序章
手元に一本ペンがあるとする。
それがなくなったとしたら困るのか。
答えは否である。代替えを用意すればいい。
他人が死んだら困るのか。
その答えも否だ。自分ではないのだから。
死とは常に現実ではない。
何故なのか。実際に自分が死んだことがあるわけではないのだから。
現実とは’生きている’ことをいう。
‘確実に自分の息の根を止める方法’若しくは‘確実に仲間を殺す方法’
それは私たち魔法使いが戦場に出る前に、一番最初に教えられることである。
ど派手な爆発音のあとに脳裏に声が届いた。
ぷつりと何か異物が紛れ込むような感じはいつまでたっても慣れない。
『作戦終了』
無感情、又は嬉々とした感情を押し殺したような声色が響く。
『お疲れさまでした』
本日も快勝である。
魔術大国家―トイフェルレーヴは確実に領土を広げつつある戦争で彼らを止める敵は今やいないに等しい。
しかし戦争であることには変わらず毎日数えきれない人々が死んでゆく中、嬉々とした感情を抑えたような声色が届くというおかしな理由。
敵が撤退したのちに仲間の死体を回収する回収車が通り、その中に誰がいるのか確認しようとする様はまさに異様であるが、これが魔術大国家―トイフェルレーヴの日常である。
何故なら彼らのように従軍するものは‘死なない’からだ。
‘死なない’には語弊がある。
死んだ者は速やかに次の人工生体へと精神転移をし、生き返るからである。
その技術が可能になったのは11年前についに完成した人工生体に継ぎ、8年前には脳の連続断片化による人格、記憶の複写に成功。
7年前にはついに精神転送の成功をおさめたといってもいい。
が、それはいまだに試作品の段階から完成品にはなっておらず、人間の不老不死への夢はいまだ手の中にはない。
彼らのように自ら望んで従軍し、死地へ向かうものを敵国は生きる屍―カダヴルと揶揄した。
初めまして、伯耆です。
適当にながくゆる~く新しい長編を次こそは書いていこうかなぁと思っているので更新もまばらですが見てもらえたらうれしいです。