第十一話「オクマーマの秘密」
自分の秘密を知って動揺していたのが嘘のように、マユミとのふれあいで落ち着きを取り戻したオクマーマは――そのことを、マユミに語り始めていた。
「マユミおねーちゃん。実は……オクマーマが目覚めた場所は『念波ロボット研究所』という所で、オクマーマはその念波ロボの一種らしいっちゅ」
「ええっ、ロボット⁉」
「研究所の『大和テツ』という所長ちゃんが、二十年前に『念波鉱石』というのを発見したらしいっちゅ。世界に一つしかないっちゅ」
「念波鉱石?」
「鉱石からは、目に見えない念波が常に遠くまで放出されてまちゅ。オクマーマは、今もその念波を受けて動いてまちゅ」
「じゃあ電波みたいに、今この場にも……念波が届いているのね⁉」
思わず、空中を手で探ってしまうマユミ。
「そうっちゅ。オクマーマが無補給でずっと動けるのも、傷が治るのも、鉱石からの念波が常に供給されているからっちゅ。でも一定以上の損傷すると、回復早めようと眠気が出まちゅ」
「だから、あの雨の中で眠ってたのね? でも、その受けた念波をどうやって使っているのかしら。オクマちゃんの体には綿みたいなのしか詰まってないし、メカのような制御回路もないようだし……」
「実は、オクマーマには……どこかで死んじゃった、子供の魂が宿ってまちゅ」
「ええっ⁉」
「魂を頭脳として、人形本体を操縦させる『広義でのロボット』ということらしいっちゅ。でも、人間の魂が宿っている生命体とも言えまちゅ」
「それじゃあ……オクマちゃんは、霊媒師が魂を霊媒した時のような状態⁉」
「霊媒とは、若干違うっちゅ」
「そうなの?」
「人形に魂が宿った時……生前の記憶を持った元々の自我は、魂の中で必ずオネンネしちゃう仕様らしいっちゅ。だから霊媒のように、生前のことを喋らせたりは出来まちぇん」
「じゃあ今のオクマちゃんの自我は、死んだ子の元々の自我とは別の……新しい自我ということ⁉」
「そうっちゅ。オネンネしちゃう元々の自我に代わって『念波ロボとして活動する分身の新自我』が、同じ魂の中で誕生しまちゅ。それが、今のオクマーマの自我っちゅ」
「魂自体はその子の魂なのに……その中では、二つの自我が同時存在なんて!」
「だから、オクマーマには記憶がなかったっちゅ」
「でも記憶がないのに、どうして知識だけあったのかしら?」
「知識だけは、新自我が誕生した瞬間に刻まれる仕組みっちゅ」
「へぇ~! その大和テツって所長さん、凄い科学者だったのね……」
「マユミおねーちゃん。この研究所や所長ちゃんのことは、一切知らなかったっちゅか?」
「う~ん。私の歳だとその研究所が出来た頃は、まだ生まれてないから知らないけど……。そうだ、施設の先生に聞いてみるわ! ちょっと待っててね」
しばらくしてマユミが戻ってくると、とても驚いていた。
「オクマちゃん! 二十年前に、その念波が世間でもちょっと話題になってたんだって!」
「ええっ! そうなんでちゅかっ⁉」
「でもマスコミから袋叩きにされて、危ないとかインチキだとか散々言われていたみたい。ネガティブなタイトルを付けられた週刊誌の広告を、電車の中とかで先生も度々見たって」
「そうっちゅか……」
「それで、博士は独自に研究所を作ったらしいんだけど……」
「それから、どうなったっちゅかっ⁉」
「世間ではそれ以降、人々の記憶からだんだん消えちゃったみたい。先生が知っていたのは、それだけだって」
「ありがとうっちゅ。その話を、知っただけでも良かったっちゅ」
「少しでも、役に立てて良かったわ」




