野ばら
一輪の美しいバラが、悠々とした草原で、ゆったりと風を浴びていた。
バラは思う、前に来た渡り鳥の話を思い出した。
どうやら、この世界にはこの草原以外にも、美しいところは沢山あって、渡り鳥は海というものの上を飛んでいくらしい。
そこは一面見渡す限り水ばかりで、太陽の光が反射され、煌めく水面がとても綺麗だそうだ。
私は、もっと色々な場所に行ってみたい。
広大なこの世界を、もっと楽しみたい。
しかし、私には足が無い、動くことが出来ない。
バラはそれを酷く残念に思う。
私が動物だったなら、もっと遠くまで歩いていけるのに。
バラがそう考えていると、1人の少年がやってきた。
「わぁ、綺麗なバラだ。」
バラは尋ねる。
あなたはどこから来たの?
少年が応える。
「僕はこの丘の下にある、港町からだよ」
港町、聞いたことがある。
海に面して建てられた、ものすごく巨大な建造物、それが沢山並び、人間たちは海の恩恵を受けて生活しているらしい。どれひとつとして想像も出来ない話だ。
バラは思いついた。
そうだ、この少年は歩く事が出来る。
それに人間は器用だから、私を植える事も出来るだろう。
ねぇ、私を色々な場所に連れていってほしいの
もっとこの世界を見てみたい!
あなたなら私を他の場所に植えることも出来るでしょう?
少年が応える。
「あぁ、いいよ!君はとても綺麗だしね!」
そう言って少年はバラに手を伸ばす。
「このまま抜いちゃって大丈夫かな?」
うん、大丈夫。トゲに気をつけてね。
「いてっ」
少年はバラの忠告のすぐ後にトゲに刺さってしまった。
「ごめん、注意力が足りなかった」
私こそ、ごめんなさい。
そうして、少年はバラを根から抜き、港町へ持ち帰ったのだった。
その日の夜、バラは根を切られ花瓶に飾られていた。
この短編は、シューベルトの作品、『野ばら』を参考に作ったものです。
原作からはかなりズレているので、「野ばらを見て思いついた」程度のものだと思ってください。