第一話「誕生! 魂のオクマーマ」
ほんの数日前、謎の奇病に倒れてしまった幼女『大和キミナ』。
すでに危篤状態となり、その命は風前の灯火であった。
(ママ……苦しいっちゅ……ウウウッ……)
キミナはもう瞼を開くことも、声を出すことも出来ない。
地獄の苦しみの中、意識も薄れてゆく――。
その時、ふと自分の頬に『身に覚えのあるモフモフとした感触』を感じたキミナ。
(……オクマーマちゃん!)
もう助からないであろうキミナを見かねた母親が「最後にせめてもの安らぎを……」と、枕元に置いてあったぬいぐるみ『オクマーマ』をキミナの頬に密着させたのだ。
オクマーマとは――キミナがまだ物心つく前、一歳の誕生日に父から贈られていたクマのぬいぐるみである。普通の市販品だが、父によって青いリボンが左耳に付けられている。
キミナが物心ついた時、自らオクマーマと名付けるも……その時すでに、父本人は残念ながら遺影となっていた。
それ以降キミナは、四六時中オクマーマを胸に抱きかかえて生活していた。父の形見でもあり愛情の象徴でもあるオクマーマは、彼女の大切なパートナーとなっていたのだ。
キミナは薄れる意識の中でほんの一瞬だけ、オクマーマの感触とニオイに最後の安堵を感じたのである。
だが、ついに――。
(……あれぇ? キミちゃんは~、さっきまでとても苦しかったのに……もう全然苦しくないっちゅ。ママも、オクマーマちゃんも、なにも見えなくなっちゃいまちた。音も、なにも聞こえまちぇん)
無念の死を遂げたキミナの魂は、成仏出来ないまま空を彷徨ってしまう。
(なんだか、あそこが……懐かしいような、あたたかいような、そんな感じがするっちゅ……。もしかして、前にママが言ってた……パパがいるという『天国』なんでちょうか……?)
キミナの魂は、ある廃墟に置かれていた『小さなノッペラボウ人形』へと吸い込まれていく――。
(ここは……一体、どこでちょうか? フワフワな綿の中みたいで、あったかいっちゅ。でも……ママのあったかい匂いとは、ちょっと違う感じっちゅ。もしかして、パパがキミちゃんを迎えに来てくれたんでちょうか……?)
謎の人形に宿ったキミナの魂は、心地よい感触の中にいた。
(なんだか、とても気持ちよくて……眠くなってきちゃいまちた……。このまま、ここでオネンネしまちゅ。おやすみなちゃい、オクマーマちゃん……)
魂の中に存在する『大和キミナとしての記憶を持つ自我』は、ここで深い眠りに入ってしまうのであった。
そして眠ったキミナの自我は、生前の記憶でオクマーマの姿が一番強く残っていたせいか――まるで自分自身がオクマーマとなり、新たに活動を始めたかのような夢を見始めたのである。
するとノッペラボウ人形は不思議な発光を始め、なぜかオクマーマにソックリの姿に変化したのだ!
「うう~っ。……オクマーマは、今起きまちたぁ~。……あれぇ? ここは一体どこでちょう。今生まれたばかりのオクマーマには、記憶もまったくないっちゅ。でも、なんで自分の名前だけは最初からオクマーマだと言ってるんでちょうか……? それに、なぜか言葉もわかりまちゅ……」
この、自称オクマーマ。
声はキミナの声だが、キミナの記憶はない。自分の魂が『死んだキミナの魂』であり、人形に宿って誕生したのが今の自分だということもわからない。そして、自分の外見のモデルになったであろう『オリジナルのぬいぐるみオクマーマ』の存在も、当然一切知らないのだ。