第十二話「心に眠る、いい子ちゃん」
「そういえば、オクマちゃんはどうしてオクマーマっていう名前でこの姿なのかしら。魂が宿る前の人形が、元々この姿で作られてたの?」
「違うっちゅ。この写真を見てくだちゃい。これが、魂が宿る前の姿っちゅ……」
「ええっ⁉ ツルツルな、ノッペラボウの人形じゃない!」
「この人形に、魂が宿った時……元々の自我が、強く記憶に残していた物の姿に必ず変化してしまう仕様らしいちゅ。もしそれに名称があった場合は、それも新自我に影響するらしいっちゅ。それでオクマーマの場合は、この名前のクマちゃん姿になったっちゅ」
「強い記憶……そうねえ。ナルシストでもなければ自分の姿を一番強く残すことは少なそうだし、例えば家族とか好物とか……逆に苦手な物や、トラウマが強く残ってる場合も……そもそも生物じゃない場合だってありそうだし、色々と心配よね」
「所長ちゃんは、それで実験に苦労したようっちゅ」
「なるほどねえ。それでオクマちゃんは一般知識と自分の名前だけは、なぜか最初から知っていたのね」
「でも、記憶はないのに……時々、誰かの言葉やイメージが魂の中に響く時がありまちゅ」
「いわゆる、フラッシュバックとかデジャヴのような感じで?」
「そんな感じっちゅ。それはどうやら、オネンネしてる元々の自我が持っている生前の記憶や信念が、オクマーマの自我の方にも時々干渉する現象らしいっちゅ。そして生前に本人が本来やりたがっていたことを、同じ性格の分身自我であるオクマーマも目指すようになるとのことっちゅ」
「その死んじゃった子って、どこの誰なのかしら。いつ頃死んだのかもわからないでしょうし……」
「自分の分身ながら、小さい頃に死んじゃったのはかわいそうっちゅ。フラッシュバックがもっと鮮明になれば、身元のヒントも出るかしれないっちゅが……まだ発生しても短くて、不鮮明っちゅ」
「オクマちゃんはその子と同じ性格なわけだから、その子も多分いい子だったんだと思うわ」
「オクマーマは、この魂の中でオネンネしている元の本人を『いい子ちゃん』と呼びまちゅ」
まだ見知らぬもう一人の自分である故・大和キミナのことを『いい子ちゃん』と名付けるオクマーマであった。
「……そうだわ! いい子ちゃんがいつ頃亡くなったのかはわからないけど……多分、生前大切にしていたかもしれないオクマちゃんソックリな『オリジナルのぬいぐるみオクマーマ』が、今でもまだどこかに現存していれば……もしそれを発見出来たら、いい子ちゃんが誰なのか判明するわよね⁉」
「でも……。オクマーマのこの姿のモデルになったかもしれない、オリジナルのぬいぐるみオクマーマちゃんは……今でもまだ存在しているのか、手がかりもなくサッパリわからないっちゅ。それにオクマーマと似たクマちゃんのぬいぐるみは、これまで街の店先でも何度か見かけたっちゅ」
「そういえば確か、オクマちゃんと同型のぬいぐるみはロングセラー商品だったはずだわ。だから世の中にも多数出回ってるし、今でも多分まだ細々と市販されているはず……。だけど、オクマちゃんのこの耳にある……手作りっぽい青いリボンだけは、オクマちゃん独自の印よ!」
「そうっだったっちゅ。このリボンが付いてるタイプのクマちゃんは、他に見たことがないっちゅ。そこに期待しまちゅ!」
もし、同じリボンが付いる『オリジナルのぬいぐるみオクマーマ』が現存していれば、いつか遭遇するかもしれない――という、僅かな望みでも希望を抱くオクマーマであった。




