第二話「オクマーマの使命」
「自分でも、自分のことがわからないっちゅ……」
思わず、周囲を見回すオクマーマ。
すると、すぐ横にもう一体『かなり大きなノッペラボウ人形』だけが置かれている。
「この大きな人形は、一体なんでちょうか? わかんないっちゅ……。とりあえず、一旦外に出てみまちょう」
排気口から建物の外に出たオクマーマは、とりあえず正面玄関に回り込んでみた。
「入口は、鍵で閉まってまちゅ」
よく見ると、玄関には『……ボット研究所』と書かれているようだ。すでに文字が薄くなり、半分読めないような状態になっていた。
「多分、なんとかロボット研究所って書いてあるっぽいっちゅ。じゃあ……オクマーマはロボットなんでちょうか? でも~。オクマーマの体は、ぬいぐるみのように柔らかくて軽いっちゅ。メカっぽい硬い物も体内に感じまちぇん。なのに、なぜか自分の意思で自由に動けまちゅ……」
さらには、『立ち入り禁止』という錆びれた看板も置かれていた。
「どうやら、ずっと放置された研究所のようっちゅ。それにしても、オクマーマはどうして字も読めて意味も全部わかるんでちょうか。でも、知識はあるのに記憶はありまちぇん。さっき目覚めた時からの記憶しかないっちゅ……」
そして、足元にあった水たまりに自分の顔を映すオクマーマ。
「オクマーマは、ぬいぐるみの見た目っちゅ。表情も、一切変わらないっちゅ。口も、パクパク開きまちぇん。でも、なぜか口元が振動して声が出ているようっちゅ……。手も、丸くて指がないっちゅ。でも、物は掴めまちゅ」
自分が一体何者かはわからずとも、今ここに存在していることだけは確かなのだと思うオクマーマであった。
「とにかく、オクマーマはオクマーマっちゅ! ちゃんと生きてまちゅ! ……でも~。今ここで生まれたオクマーマは、これからなにをすべきなんでちょうか……」
するとその時、オクマーマの中に突如『誰かの声』が響いた。
≪なにがあっても悪には屈さず、最後まで善行を貫き通して欲しい……≫
オクマーマには、それが『誰が誰に対して言ったことなのか』もサッパリわからなかった。だが、ひたすらそのメッセージが響いたのだ。
「そうっちゅ! 多分オクマーマは、善行で世の中を良くしていくのが使命っちゅ!」
記憶がまったくないオクマーマにとって、そのメッセージがフラッシュバックしたのは『もしかして、それが自分の誕生とも深く関係があるのではないか?』と直感させるものであったのだ。
「オクマーマに出来る善行というのは、一体なんなんでちょうか。とにかく、小さいことでも一つ一つ行動してみれば……なにか、わかるかもしれないっちゅ」
わけもわからず誕生した自分の使命は、多分それなのだろう――と思い、元気を出すオクマーマ。
早速、初めての街中へ繰り出していくのであった。