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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

椅子取りゲーム

作者: 夢乃マ男

おれはこれから死刑が執行される。



逮捕され、この部屋に入ってからもうすでに数年たっているだろう。


気が狂いそうになるほどなにもない部屋。

気が狂いそうになるほどなにもない1日。


気が狂いそうになるほど延々と繰り返された。


いや、死刑になるほどの罪を犯している時点で、世の中から見たら既に気が狂っているのか。


今日はいつもとは違う。


おれの事を番号で呼ぶ個性を殺されてるような奴等の1人がおれを別の部屋へ移るように指示をしてきた。


そう、これからおれは殺されるのだろう。



罪を犯してきたおれだが、死にたくはない。


死が怖い。


おれは気が狂いそうになる部屋から出る。


何もない部屋。

唯一、人のように見える壁の染み。

おれが話し相手にしていた壁の染みに最後の最後に目が行った。


が、何も感じなかった。


所詮それはそれ。



部屋を出るとまた部屋があった。


数年暮らしてきた部屋となんら変わらない部屋。


ただ、部屋の真ん中に人1人がやっと入れるくらいの檻。



ちょうど棺桶を立てたような感じだ。

これから死ぬことが決定しているおれにはぴったりの比喩だ。


そしてこれは、おそらくおれが入る檻なのだ。

棺桶以外の何物でもない。


間も無く奴等は棺桶に入るよう指示してきた。



笑えた。自然と口がにやけた。部屋のあいつと話してる時は笑うなんてことなかったのに。



今さら奴等に逆らう気なんてない。ただこれからどんなことが起こるのか楽しくなってきた。



それほどにあの部屋の外には刺激がある。


あの部屋の中がいかに何もない退屈な世界だったのか。


棺桶に入ると勝手に鍵がかかり開かなくなった。


これから死ぬというのに、不思議とわくわくする。


死を受け入れたということなのか、退屈じゃないということがこんなにも楽しいのか。



鍵がかかると、奴等が部屋に入ってきた。


揃いも揃って同じ服。同じ歩き方。同じ喋り方。


淡々と作業をこなしてゆく。


どうやら、この檻が棺桶になることは無さそうだ。


おれは気付かなかったが檻には車輪がついていたようだ。



おれは檻に入ったまま部屋を出る。自分の意思では進めない。


奴等の思い通りの方向に進まされている。それはさながら乳母車のようだ。


窓から見える景色や、建物内の景色全てがおれに感動を与えた。


見るもの全てが新鮮な赤ん坊のような気持ちになった。


ただの檻が棺桶から乳母車になったわけだ。

何かがあるだけでこれだけ楽しめる。



今、おれを運んでいる同じ服を着たこいつらより俺はよっぽど心がある。


そんなふうに目に見える全てを楽しんでいると、だんだんと殺風景になってきて1つの部屋にたどり着いた。


奴等の1人が扉を開けると、中には俺と同じ状態でいる人間が何人かいた。


その回りを軍隊のようなやつらが壁に背をつけ立っている。


その手に銃を持って。



俺の入った檻が部屋の中に固定されるとおれを数字で呼ぶあいつらは部屋から出ていった。



おれと同じ箱詰めのやつらの数は7。おれを含めたら、8。

こいつらも死刑囚なのだろう。






年寄り、罪なんか犯せなそうな青年、だらだら汗を流し興奮してるやつもいる。


入って来たのとは違うドアの方を正面におれらは横に並んでいる。

なぜおれらを集めたのか。

軍隊みたいなやつらに銃殺させるのなら、わざわざ集める必要はないはず。


同じ部屋で一斉にやったほうが後片付けが楽なのか。


それとも毒ガスか。



いろいろな考えが頭をよぎる。


死の恐怖は全く無かった。

もう何をしようが死ぬのだ。その前に起こっているこの誰も体験し得ないこの特異な状況を楽しみたい気持ちが大きい。


そんな変化があの部屋を出たときから現れた。




そして目の前にあるこの現実が俺をさらにそんな気にさせる。


これから何が起こるのだろう。外の世界ともあの退屈な部屋でも起こり得ない出来事がきっと始まるのだろう。



そして始まったら、すぐに終わる。おれの全てが。



おれが入って来たドアが開き個性のある軍人が入ってきた。


風貌からしてこの隊の長だろう。ドタドタと大股で歩き、手には銃では無く煙草。スキンヘッドに傷だらけの頭。


思えば煙草なんかずっと吸っていない。急にあの味が恋しくなった。



スキンヘッドが俺らの正面に立つと煙草を深く吸って喋り出した。



『ここにいるお前らはどうしようもないクズばかりだ。』


『死刑になるほどの罪を犯したんだからわかってるよな』



『自分も殺されても仕方ないってわかってるよな』



『お前らは死ね!死んで当たり前のクズだ!生きていてもしょうもないクズだ!』



『あ"~!!おれはやってないんだ!!』


さっきの汗だくのやつだ。この期に及んでまだ罪を認めていないのか。



軍人達の銃口が全て汗だくの方を向く。



スキンヘッドが手を出すと銃口は天を見た。


『生きたいのか』


『当たり前だ!!おれは無実だ!!』



スキンヘッドが煙草を消すと顔がにやけた。


誰が見ても何かを企んでいるのが丸分かりな悪い笑い。


『ここにお前らを集めたのは理由は1つ』



『お前らで命をかけてゲームをしてもらう』


『だんだんと数が減っていくシステムになっている』


『全員死ぬはずのお前らに最後の慈悲だ。最後に立っていたやつは!その最後の1人は!生き残った1人は…』












『生かしてやる!!』


『死にたくないやつは死ぬ気で頑張れ!!以上!!』




死なずに済む可能性がでてきた。



檻から出たら背中に銃をつきつけられた。


まだおれには自由がない。いや、むしろ銃がなくても自分の意思で抵抗していないんだ。動かないことで自分の意思通りの行動をとっているだ。




もうすぐ楽しいゲームが始まるのだから。抵抗なんかしない。



スキンヘッドがルールを説明しだした。


これから行われるのは椅子取りゲームらしい。


用意される椅子の数は、人数から1ひいた数。


座れなかったものは、死んでもらう。


こんなことをニヤニヤしながら言っていたが、まだ何かありそうな笑い方だった。


本当に生き残りの座をかけるわけだ。






説明が終わると、すぐに次の部屋に移された。


もちろん背中に銃を突きつけたまま。

汗だくのデブが多少抵抗したが、



『生きたければ、最後まで残ればいい。それだけだ』


スキンヘッドの一言でデブは大人しくなった。


老人はそれを見て微笑み、青年は冷たい眼でデブを見ていた。





部屋の中央には椅子が7つあった。椅子に吸い寄せられるように、体が吹っ飛んだ。


おれだけじゃない。

8人全員だ。



どうやら、軍人に吹っ飛ばされたらしい。

背中の痛みからするとおれは蹴られたみたいだ。


♪~♪~♪~


部屋には、陽気な音楽がかけられている。

聴いたことはあるが名前はわからない。


♪~♪~♪~


ベートベンとか、バッハとかのクラシックだ。


♪~♪~♪~


スキンヘッドは部屋にいないが、スピーカーから声が響いた。


高みの見物ってやつだ。天井のすみにカメラがある。

♪~♪~♪~


そこから見ているんだろう。せいぜい楽しんで見てればいい。


♪~♪~♪~


おれが勝ち残るところを。生き残りの座にはおれが腰をかける。


『さぁ、早く踊りながら椅子の周りを回れ。わかってると思うが、音楽が止まったときが誰かの人生が終わるときだ』


♪~♪~♪~


おれらは円になり椅子の周りを回り始める。


♪~♪~♪~


ジジィもデブもガキも他のやつらも無表情で歩くだけ。


♪~♪~♪~


なんで楽しまないんだ、人生最後の時を。


♪~♪~♪~


おれは踊った。こんなことが楽しいなんて幼稚園児だったころ以来かもな。



♪~♪……









座れた!おれは生き残った。となりにはガキがいる。


ガキの視線の先には、デブとジジィが。



デブがジジィを突飛ばし椅子に飛び付くように座った。


汚いとは思わない。皆、生きたいのだ。



ジジィの死が決まった。



ここで放送が入る。

おそらくジジィを馬鹿にしたような言葉で死刑を伝えるのだろう。


『すまん。忘れてたが、おまえらが座る椅子なんだか、一つは電気椅子なんだ。それは椅子の数が減ろうが次からも一緒だ。』




『あ"ぁあ~ぁ"ぅ"』




おれの後ろで悲鳴が聞こえた。どうやら運がわるかったらしい。





『運が悪かったみたいだな。そして、もちろん座れなかったものにも死んでもらう』





パンッ。




銃声と同時にジジィが倒れた。





『さぁ次の部屋に進め。音楽が流れ始めたらまたゲームの始まりだ。楽しんでくれ。』





8人。



6人。



4人。



2人。




数は部屋を進めるごとに減っていった。



もちろんおれは、生き残った。電気椅子だけは、運任せだがおれはまだ神に見放されてないらしい。



まぁ神なんか信じちゃいないし、ここでの神はあのスキンヘッドなのだがな。



最初の部屋以外は、部屋に入ってから音楽がなり始めるまで少し時間があった。

その少しの間をみんないろんな過ごし方をしていた。


ひたすら独り言を言う奴。必死で電気椅子はどれかを見極めようとしてる奴などがいたが、どの部屋でもおれは最初のガキと話しをしていた。



どちらかが死ぬかもしれないのに。



そして、最後の二人はおれとこのガキだった。



最後の部屋にある椅子は一つ。

これこそが皆が座りたがった【生き残りの座】なのだ。


部屋に入るとガキとしばらく目があった。


ガキが話しだす。



『実は僕は無実なんです』


『はぁ?』



『僕は罪を犯してない。』



今さらこいつは何を言い出したんだ。おれの相槌を待たずにガキが喋り続ける。


『今さら何を言っても僕の主張は通らないのはわかってる。だから僕は最後まで罪を犯さずに死んでいきたい。』



『それが僕の抵抗です。あなたが生きてください。』

『僕がそこに座るということは、あなたを殺すということなんです。』



『だから僕は座らない』




おれは何も言わなかった。いや、言えなかった。




♪~♪~♪~


音楽がなり始める。



♪~♪~♪~



椅子の周りを回り始める。

♪~♪~♪~


おれもガキも笑顔で精一杯楽しみながら。



♪~♪~♪~



ガキがこっちを見て笑ってる。



♪~♪~♪~



今から死ぬ人間とは思えない。



♪~♪~♪~



濡れ衣を着せられ、死んでいくものの顔には見えない。



♪~♪~♪~


こいつは死ぬべき人間じゃない。



♪~♪~♪~


少なくともおれよりは。



♪~♪~♪~


おれは椅子に座らない。



♪~♪~♪~


この青年のために。


♪…




音楽が止まった。

おれも青年もその場で止まった。



おれはおもいっきり青年を殴った。


青年はたった一発でよろよろになる。



青年を担ぎ上げ椅子に座らせた。




『これは自殺だ。気にするな』





おれは青年の顔を見て笑ったあと、青年に背をむけた。


『さぁ!殺せ!』

















死んだのは、青年だった。


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