うしかなかった。
「こっ、これは俺も落とすつもりはなかった! ……しょうがない、この弁償として今回の利子はこれと相殺にしておきますよ。かなりの大サービスですわ、ありがたく思っておいてくださいよ奥さん! でも次に返せなかったら、最悪……体を使ってでも、払ってもらいますぜ⁉」
しゃがんだアイコを後目に、そそくさと去っていく下っ端の借金取りであった。
すると、その直後――。
味噌汁を食べ終わったキミナが、奥の小部屋からフスマを開けてアイコの元へ歩み寄ってきた。胸にはいつものようにオクマーマを抱きながら、お椀と箸も一緒に持ったままである。
おそらく、玄関先から聞こえた物音や声が気になったのであろう。
「ママ~。どうしたっちゅか? ……あっ!」
味噌汁が土間にこぼれ落ちているのを見たキミナに対し、とっさに取り繕うアイコ。
「あっ⁉ キ、キミちゃんっ! いつの間に⁉ ……い、いやね。ママ、ちょっとドジしちゃって、こぼしちゃったのよ。もったいないことしちゃったわ、反省しないとね」
あたふたとした表情で動揺しながらも、理由を取り繕ってしまうアイコ。
だが幼いキミナは、それを素直に受け取るのであった。
「それで音がしたんちゅか~。でも、ママはお腹空かないっちゅか?」
「わ、私は大丈夫よ~、キミちゃん!」
「キミちゃんは~、ママと一緒に卵食べようと思ってぇ~。ママのために、卵を半分残ちておきまちたぁ~」
キミナの茶碗の中には、半分だけキミナが食べた残りの卵が残されていた。
「キ、キミちゃん! だめよっ、キミちゃんは育ち盛りなんだから、ちゃんと全部食べなきゃ。ママは、大人だから大丈夫!」
「そうっちゅかぁ~? でも……」
こぼれた味噌汁の中に――卵らしき物どころか、他の具もほとんど入ってないのを見たキミナ。
(ママは、無理して自分の分もキミちゃんの分に入れてくれてるっちゅ! ママは、いつも大変っちゅ。ママも、ちゃんと栄養取らないとダメっちゅ!)
キミナは幼心にそう思うと『アイコに、どうしてでもこの残った半分の卵を食べさせよう』と、子供ながらに考えるのであった。
「キミちゃんは~、今日はもうお腹一杯になっちゃいまちた。もう、どうしても食べられまちぇん。ごめんなちゃい。もったいないっちゅから~。これは、ママが食べてくだちゃい」
もちろん、キミナは決してお腹が一杯なわけではない。嫌でもアイコが食べるように必死に考えて、わざとそのように仕向けたのだ。
「キ、キミちゃん……」
アイコは、キミナがお腹一杯ではないということは当然察していた。しかし、幼いながら必死にそうしてくれるキミナの気持ちは、とても嬉しかったのだ。
「そ、そう? それじゃ、もったいないわよねっ。じゃあ今日のだけは、ママが残った卵の半分食べちゃうわね!」
キミナの茶碗に残っていた半分の卵を、一口でパクッと食べるアイコ。
キミナと目と目が合い、思わず二人とも笑顔になるのであった。
(キミちゃん……。こんな思いやりのある子に育ってくれていて、ママは嬉しいわ……)
貧しくとも、良い子に育っているキミナを誇りに思うアイコであった。
――強風に煽られる扉を見ていたオクマーマには、最初は怖いイメージが先行していた。しかしなぜか、とても心が温められていく感覚にも包まれたのである。
(ぼんやりで、よくわからないっちゅが……。なんだか、ほっこりしまちゅ)
風吹き荒れる中、心地よい気持ちになり古民家を後にするオクマーマであった。




