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風変わりなVRMMO(仮)  作者: 渡歩畝
第二章 セトの里
7/8

#007

「はっはっは――」

「……」

「すっかり忘れてました。ごめんなさい」


 とりあえず笑って誤魔化そうとしたけど、冷たい視線を頂いたので謝る。

 言い訳をさせてもらえば、自分の持ち物という感覚が無かったのだから仕方ない。こんな短時間で身に覚えのない物の所有権を認識できる人間なんているのでしょうか?


「いやはや、こっちに来た時に持たされたもので、私の物という認識が薄かったようです」

「こればかりは気を付けるたほうがいいですよ。何が入っているか知らないけど、見たところそれが全財産なんですよね?」

「……そうゆうことになりますね。ご忠告ありがとうございます」


 そう考えると危ないところだった。ここはしっかり反省しておこう。……そういえば、衣装も今身に着けているキャラクターメイキング時の物しかない、替えとか入っているのかな。あと、こっちのお金も持ってない。それもこの袋の中に入っているのだろうか?

 お暇を申し出た直後で恥じ入るけれど、荷物の確認をさせてもらいたい。暗い所では無理。


「もう少し時間を頂いて、ちょっと中身を確認させていただいてもよろしいですか? 中身を知らないままで持ち歩くのも不安なもので」

「……まあここまで来たら付き合いましょう」

「本当にお邪魔してしまっていて、ごめんなさい」


 いそいそと床に置かれた背負い袋に近寄り、口を開けて中を検める。

 ……なんかいっぱい入っているな、そこの机にでも出していこう。


「お鍋、包丁にお玉杓子……透明な石? と普通の石?」


 まずは高さ二十センチ直径三十センチくらい銅のお鍋、刃渡り二十センチくらいの鞘に入った包丁、木製のお玉杓子。カエルの子ではない。そして謎の石が二個。うん、流れからして調理関係だろうけど何ぞこれ。


「たぶん透明なのは岩塩、灰色のが火打石ですかね?」

「おー、これが噂の岩塩と火打石ですか」

「噂になるほどのものですかね?」


 こぶし大の透明な石とその半分もない灰色の石。彼曰く、岩塩と火打石である。

 言っておいてなんだけど、噂になっているなんて私も今初めて聞いた、さっき自分の声で。

 岩塩ってピンクっぽいイメージがあった。それにちょっと汚れているかと思ったけど、透明で奇麗なもんだ。まあファンタジー要素が入っているかもしれないけど。結構硬いから、これを使うときは包丁で削ればいいのかな。

 火打石は子供の頃に時代劇で見たことあるアレだろう。背中にカチカチと火花飛ばすヤツ。あんなもので火が付くのか不思議に思ったものだ。面白そうだしあとで試してみよう。


 ここまで出したら袋の中身はもう残り少なくなっている。


「ええまあ。あとはチャプチャプの革袋と小瓶にクッション。それとポーチっと、重いな。これで終わりですね」


 チャプチャプと鳴る革袋と黄色い透けた小瓶に綿のようなクッション材。最後にベルト付きの革のポーチは机へじゃらじゃらと音を立てながら置き、袋の中は空になった。


 液体が入った革袋と小瓶は軽く開け中身確認。色や匂いで判断してみる、推定で二リットルくらいの水と百ミリリットルくらいの植物油。さっき酷い目にあったから口には含みませんよ。

 揺らしたときにチャプチャプいっていたのは、これらだったのだろう。漏れている様子はない。って転んだ際に瓶が割れていたら、中身が油まみれで惨事になっていたのでは? 本当に何事もなくて助かった。

 ポーチの中身はなんとなく予想がつく、置くときの音がそうさせた。ただちょっと重かったけど。


 もう一度確認のためパタパタと袋をひっくり返しても、もう何も出てこなかった。――着替えが入ってませんよ?


「ふむ、料理をされるのですか」

「いえ。殆ど全くしませんね。チンだけです」


 一段落ついたと判断したのか。出したものを眺めていた彼が呟くように言ったので、即答して出来る範囲を伝える。


「チン? えっと……これらって調理道具ですよね?」

「そうみたいですね。こっちで挑戦しようと思ったので、それで持たされたのかと」

「はぁ……」


 ため息を()かれてしまった。

 けれど人間は必要なければ覚えないモノですよ。必要になったら頑張って覚えるんだよ……たぶん。料理なんて電子レンジでチンすれば大概大丈夫。でもどう説明をすればいいか分からないから流そう。――こっちでは再現無理かな、せめてカセットコンロは付けて欲しかった。


 出したものを背負い袋に仕舞い直す。但しポーチだけ出したまま。

 ついでにポーチの中身も確認したいので開けてみる。


「やっぱりコイン、しかもいっぱい。――並べて数えてもいいですか?」

「どうぞ」


 開けてみると小袋の中身は予想通りであった。銀色に光る「10」と紋章のようなものが刻印された丸っこいコインが、パッと見で目算できないほど。

 彼の了解を取って並べていく。十枚の山を作っていこう。


 ……コインをカチャカチャと積み上げていく地味な作業を終えると、カウンターの上には十組二列の塔が出来上がった。そして、コインは表裏が「10」と同じ紋章の組み合わせの物しかなかった。つまり、同じコインが計二百枚。もう少し大きい単位のコインか紙幣にして欲しかった気がするのは私だけだろうか、これだけでも結構な重さですよ。

 しかし、コインの価値は分からないけど、これだけ並んでいるの見るとちょっと心が沸き立つ。

 あと底から出てきた紙切れ一枚。内容は「これで必要なもの買ってください」的なことが書かれていた。これで替えの服を買えということか。


「二千ブランですか。それなりに纏まったお金をお持ちですね――十ブラン銀貨ばかりだけど。本当に気を付けた方がいいですね」

「はい……。ちなみにこれで何泊ぐらいできるものなんですか? あいにく来たばかりで、こちらの物価がわからないもので」


 横から覗いていただろう彼が、ちょっと感心したような心配しているような声を掛けてきたので、ついでとばかりに聞いてみる。あと小声になっていたけど「十ブラン銀貨ばかり」って、やっぱりこの上の通貨はありそう。


「ああ、そうですね。食事付きで十泊はできますよ」

「ほうほう」


 貨幣単位はブランで、約二百ブランで一泊できるっと。宿の程度が分からないけど、一泊五千円から一万円として五万円から十万円くらいの所持金となるわけだ。多いとみるべきか少ないとみるべきか。これからの出費を考えるなら心許ないかな? まあ雑貨屋での買い物次第か。


「何はともあれ、すっきりしました。お付き合いいただきありがとうございました」

「ええ、どういたしまして」


 これで大丈夫だろう。コインを仕舞い、ポーチを腰に巻く。……あ、そうだ。ついでのことで今晩の休むところも確保できないだろうか。店の裏手にでも置かせていただければ、暗い中で場所が分からなくなるということもないだろう。


「最後にご迷惑ついでに、今晩はこの店の裏にでも休ませていただけないでしょうか? ああもちろん外のですよ」

「はぁ……」


 また吐かれたよ、ため息。今にも顔に手を当てて首を振りそうな感じ。

 うん、無茶なお願いだとは承知の上。でも暗いのに寝床を求めて、外を徘徊するのは嫌だよ。


「……裏手でよければ、ご自由にどうぞ」

「ありがとうございます! お陰様で安心して休めそうです」

「それは何よりで」


 手は当てなかったけれど、疲れた声で首を振りながらではあるが、よい返事を貰えた。やったね、何事でも頼んでみるものだ。呆れられた気配があるのは気にしない、したら何かが折れるかもしれない。


「では、今度こそお邪魔しました」

「はい。壁沿いに歩けばすぐですが、気を付けてくださいね。さようなら」


 裏手に回るくらい大した距離でもない筈なのに、そこまで心配されるとは……自業自得か。

 荷物を背負って、店の入り口まで戻る。そして彼に一礼をして店を後にした。


 外に出ると右手を壁に着けながら裏手に回ることにする。暗くて足元も覚束ない状況、これで転んだりしたら、彼の心配が的中してしまう。

 いろいろお世話になった事だし、落ち着いたらお礼になるような何かを買っていこうかな。


 ――二度ほど角を曲がったので、裏手に出れたかな。転ぶこともなく、すんなりと進めた。

 辺りを見回すが、暗くて判断は難しい。広場からお店までには間隔をあけて建物らしきものが点々と見えたが、店から裏手に回ってみると柵らしきものが少し離れた場所にずっと続いているくらいである。


 まあ、ここなら人目に付くこともないだろう。安心してゲームを中断できるはず。

 コマンドメニューを呼び出して終了を選択すると、「ログアウトしますか?」とパネルがでる。下にある選択肢の「はい」を選ぶと意識が浮遊するのを感じた。

お読み頂きありがとうございました。


2018/9/25 一部表現や誤字等修正のため改稿。

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