第十話「心の支え、マユミとのふれあい」
オクマーマは、まず己を知る所から始めるべきと考えた。
「そもそもオクマーマは、自分の体の構造も不明っちゅ。鍛えても、強くなるかどうかわかりまちぇん。……あっ! そういえば、この研究所には……オクマーマに関する資料が、なにか残っているかもしれないっちゅ!」
オクマーマは研究所に再侵入し、必死に調べてみると――。
「資料がありまちゅ!」
その資料は、あえてアナログメモとして紙に記録されていた備忘録であった。
表紙の下には『念波ロボット研究所 所長・大和テツ』と書かれている。
「ここは、そういう研究所だったんでちゅか……。あっ! じゃあ、オクマーマはその『念波ロボット』なんでちょうかっ⁉」
最初のページを開くと、所長であったという『大和テツ』の写真が貼られていた。
「これが、所長ちゃんの顔っちゅか……。やさしそうな顔をしてまちゅ」
オクマーマは早速、資料に目を通し始めていく――。
「そ……そういうことだったんちゅかっ!」
なぜ自分は、体内にメカもないのに自由に動けるのか。
なぜ腹も減らず、延々と活動を続けられるのか。
なぜ、勝手に自己修復する『不死身の体』であるのか。
それら一連の秘密を、この資料を読んでほぼ理解するに至ったのだ。
「自分が……怖いっちゅ」
己を知り、戦慄を覚えたオクマーマは――唯一の心の支えとなっているマユミの元へ、自然と足が向かってしまうのであった。
「マユミおねーちゃ~ん! オクマーマっちゅ」
オクマーマが孤児施設に着くと、頭にタオルを被ったまま髪を拭いている最中のマユミがいた。
「ん? オクマちゃ~ん。今お風呂上りだから、ちょっと待っててね~」
しかし待ちきれないオクマーマは、甘えるようにマユミの足元へ駆け寄ってしまう。片足にしがみつき、体の側面を健気によじ登っていく。
「い~ちょっ、い~ちょっ……」
「アハハッ、お、オクマちゃんっ! くすぐったいっ、アハハッ!」
肩までよじ登ったオクマーマはタオルを押しのけ、マユミの頬をプニプニと押してしまう。
「マユミおねーちゃんは、いい香りがしまちゅ。肌もツルツルっちゅ。清潔っちゅ」
マユミは頭を拭いていた動きを止め、横目で肩の方をチラっと見ると――ドアップで映る、オクマーマのかわいい顔。
「うふふっ。そりゃ今お風呂に入ったばかりだからよ~、も~う。オクマちゃんこそ、こんなにモフモフして、本当かわいいんだからぁ」
マユミはオクマーマの肌触りの良さに、思わず頭を拭いていたタオルを投げ捨て――オクマーマの顔を、頬にギュッと押し付けてしまう。
「マユミおねーちゃん。そんなに顔押し付けると~、オクマーマの顔が細長くなっちゃいまちゅよ」
少し縦長に潰れてしまった、オクマーマの柔らかい顔。
「あっ! ごめ~ん、オクマちゃん! ついつい押し付けすぎちゃった!」
「大丈夫っちゅ。オクマーマの顔は、しばらくすれば元に戻るっちゅ」
しかしマユミは、オクマーマの体を自分の正面に持ち直した。
「でもオクマちゃんのかわいい顔は、やっぱり丸くないとね~っ!」
おにぎりでも握るかのように、オクマーマの顔を丸く整えていくマユミ。オクマーマは無表情であるはずなのに、どことなく嬉しそうな顔をしているように見える。
「はいっ! 元のまん丸な顔に戻ったわよ~、オクマちゃん! ごめんね~」
「オクマーマの顔は、まん丸に戻ったっちゅか? ありがとうっちゅ~」
小さな両手を、ピコピコと上げて喜ぶオクマーマ。
「オクマちゃんの手って、きな粉の『おはぎ』か『いなりずし』に似てるわね」
「ふふう~」




